第33話 ゴーレムなどではありませんよ!
「いやー、良かった良かった。女王の無様な姿を、もっと臣下にお見せしたかったのですがね、まさかここまで逃げ足が速いとは。誰もいなくなって困っていたのですよ。よほど勇者というシステムに頼り切った適当な統治だったのでしょう。ンフフフフ」
マレブランケは、ポロリュテーの全身より放たれる怒りに気づいていないのか、あるいは気にしていないのか、笑い続ける。
「黙れ。お前には、オレが報いを受けさせるっ」
ポロリュテーが構えたのは、大剣という言葉では収まらないほど、とてつもなく巨大な剣だ。
なんとなれば、ポロリュテー本人より巨大である。
長さは2メートルを超え、幅は40センチほどであろうか。
「ンフフフフ、面白い武器ですね」
「黙れと言ったぞ! うがあああああああああああああっ!」
その巨大な剣を抱え、ポロリュテーが突っ込む。
「ひいいいっ!?」
鬼神のような気合に、アーク・メーヴェは驚き飛びずさった。
そこに女王としての威厳はなく、さりとて向かってくる憤怒の化身もまた女王としての気品などかなぐり捨てていた。
ポロリュテーの突進に、先頭のゴーレム兵が吹っ飛んだ。
剣すら使っていない。ただの体当たりである。
しかし、まるでボーリングの玉のようにゴーレムが飛んでいき、後ろに並ぶ別のゴーレム兵を、ピンのようになぎ倒した。多重にぶつかり、重みで石くれとなるゴーレム兵たち。
石垣のようになった中から、起き上がろうとする一体のゴーレム兵の頭を、女王の足が踏み砕いた。
そこに、骸骨たちが提灯を投げ捨て、その腕を外し、鋭利に尖らせた骨を突き出して攻め寄せる。
「がああああああああああああああ!!」
ポロリュテーが裂帛の雄たけびとともに、巨大な鉄板の如き剣を一閃。
地球で言えば、ヘリコプターのローターのようなすさまじい斬撃に、骸骨兵たちがまとめて5、6体、粉々に吹き飛ぶ。
一瞬遅れて暴風に等しい風が巻き起こった。
いかなる腕力か、それほどの回転を力づくで止め、そのまま今度は縦に振り下ろす。
4の字を描く軌道で打ち下ろされたそれは、爆撃のような破壊力を以って、正面の骸骨たちを打ち砕いた。
すでにこの時点で骸骨の兵どもはその数を半分ほどまで減らしていたが、ポロリュテーの勢いは全く止まらず、寄せ手が近づくや、即座に叩き伏せた。
あまりの勢いに攻撃らしいものを加えることすらできず、骸骨兵たちはみな粉微塵にされていた。
「ンフフフ……まったく困ったことだ。リサイクル品とは言え、死体からの処理は面倒だというのに」
「うがああああああああああっ!」
ポロリュテーはマレブランケの頭上まで飛び上がり、稲妻のように剣を振り下ろした。
骨の象がいななくように体を持ち上げ、鼻で打ち返そうとする。
しかし、剣の勢いは止まらず、象の鼻ごと頭をたたき割る。
持ち上げたままの上半身が丸ごと真っ二つに引き裂け、砕け散っていく。
「ンフフフ、危ない危ない」
マレブランケはポロリュテーの頭を飛び越し、ふわりふわりと反対側に降り立った。
その手にリードはもうなく、アーク・メーヴェは自由となっていたが、それを甘受することはなかった。
あまりの衝撃に気絶していたからである。
骨の破片をまるで枕とするように、頭から白いカルシウムの山の中に突っ込んで、尻だけをさらしていた。
そんなことなどお構いなしに、ポロリュテーは怒りの眼でマレブランケを見据える。
「さすがアマゾオンの女王ですね。いやいや、少々悪ふざけが過ぎました。ここまでとは。同じアマゾネスでもここまで違いますか。そういう意味では、力で統制される我々と近いかもしれませんね。ンフフフフ……」
「オレをアマゾオンの女王と知ってふざけた口をきいてたのかっ! どこまでも勘にさわる野郎さっ! 配下の無念を晴らすため、お前を八つ裂きにしてやるっ!!」
極大剣の切っ先を、マレブランケに突きつける。
一方のマレブランケは、体を大きく揺さぶり、笑い始めた。
「ンフフフフフフ! よろしい。非常によろしい。初めてテストになりそうですよ」
その体の揺れが大きくなる。
もはや笑いの揺れではなかった。
空間を揺さぶる振動であった。
「何してるっ!」
「いえね、私はね、こんな体です。自らを鍛えて強くなることは出来ないんですよ。だからゴーレム使いになりましてね。ンフッ、死体も使いますよ。要は生命無きモノを操って自身の代わりに扱うのです。ただ、外法だとご同輩には認めてもらえないのが悲しい限りです。ンフフフフ」
「話が長いっ! 答えないんなら、このままたたき切るだけさっ!!」
しびれを切らしたポロリュテーが大剣を横殴りに叩きつける。
が、その刀身が、真っ二つに折れて吹っ飛んだ。
「なっ!?」
あまりの出来事に、ポロリュテーも絶句する。
彼女の大剣は、たった一人の持つ一振りの剣で受け止められていたのだ。
マレブランケが空間を割いて呼び出したらしく、その人物の周囲がガラスのように宙が割れている。
「なん……だ、お前は……?」
必殺の一撃をたやすく防がれて、茫然とアマゾオンの女王は呟いた。
その目に映っているのは、石像であった。
それも、小柄な少女を模した精巧な石像である。肩口にかかる髪の一筋に至るまで石であり、その精緻さは見る者に息を飲ませる迫力があった。
「ゴーレム、なのさ……?」
「ンフフフフフフフフフフフフフフフッ!!」
ミイラが、背骨が折れんほどに体を後ろに反らせて笑った。
「ゴーレムなどではありませんよ! これは勇者マカナです!!」
「は!?」
石となった勇者が、炎の聖剣の燃え上がる切っ先をポロリュテーへ向けた。
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