第8話【柳祢子、登録者6000人!?】
袴田先生との一件から少し経った、その週の土曜日。
時刻は、夜八時二十五分。
私は、憂鬱な気持ちで机の前に座っている。
現在の登録者は、4900人。
今から、登録者5000人に到達するまで終わらない、耐久配信が始まる。
「はぁ……」
眺めているのは、配信開始前の待機画面。
リスナーたちの『待機にゃ~』というコメントを見ながら、深いため息を吐く。
登録者が4000人を超えてからは、Twitterでも『5000人耐久配信をやってほしい』という声が聞こえるようになってきた。
やるしかないのかぁ……。
リスナーの為にも、耐久配信をやろう。そう決意したのが、今朝だった。
八時三十分。
私は配信開始ボタンをクリックした。
「こんにゃ~。ねこはやなぎ、
お決まりの挨拶と共に、ポップなBGMを流す。
『こんにゃ~』『待ってました!』『こんにゃ~』『5000人の瞬間を見に来た!』
コメントの流れが速くなり、続々と配信の視聴者が増えていく。
開始一分を待たずして、同時視聴者数は1000人に迫っていた。
「きょ、今日は登録者5000人耐久をしていきたいと思うにゃ~」
言いながら、配信サイトの登録者数確認画面を表示する。
「ん、あれ……?」
思わず二度見した。表示されている数字は、『5010』
数字は止まることなく、増え続ける。
「みんな……目標、達成しちゃったみたい」
語尾に「にゃ」と付け忘れるほどの衝撃。
始まる前は確かに、5000人には到達していなかった。あまりにも早すぎて、なんだか拍子抜けした気分だ。
『うおおおお!』『おめでとう!』『開始数分で達成しちゃったww』『おめでとう!!』
私の気持ちとは裏腹に、コメント欄の勢いが増していく。
祝福のメッセージばかりが、私の眼前に広がった。
「あはは……ありがとうにゃ~」
『配信これで終わり?』
不意に、一つのコメントが目に留まる。
お祝いの中に、同じことを言っている人が数人いた。
「『配信これで終わり?』……うーん。色々準備してたから、これで終わっちゃうのは寂しいんだけどにゃぁ」
今日はゲームではなく、雑談や歌の配信でもしようかと考えていた。
あらかじめ、数曲のセットリストも作っている。
『気になる』『これで終わるのは寂しい』『何準備してたの?』
視聴者も食いついてきた。
私は何も言わずにBGMを消し、一曲目を流す。
「耐久のつもりでお歌を準備してきたけど、歌う前に5000人いっちゃったから……ありがとうのお歌配信にするにゃ! みんな盛り上がって行くにゃー!」
『うおおおお!』『この曲は!』『柳祢子、歌うのか⁉』『盛り上がって来たぁぁぁ!』
流れているのは、某有名アニメのオープニング。
イントロを使って一息に言い切ると、私は第一声を配信に載せた。
「はぁ……はぁ……次で、最後の曲にするにゃ」
一時間が経ち、時刻は九時三十分。
視聴者のコメントを拾って雑談も交えながら、4曲ほど歌い切った後。
『もう終わり!?』『まだいける!』『もっと歌聞きたい!』
「そう言われても、ねこの喉が枯れちゃうかもだからにゃ~」
視聴者の盛り上がりは最高潮。同時視聴者数は、既に2000人を超えそうな勢いだった。
『ねこちゃん、今の登録者数見てみてよ』
「今の登録者数?」
コメントに促され、配信画面に映したままの登録者数確認画面を見る。
「5990人!?」
驚いて変な声を上げてしまった。一時間前より、約1000人も登録者数が増えている。
「いくらなんでも伸びすぎだにゃ……」
『反応がw』『気付いてなかったのかよww』『反応かわいい』
驚いて固まっている間にも、登録者の数字は緩やかに増えていく。
「はっ⁉ こうしちゃいられないにゃ! 最後の一曲、歌うにゃ~!」
そうして流し始めた、最後の一曲。それは、私が子供の頃から聞いているもので。
私の、一番好きな歌だった。
特徴的な、ゆったりとしたイントロ。
情熱的ではないが、アツく語りかけてくるような歌詞。
私の声質にあった、女性シンガーの歌。
視聴者数はそのままに、コメント欄の流れはほぼ完全に止まる。
それは、柳祢子の歌声が視聴者を更に魅了したという、一番の証拠だった。
歌いながら、横目で登録者を見る。画面に表示された『6000』の文字。
それは、ついに週間ほど前の十倍にも上る数字だった。
―――
『
現時点での登録者数:6025人
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