第25話 子どもは10人欲しいねっ

 魔族たちが陣取っていた平野を、馬が駆ける。


 大介を後ろに乗せ、馬を走らせているのは筋肉質の女であった。

 快活な印象を与える太繭に金色の巻き髪、小麦色の肌は、まさに夏の日の麦畑を思わせる。長い三つ編みが、バタバタと揺れている。


 異様なのは、彼女の着ている服だ。


 体操服、が一番イメージに近いだろう。

 しかも、昭和のそれに酷似していた。


 面積の薄い紺のブルマは、鼠径部をのぞかせており、白い上着は、胸の下端が見えているくらいに短い。

 いわば、羞恥心を置き去りに動きやすさだけを追求した服であった。


 馬上とはいえ、そんなものに密着しているのだから、大介も平常心ではいられない。

 だが、離すわけにはいかない。


 乗馬経験のない大介が彼女の腰に回した手を離せば、即座に振り落とされてしまう。

 時速にして40キロほどであり、落ちれば無事では済まないだろう。


「どうしたダーリン、もっとしっかり掴めっ」


「掴めって言われても……」


 鍛え上げられた腹筋ではあるが、ほんのり高い体温が伝わってきて、意識してしまう。


「遠慮はいらないぞっ」


 女は手綱を左手だけで掴むと、大介の手を胸まで持ち上げた。


「ぶふぉっ!?」


「そこの方が掴みやすいだろっ?」


 確かにごつごつした腹筋と違い、柔らかな感触が腕から伝わってくる。


「なにしてんだ!?」


「はっはっはっ、照れないでもいいぞっ。……うん、それに」


「!?」


 むんずと後ろ手で股間を握ってくる。


「なんだ、ちゃんと反応してるじゃないかっ。あまりにも奥手だから、不能かと心配したんだけどなっ。やー、杞憂だったなっ」


「だから何してんだよ!?」


「何って何だっ? 夫が子を残せるかを確認するのは大事だろうがっ」


「いや、そもそも夫ってなんだ!」


「はっはっは。オレの夫に決まっているだろダーリンっ。子どもは10人欲しいねっ」


「ちょっと待て! というか少しは話を聞いてくれ! まず、アンタ誰なんだよ!」


「ああ」


 女は呆けたような声を漏らす。


「オレは、ポロリュテー。アマゾオンの女王だっ」


「なっ……!?」


 アマゾオン。


 それはホルシュからこの世界について聞いた際にも、教えてもらっている。

 女性だけで構成された国家であり、その国民の大半は戦士でアマゾネスと呼称される。


 ギリシア神話のアマゾーン族と酷似した国家形態であるが、名前まで似ているのは出来すぎだが、あるいは、ずっと昔に地球から来た転生者によってつけられた名前かもしれない。


 そんなアマゾオンではほとんど女性しか生まれず、配偶者は近隣の国家で略奪して得る。

 男は子を産むための道具である。産みたい数を得るまで、奴隷として飼われる存在という。


 実際には移動の自由以外はほとんど保証されており、食べ物もじゅうぶん与えられるし、一定期間が過ぎれば国元に返される、とはサキュレの談。


 だが、剛毅なアマゾネスたちに振り回された男は、大いに老け込み、女性恐怖症になって帰ってくるうえ、何も語りたがらないので噂が広がるままになっている。


 また、その略奪の激しさは魔族と同等に恐れられており、アーク王国の防備が北部側に偏っている原因でもある。


「心配いらないぞダーリンっ。女王の夫は奴隷じゃない。豊穣をもたらす神子として丁重に扱われんだっ。生涯、オレが守るからさっ」


「い、いや、そういうことじゃない。なんでそんなに俺をかってるんだ。俺なんかそんな大した男じゃない」


「何を異な事を。オレは見てたんだっ。ダーリンが一騎討ちで魔族の将軍を打ち倒すのをさっ」


「あっ」

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