第38話 下の下の行いだっ!!
「どちらの勇者が優れているかテストしたいのに、邪魔しないでいただきたいですねえ」
マレブランケは柳の枝垂れのように、ひらひらとギマリリスの拳をかわしていく。
その足は地についている様子すらない。
「貴様っ! まともに戦えっ!」
「そういう肉体派の野蛮なところが、大嫌いなのですよ! ぬうううん!!」
避けながら、赤い蛍火のようなものを手に収束させていくマレブランケ。
それを頭上に掲げ、空に向かって撃ち出すと、空中で四散して降り注いだ。
まるで花火のように尾を引く残光。
「くっ! ……ん?」
咄嗟に防御姿勢に入ったギマリリスだが、光が彼女に向かうことは無かった。
代わりに、あちこちの瓦礫が道端に飛んで行った。
「貴様、まさかっ!」
光は、次々と倒れ伏した死体に吸い込まれていく。
胸から見えない手に掴みあげられたかのように、ずるりと起き上がってくる死体たち。
数は2、30体は下らないだろう。
命なき躯が、操り人形のようにのろのろと武器を手に動き出す。
「ンフフフ、意思なきものはいくらでも駒に出来るのですよ。さぁ、我が敵を打倒しなさい死体ども!」
「死体を下僕にするなど、下卑た発想を! 命を懸けて戦った戦士を侮辱する下の下の行いだっ!!」
怒りを込めて、ギマリリスが突っ込む。
しかし、その拳を、俊敏な動きで飛び込んできた死体が、鋼の剣を以って受け止めた。
「むっ、出来る!」
その死体は、白髪を後ろで結んだバーテンダー――ジェレバンの姿であった。
ギマリリスは知る由もないが、大介たちが契約した傭協酒場の主である。
酒場はマレブランケによって真っ先に襲撃され、壊滅したために、彼も命を失っていたのだ。
「どうです、いいでしょう? 正規兵などよりよっぽど強者が揃っていましたからね、再利用させてもらいましたよ。ンフフフフ」
「きっさまあああああああ!!」
だが、その怒りの拳は、ジェレバンの剣によって再び阻まれた。
そこに、次々と死体兵士が殺到する。
歴戦の傭兵たちの死体から生まれたそれは、肉体を顧みない全力を出せる分、あるいは生前より猛者であったかもしれない。
「くうっ!」
魔族四天王たるギマリリスをもってして、容易に切り抜けられる相手ではなかった。
死体の眼を白く濁り、眼と眼を以って魔術を伝播させ、相手を石化させる石眼も用をなさない。
それでも彼女は強者たちが振り回す剣撃を、恐るべき集中力で真横から剣の腹を叩く形で捌きつつ、蹴りで吹っ飛ばす。
だが、相手は死体。
すぐに起き上がって再び襲い掛かってくる。
「これではキリがないっ!」
特に、バーテンダーの剣技が並み大抵のものではなく、一人ならまだしも複数で攻めかかられると、とてもマレブランケどころではない。
「ンフフフフフ、苦労しているようですねえ。いいザマです。そぉれ!」
マレブランケはその手に煮えたぎる火球を生み出すと、人差し指の一振りでギマリリスに向けて打ち出した。
「なっ……!?」
彼女の周囲には、死体兵が集まっている。
必死で突き飛ばしたが回避が間に合わない。
火球は無情にも眼前に飛来し、そのまま空中で炸裂した。
爆風が死体兵ごとまきこんで、高熱を纏って吹き広がる。
「ぐああああああっ!?」
空爆でもあったかのような衝撃に、ギマリリスの体は猛烈に後方に吹き飛ばされて家屋の壁に激突。
「がふっ!?」
肺から空気が一気に吐き出され、呼吸が止まる。
一瞬遅れて、背後の壁が崩れ落ちた。
そこに、体を燃え上がらせながら白髪のバーテンダーが突きの態勢で突っ込んでくる。
「……!?」
やられた、とギマリリスが目を閉じた瞬間、金属音が響き渡った。
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