第3話 優しいままでいてくれたなら
「寄り道ですって? ふざけないで! 早く、デイブレイク駅に戻りなさい!」
リアの声を無視して、運転手はスラム街の脇道に入り、City Cabのスピードをあげる。
そして、窓を開け、ダッシュボードから
加熱式タバコ独特のポップコーン臭が外に抜けてゆくと同時に、生臭い魚の匂いが車内に香ってきた。
女刑事の手を握り締めながら、じっと黙りこくっていたジュリエットが、ようやく囁くような声を出した。
「町はずれの波止場……こんな場所に来て、こいつ、ヤバイ……」
リアはしっと少女を諫めた。おそらく、ジュリエットの頭の中には、今、
「女刑事さん、そう構えないでさ、今日は非番で急いでなんてないんだろ。だったら、ちょっとだけ、俺の身の上話を聞いてくれよ」
「冗談じゃないわ! 私は生活相談員じゃないのよ。どうしても身の上話をしたいっていうなら、町の教会の神父にでも聞いてもらえば? 」
「あぁ? ダメダメ。この話は、ここだけの秘密なんだから」
若い運転手が、車を波止場の突端に止めた。
雨はいつの間にか止み、辺りにある明かりはぽつぽつと灯る街灯と、遠くに見える漁船の照明だけで、裏淋しい。生臭い魚の匂いを運んでくる夜の風が、嫌な予感をさらに強くさせた。
「俺はさっき通って来たスラム街の生まれでさぁ……」
City Cabのフロントミラーに映し出された運転手の顔は、浅黒い肌の顔に黒い髪がさらりとかかって、甘いマスクをしているとリアは思った。その反面、切れ長の目は
だが、運転手は、そんなことなどお構いなしに話を続ける。
「俺ってさ、親の顔は
「ちょ、ちょっと待ってよ。それって、家の中に閉じ込められたってこと? でも、食べ物がなかったら、あんた、生きてゆけないじゃん」
たまらず、声をあげたジュリエットに、若い運転手は、
「当たりっ。
― さっさと、死んで ― って。
「長くてしなやかな指が、俺の首に伸びてきた。そして、美しかったあの顔が見る見るうちに、悪魔みたいに変わっていった。俺は……あの時、別に死んでも良かったんだ。もし、
― 殺していてくれたなら ―
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