第24話 女子はそういう視線、わかっちゃうから……

 大介は静かに距離を取っていた。

 その肩に、サキュレがポンと手を置いた。


『言うまでもないだろうが、アイツら全員処女だぞ』


「そう……」


 現代人である大介は必ずしもそういうことを気にしない。

 というより、ひと様のことを言える身分か、という思いが強い。


 ただ、それとは別に、純粋に気圧されていた。


『いい加減慣れろ……ったく、死を前にしてヘタレが直ったかと思ったのに、しり込みしてんじゃねーぞ』


「……ありがとな」


『は?』


 サキュレは目を丸くして、上下にふわふわと揺れた。


「あんとき、発破かけてくれて。……お前の言う通りだよ。俺は別に紳士ってわけじゃない。女にビビってただけだ……」


『わ、わかりゃいいんだよ』


「それはそれとして、やっぱあのノリは苦手かもしれん……」


『まぁ、アレはねーよ。ぶっちゃけ』


 生暖かい視線を三人に向けるサキュレ。


 三人は、


「いいから引っ込んでろ下等種族! ああ、胸は引っ込んでたか。腹ならよかったのにな!」


「なによこの下品魔女!」


「誰が下品だ! ははーん、勇者が下名に執心なのに嫉妬しているな。下世話なことだ」


「だ、ダイスケさんは別に、貴方に興味はないと思いますっ……」


「はははは! 馬鹿め! 奴は下名の胸をもんだのだ! 貴様のように下品な胸ではなく、この下名の均整のとれた胸をだ! これこそ奴の下劣な獣性の発露にほかならん!」


「わっ、私はダイスケさんの裸見ましたもん! すごくお元気でしたもん! 私の胸を見て元気でしたもん! ……ああっ、私なんてことを……は、はしたない……」


「ちょっと、アンタまでなに言ってるのよ! あ、アタシだって、アイツの視線感じるし! ビキニアーマーのおしりのところとかっ!」


 どんどんヒートアップしていく。


「もうやめてくれ……」


 大介は顔を真っ赤にして両手で覆う。


『まぁ、女子はそういう視線、わかっちゃうから……』


 やさしみ。


『……っておい!』


「え?」


 サキュレの鋭い一声に、大介が顔を上げた時にはもう遅かった。


 突如背後から走ってきた馬と、それにまたがった女によって、大介の体は持ち上げられてしまっていた。


 なんという腕力か。

 腕一本の力で大介を釣り上げ、馬上に乗せてしまう。


「え? え?」


 あまりに一瞬の出来事ゆえ、大介自身も何が起こっているのかさっぱりわからない。


「ダーリン! 我と子どもを作ろうっ!」


「はぁ?」


 馬に乗った女は、その馬の腹にムチを打ち、一気に疾走させた。


『くそっ!』


 とっさに馬の尻尾を掴んだサキュレを除き、それに反応できた者はいない。

 馬は、ゆうゆうと平原に走り出していった。


「よーし、そこまで言うなら、はっきりさせてやろうじゃない! ダイスケに決めてもらいましょうよ! 誰が一番、魅力的かってこと!」


「はははは! 望むところだ! 下剋上ですらない! あまりにも決まりきった勝負だからな! 勇者が下手物好きであれば別だが!」


「だ、ダイスケさん! 信じてますからねっ……あら?」


 振り向いた三人が見たのは、何もない平野であった。


「「「ゑ」」」

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