第2話 顔合わせ
「合…格?」
何故か私は受かっていた、面接官もあからさまな反応だったし、自分でもダメだと思っていた。けど、送られてきたメールはお祈りではなく「合格」の二文字だった
「え?は…?」
少しの嬉しさと大量の不安がごっちゃになり、思考が上手くまとまらない、ただひとつ理解出来たのは、その「合格」が手違いでは無いこと。なぜなら、赤いゴシック体で書かれた「合格」の2文字の前には、小さな文字で「篠川由衣様」と書かれていたから
「ほんとに…合格したの?」
私は、その現実を再認識する。それと同時に、心の底から嬉しさが込み上げてきた。まだ変わるチャンスはあるんだと、手遅れじゃなかったんだと
「やった…やった…」
私は、小さくガッツポーズをして、少し脚をばたつかせる。だが、次の瞬間、私の希望に少しのヒビが入ることとなる
「手続きって…外?!」
どうやら外出しなければいけないらしい
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「外に出るなんて何年ぶりだろ…吐きそう…」
数日後、私は小さなオフィスビルの前に立っていた、入口には小さく【Vhome】と書かれた看板が置かれている
「おえ…トイレ行こ…」
近くのコンビニに入り、トイレに駆け込む…が、トイレは使用中だった
「うわ〜…どうしよ」
普通なら開くまで待つのだが、生憎今日は時間が無い、どうしようか考えていると、ガチャリ。と音が鳴ってトイレの扉が開いた
『あっ』
トイレから出てきた人と目が合う、少しの静寂の後、相手は少し会釈をして去っていった
「はぁ…」
私は少しため息をついてトイレに入る。やっぱり人と目を合わせるのは苦手だ
「にしても、綺麗な人だったな」
そんなことを考えながら、用を足して、外に出る
「よし」
オフィスビルの前に立ち、自分で頬を叩いて気合を入れる。
「どこかで失敗しませんように…!」
家から持ってきたお守りを握りしめて、ビルの扉を開けると、歓迎するかのように暖房の少し暖かい空気が私の体を包み込んだ。
「えっと…手続きのところは…あそこか」
周りを見渡してみると、いかにもな窓口があったので、足早にそこへ向かった
「入所手続きの方ですか?」
「は、はい」
「ではこれにお名前、電話番号、住所等をご記入ください」
窓口の人はそう言って1枚の紙とペンを渡してきた。私はそれを受け取り、そそくさと記入する
「書けましたら2階上がって右にある会議室Bにてお待ちください」
「わ、分かりました」
紙を書き終え、窓口の人に渡して2階へ上がる、そして、会議室の前まで来てドアノブに手をかけた、その時、部屋の中から話し声が聞こえた
「ここ暑くない?」
「そうですか?私はちょうどいいと思いますよ」
「え〜、絶対暑いよ〜」
聞こえてきたのは…2人の女性の声だった。少し考えればわかる事だ、今日手続きしに来た人が私だけじゃないことくらい
「…どうしよう」
私は人と話すことが苦手だ、かと言って気まずい静寂も苦手だ。この部屋に入ったら確実にどちらかを強制させられることになるだろう。だが…
「私は変わるって決めたんだ!」
そう小さく呟いて、もう一度ドアノブに手をかけ、ドアを引く、部屋の中には、綺麗なブロンドの髪の女性と、可愛らしいピンク色の髪をした女性がいた
「し、失礼しまつ!」
噛んだ……噛んでしまった。第一印象を決める挨拶、そんな大事なところで犯してはならないミスを犯してしまった
「あ…ど、どうも…」
「ふっ…w」
ブロンド髪の女性は苦笑いで答えてくれたが、もう一人の女性は必死に笑うのを我慢している
「うぅ…」
項垂れていると、ブロンド髪の女性が私の顔を見て驚いたように声を上げた
「あ!あなたは!」
「ん、知り合い〜?」
「いえ!ここに来るちょっと前に少し会ったことがあって…」
「えっ?」
私はその言葉に驚いてすぐさま顔を上げる
「コンビニでお会いしませんでしたか?」
「………あ!」
なんと、部屋の中にいたのはコンビニにいたあの綺麗な人だったのだ
「あなたも手続きに?」
「え、あ、はい」
「ということは…同期になるんですね!」
「そ、そうですね…」
「私は
「自称美少女の三村舞ちゃんでーす、舞でいいよ〜」
「し、篠川由衣です、よろしくお願いします」
全員簡単な自己紹介をして、用意されていた席に着く、少しすると扉が開いて、スーツの男性が入ってきた
「こんにちは。僕はVTuberプロダクション「Vhome」の親会社、瀧川コーポレーション代表取締役の
「つかぬ事を聞くが、君たちは「面白い」と思うことはあるかな?」
瀧川さんは入ってくるなり不思議な質問を投げかけてきた
「面白い…ですか?」
「え〜、なんだろ〜。SNS眺めてる時とかかな〜」
「うん、それも「面白い」のひとつだね。」
「僕は面白いことが大好きなんだ、ゲームだったりアニメだったり漫画だったりね。でも、僕が一番面白みを感じるのは「育てる」ことなんだ。だから僕はVhomeを作って、自分の手でVTuberを育てることにしたんだ。」
「君たちも立派なVTuberになれるように願っているよ。」
「あ、はい、ありがとうございます!」
「もう手続きは終わってるから帰っていいよ。イラストとかは全部メールで添付して送るから確認しておいてね」
「は、はい!」
瀧川さんはそれだけ言って会議室を去っていった。なんというか、圧がすごい方だった
「ふぅ…あの人めっちゃ怖くない?」
「そうですか?私はいいひとそうだと思いますけど」
「そうかなぁ?」
「あ、私…そろそろ帰らないと…」
「あ、さようなら!」
「ばいば〜い」
私は少し会釈をして、逃げるように会議室から出た。まだ人と話すのは慣れないらしい。
「2人とも、いい人そうだったなぁ…」
そう小さく呟いて、私はビルを後にした
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