第2話 DEPARTURES


 私は夢を捨てなかった。

 順当にそこそこの大学に入って仲間内で創作活動を楽しみながらも、就活は全敗。


 ダメもとで出版社に飛び込むことで翻訳家兼フリーターという肩書きに進化する。

 分厚く名のある書籍の翻訳は新人が扱えるわけもなく、小さな媒体を細々とこなす。


「でも、これだって立派な執筆業だから!」


 二十歳そこそこ、在学中の頃から私は小説投稿サイトでも活動をはじめていた。


「評価されるには需要を知らなきゃね!」


 今まで馴染みのなかったアニメやソーシャルゲームにもアンテナを張り巡らせ、私は多くを吸収した。

 それでもやっぱり、何度も読み返した古典ファンタジーを読んでいる時間の方が落ち着く。


 私は納得がいかなかった!

 日常を呟くサービスと連動した文字媒体投稿サイト。

 ここに千文字くらいの徒然とした文章を日々したためたところ、思わぬ反響がありメンバーシップ作製や有料プラン記事化まで勧められた。

 それだけで終わらず、少ないながら批評やコラム案件も回ってくる。

 それ自体は喜ばしいことだった。

 おかげでフリーライターにクラスチェンジできたんだし。

 でも、納得いかない!


 渾身の想いを込めて魂を賭して描いた小説が、ずっと箸にも棒にもかからず、鳴かず飛ばずなのに!

 どうしてノリで書いたスカスカの出涸らしみたいな文章の方が共感されるわけ!?


 人から見たら贅沢な悩みかもしれない。

 顰蹙を買ってはっ倒されるかもしれない。

 でも〝素晴らしいファンタジーを書きたい〟が私の本心だった。



 私は和製ファンタジーを許せない!

 許せないってこともないけど、なんかイヤ!

 例えるなら、確かに日本独自のカレーも美味しいし素敵な料理として確立されてるけど自分が食べたいのは18世紀から脈々と受け継がれるインドのカレーって気持ち。


 ステータス画面が出てくるのが無理!

 レベルとかの概念も萎え散らかる!

 最初から純ファンタジーですって顔で始まったのに途中いきなり「明日がエックスデーだ」とか、ファンタジーみの感じられない単語が出てくるとそこで観るのやめたくなる!


 サークルの部長に「ファンタジーで真に好きになれるのは聖騎士の作品と子鬼殺しの作品の二つだけですね」って話したら、柔軟性がないって呆れられたっけ。


 嫌いじゃないよ?他のだって。

 面白いことには面白いし、全部読んだし観たよ?

 死に戻りもスライムも蜘蛛も盾も、他にもたくさん!

 悔しいけど全部、面白かった。

 面白くて、存分に楽しめたのが、私は悔しかった!


 私は私が信じるハイファンタジーを書きたい!

 両親からも将来を心配されてる。

 でも、金銭的にギリギリの生活ながら今の状態が一番執筆活動にリソースを割ける!


「二十五歳までだ!」


 潰しが効き辛くなる年齢、一つのボーダーライン。

 そこまでに形ある何かを掴むため、私の戦いがはじまった。


 何者にもなれないまま終われない!

 

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