第34話 だから言ったでしょう。勇者マカナだと
灰色に艶がかった肌、それはミケランジェロのダビデ像を思わせる。
きわめて正確に人体を写し取ったとしか思えない、完全なる均整の石像が、そこにあった。
異様なのは、それがセーラー服の少女だということだ。
古代ギリシアやルネサンス期の彫刻を思わせるそれが、ミニスカートであることが、えも言われぬ異様さを醸し出している。
小柄で愛らしいどこにでもいそうな少女の精巧な石像が、しかも生き物であるかのように動いている。
「な、なんだ……」
ポロリュテーが面を食らうのも自然と言えた。
「だから言ったでしょう。勇者マカナだと」
「そんなわけあるかっ!」
「おや、聞いてはいませんか? 魔族四天王のギマリリスに、勇者マカナが敗れたと」
「!」
「ンフフフ、聞いているようですね。勇者マカナはですね、ギマリリスの石眼によって石化させられたのです。そして、戦利品としてデスマースに持ち帰られようとしていましたのでね、私が頂戴して、ゴーレムを操る術でこうして手駒としたわけです。ンフフフフフフフフッ!」
マレブランケが喜悦に顔を歪める。乾いた皮膚がパキパキと音を立てるが構う様子もない。
「……そうか! オレらの野営地を潰したのも……」
「そうです、そうですよ。マカナのテストです。ええ、想像以上でしたよ。いえね、勇者の力を発揮できることはテスト済みでしたよ? しかし、耐久力まで残しているとは想像以上でした。石の強度では使い道が限られてしまいますから。いやー、有意義な戦闘テストになりましたよ。ンフフフフフ」
ポロリュテーの額の血管がはち切れそうなことに気づいていないのか、マレブランケはわざとらしいほどに大きな身振りで嗤う。
「感謝してくださいよ。虫のように這いつくばるあなたの部下たちにトドメを刺すのは簡単でした。ですがあまりも哀れでやめてあげたんです。ま、ここまで死体兵にして連れて歩くには邪魔だったというのもあるんですが。ンフフフフフ」
「叩き殺すっ」
ポロリュテーは半ばから折れ、鉄板のようになった剣を腰だめに構え、突っ込んだ。
マカナの石像は、燃える聖剣を大上段に構えた。
それはポロリュテーからすれば隙だらけのはずであったが――
「っ!?」
彼女の背筋を駆け抜けた強烈な悪寒に、思わず大剣を頭に被せるように掲げていた。
それはほとんど反射的だった。
だが、それが生死を分けた。
鉄板の如き大剣が、ガラス板のように砕け散る。
マカナによる電光石火の踏み込みからの打ち下ろしがさく裂したのだ。
それでも突っ込んでいたポロリュテーの勢いは止まらない。
くしくも、マカナは上段へ打ちつけたあと、反動で両腕を振り上げている。
胴ががら空きになっていた。
「うがああああああっ!!」
そこにポロリュテーが肩口から突っ込んだ。
体当たりとしても十分な威力があるはずであった。
実際、ポロリュテーは牛と組みあっても投げ飛ばし、犀とぶつかっても犀が吹っ飛ぶほどの剛の者だ。
先ほどは石の塊であるゴーレム兵すら、あっさりと弾き飛ばしてみせた。
「う、ぐ……」
しかし、動かない。
マカナはびくともしなかった。
懐に飛び込んだ相手に、剣での攻撃は向いていない。
マカナはポロリュテーの胸当ての背中側のバンドを無造作に掴んだ。
そして、その細身からは想像もつかぬ剛力で、ポロリュテーを投げ飛ばした。
その刹那、アマゾオンの女王は見た。
マカナの石像が、涙を流しているのを。
「!」
ポロリュテーは空中をすさまじい勢いで吹っ飛び、煤けた煉瓦の壁に突っ込んだ。
「がふっ!?」
おもちゃのブロックのように煉瓦は粉々に吹っ飛び、瓦礫となってポロリュテーの体を覆いつくした。
土煙が爆弾でも落ちたかのように舞い上がっていた。
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