第28話 ……ジョイトイ?
「いつまで寝てんのよ! 起きなさいよ!」
翌朝、大介を目覚めさせたのは、その一言だった。
「うわあっ!?」
折あしく、大介は悪夢を見ていた。
昨日は血塗れの野を見たのだ。無理もない。
無数のアマゾネスたちの死体に纏わりつかれる夢であった。
ゆえに、突然の声に驚き、彼が飛び跳ねたのも自然なことであった。
彼の上にまたがるように立っていた人物にぶつかってしまったのも、仕方のないことであろう。
結果として、その人物は股間を大介の胸に打ち付けた上、ひっくり返って豪快に股ぐらを見せる羽目になった。
「……ジョイトイ?」
起き上がった大介には股ぐらしか見えない。
自身が寝ぼけているかと思ったくらいであったが、そうではなかった。
『こいついつもM字開脚してんな』
ルサシネである。
「もう! 何してんのよ! バカッ!」
赤髪の少女は、その髪と同じように顔を真っ赤にして叫んだ。
勢いよく起き上がるものだから、ビキニアーマーの胸部分がずれてポロリしてしまうあたり芸術点が高い(サキュレ談)。
むろん、そのせいで理不尽に大介の頬がはたかれるのであったが。
「……ル、ルサシネ?」
「そうよ。あたし以外にこんな美貌がいる?」
「……間違いなくルサシネだな」
大介は、辺りをきょろきょろと見渡した。
既に焚き火は消え、夜も空けている。早朝と言ったところだが、腹の減り具合からしてまだ7時にもなっていないだろう。
土まんじゅうが並ぶ平原には、ルサシネの他に、例の大八車な馬車とホルシュがいた。
そして、両腕を縛られたギマリリスの姿もあった。
だが――
「ポロリュテーは? アマゾネスたちは?」
「は? 誰それ。っていうか、ここは何? 戦闘のあとみたいだけど……」
「……よし一旦状況を整理させてくれ」
ホルシュとギマリリスも集め、4人は話し始めた。
「まず、俺の方からだけど、みんなが口論してる間に、アマゾオンの女王・ポロリュテーにさらわれたんだ」
「はぁ!? 何やってんのよアンタ!」
「だ、大丈夫だったんですかぁ!? そ、その……な、なに、な、な、何もされてませんか?」
ホルシュの顔は真っ赤だ。
何を想像しているか、非常にわかりやすい。
「……何もされてないよ。この辺りを見てもらえばわかるけど、それどころじゃなかった」
「少し向こうを見てきたが、血のにおいが凄まじかったな。大規模な戦闘があったようだが」
ギマリリスが鼻をひくつかせて言う。
獣耳をしているとはいえ、鼻は人間のそれと変わりないが、嗅覚は優れているのかもしれなかった。
「……ああ。詳しくはわからないが、どうもアマゾネスの陣が魔族に襲撃されたらしい」
「馬鹿な。有り得ん。アマゾオンとは戦わぬ方針だ。私の手を離れた下々の軍が、わざわざ交戦するとも思えん」
「ホントかしら?」
「フン、下衆の勘繰りだ。我らはノルマースの地が欲しい。アマゾオンの所領はさほど大きくなく、うまみがない。まして本国でない仮の野営地など、戦ってまで欲しいと思うか? アマゾオンにしても、夫として魔族を欲しはせん。つまり、互いに戦う理由などないのだ」
ギマリリスは胸を張り、顎先で陣地の燃え後を指し示す。
「それに、あの戦場跡に魔族や魔物の血の匂いはせん。勇猛で知られるアマゾネスと戦っていたのなら、下名らとて無傷ではすむまい。魔物の血が下に落ちるはず。だが、アマゾネスの血こそあれ、それがないのだ。何より下賤なゴブリンどもの獣臭が残っておらん。魔族の軍というのは有り得んことだ」
「だが、俺は女戦士から、はっきり聞いた。魔族の四天王だと。石のゴーレムとかなんとか……」
「石のゴーレムだと……?」
ギマリリスの表情が、瞬時に強張った。
「マレブランケか……!!」
その言葉からは、苦虫を噛み潰したような響きがあった。
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