娘と父とハイファンタジー

トモフジテツ🏴‍☠️

第1話 添削恐怖症

 私はファンタジーが大好きだ!

 世に出回る作品の全ては「ファンタジーか、それ以外か」くらいに思ってる。

 思うにとどまらず口に出したら大学時代の友達に「過激派だ」って言われたっけ。


 私がファンタジーというジャンルと出会ったのは物心ついてすぐの頃!

 火山に指輪を捨てる映画の一作目をリビングで父と観た。

 幼い一人娘との留守番中に洋画、それも字幕作品を流す父親って正直どうなの?って今でもちょっと思う。でも、お陰で出会えた!


 言葉も分からず字幕も読めない文ばかりだったのに、私の心は揺さぶられた!


 すっかり虜になってしまった私は三部作をひたすら擦り続け、時に他の作品も貪り、小学校時代を古典ファンタジーに捧げた。


 私は小説が好きだ!

 中学校にあがってゲームやショート動画、映える食べ物やお店が流行りだしても知ったことではない。

 映像作品から文字媒体にフィールドを移して、またしても中学校三年間はファンタジー漬けになる。

 きっかけを与えてくれた父の書斎には私が産まれるより前に誕生した名作が山ほど眠っていたので、深く感謝しながら根こそぎ持ち出した。


 私は小説の魅力に取り付かれた!

 人付き合いは決して悪い方じゃない、友達もそれなりにいる。

 でも部屋で一人、小説を読む時間が落ち着く。

 英語の成績がそこそこだった中学時代の経験から「ワンチャン、イケるくない?」と英和辞典を片手に翻訳前の原作にも手を出した。

 当然、父の書斎に並ぶ作品を片っ端から持ち出したものだから本棚は数年かけて所々がスカスカになっている。


 意外と読めるじゃん!

 実際、イケた。読めた。最初の頃は時間がかかったけど、それでも原作ならではの味わいを感じたり新しい解釈が生まれる瞬間は幸せだった。

 私はますます、小説というジャンルに没頭する。


 私は自分でも小説を書きたくなった!

 なったと言うか、気付いたら書いていた。

 家族共用のパソコンはあったけど我が家にプリンタはない、あったとしても正規の小説然としたフォーマットが分からない。

 それなら!と原稿用紙をいっぱい買ってボールペンで書いた。


 私は作品を書き上げた!

 高校生でこんなの書けるなんて天才!?と思わず舞い上がっていたのを今でも覚えてる。

 でも学校の友達に見せるのは恥ずかしい。

 ネットには小説投稿サイトがあると気付いても後の祭りだった。

 後の祭りでもないけれど、あの量をパソコンで打ち直すのも骨が折れる。

 何より、今すぐに誰かの感想が欲しい!


「お父さん、これ読んでみて!」


 私は、添削された。

 思えば父は昔から容赦がない。

 どういうわけか箸の持ち方や魚の骨の取り方なんかを、幼少期に泣くまで教育された記憶がある。

 成人した今となってはあちこちで褒められるから少し感謝してあげるけど、あれって虐待スレスレだったんじゃない?と今も根に持ってる。


 そんな父による赤ペン添削が、原稿にびっしりと書き込まれていた。


 この場面は表現方法に改善の余地がある。

 セリフのこれは文法的に誤りである。

 序盤から中盤への繋がりがおかしい。

 ここに矛盾が生じている。


 そんなのばっかり。

 大絶賛されると信じて疑わなかった私は、少し悲しくなった。


「作品一つ書き上げたんだから、褒めてくれてもいいじゃん……」

「それはまぁ、一理あるな」

「起承転結?ってやつも、できてると思うんだけど……」

「細部の詰めが甘い」


 それでもいい、父は作品にまっすぐ向き合ってくれたからダメ出しするんだ!と自分に言い聞かせ、私は冷静さを保とうとした。


「ところで、こんなものを書いていて大学受験は大丈夫なのか?」


 私の心はポッキリと折れる。

 拙いながらも大切な想いを込めて作り上げた作品をこんなもの呼ばわりされて、膝から崩れ落ちた。


 その日から、私は父と口を聞かなくなる。

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