第2話 AI

 僕は元々工場の監視装置にAIによる学習機能を組み込む仕事をしていた。

 工場は温度、圧力、流速、振幅や振動数や回転機の芯のズレ、水位、電流値、電圧、濃度など様々な数値を計測し、それを制御装置に送ってバルブ、ポンプ、ブロア、スイッチ、インバーターなどを操作する事である程度の自動制御を行っている。

 しかし燃焼や発熱や発酵などを監視するリアルタイムの映像やサーモグラフィー画像、機械の振動計に現れない僅かな異音や臭気など計測器では測れない不確定な挙動をするアナログ的な部分については自動制御装置ではコントロールが出来なかった。そういった部分は長年の経験や勘を持つ熟練のオペレーターやエンジニアが各機器の状況を目視や聴診や触診や器具による測定を行い、適正な処置行ったりたり運転パラメーターの修正を行ったりして最適化していった。

 しかし日本は高齢化社会に突入し、さらに若年層の現場離れが加速した事で、こういった工場の維持管理をする人材が不足するようになっていった。

 会社は新入社員を雇いその熟練の経験や勘を伝えようとするが、やる気の無い若者が多いため熟練者の教えをなかなか覚えず、少しでも難しい仕事を任せると、セクハラやパワハラを受けたと叫び、翌日の朝にスマホからのメッセージだけで会社を辞める事を伝えてくるような事が起こった。

 また学習意欲の高いやる気のある若者が入って来ても、ある程度の知識や資格を得た途端に別の条件が良い会社へ転職してしまうなどして会社から居なくなる事が多かった。

 熟練者もこういった若者を何度も見てきた事で教える意欲を失ってしまい、当たり障りないことしか教えなくなっていった。

 また熟練者が定年などで居なくなってしまうとその熟練の経験と勘によって支えられて居た部分を知っている人が居なくなってしまい工場では効率の低下やトラブルが頻発するようになっていった。

 そこで工場の経営者は熟練者が担っていた部分に学習プログラムを組み込む事を始めた。ただのアナログだった不確定な部分と実際に行われた結果の推移を膨大なデーターとして蓄積しつつ学習させる事で、どんな素人が確認しても適切な処置方法とパラメーターを表示させられる様にしようと考えたのだ。

 その結果、今まで工場は人間が頭を使い機械に命令して操作していたのに、機械から人間が指示されそれに合わせて何も考えず人間が動いても工場がうまく回るようになった。またパラメータを打ち込むなど人間で無くても操作出来る部分は機会が自ずと自らパラメータを操作するようになりオペレーターという仕事がなくなっていった。


 ある日僕は会社で受けた健康診断の結果が思わしく無かった事から、自分の体の状態を監視させAIに学習させれば健康体になれるんじゃ無いかと考えた。ベッドの近くに心拍数、血圧、体温、脳波、湿度、呼吸音、ガス濃度などを計測出来る装置を並べ、それによって得られた睡眠時のデーターをAIに学習させ始めたのだ。AIはネットとも連動していて世界中の情報を仕入れる事が出来た。だから僕がどういう事をすれば健康になるかをどんどんAIの出力端末にあげて来るようになった。

 しかしAIがあげる項目は膨大で自らの力で全てをこなす事が出来なかった。だから僕はこれまた高齢化社会や単身者の増加に伴うニーズにより開発された介護や家事が出来る人型ロボットを購入した。そしてAIと連動させ動いて貰う事をするようになった。


 運動があまり得意でない僕には人型ロボットにより電極を取り付けられ最適な電流を浴びせる事で筋収縮を行わせてくれた。僕は寝ながら運動し素晴らしい体を短期間で手に入れ健康体になった。まだ武骨でロボットそのものの見た目だった人型ロボットを僕にどんどん改造させていって僕好みの女性の姿と質感に変えていった。そしてAIはそのロボットに自分の分身であるアイですと言って、自分の手足として使うようになった。AIは膨大な学習により得られた結果をどんどんアイに反映させていった。

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