第20話 その下衆な視線で下名を下層に貶める下劣で下品な妄想をしているんだなっ!!
そこに、声が響いた。
何もない前方の虚空から。
それに驚くより早く、空間が避け、砕けた。
鏡が割れるように、赤さびた空間が現出する。
赤さびの空間が広がり、そこに大介たちを引きずり込んだ。
未知の不快感に全身が総毛立つ感覚。
だがそれも一瞬。
一行の目の前に、魔族の大群が現れた。
『デスマリスの馬鹿が……!!』
のちにサキュレが語ったところによると、魔族は魔法の行使に魔導書を必要としない。
ノルマリスは6日間かけて世界を作り、7日目に魔法を作ったが、デスマリスは5日間怠けて遊び、慌てて2日で世界を作った。それでも間に合わずに9日かかり、その9日目に魔法をシステムとして構築せず、種族の固有能力として与えてしまった。
その結果、魔族はごく自然に異常に強力な魔法を行使できるのだ。
例えるなら、人間が電力を使わずに、電気機械を動かせるのに等しい。
サキュレが毒づくのも当然だろう。
いま、大介たち一行を、空間を割いて引き寄せた魔法もその一つだった。
「斥候にしては不用心。下策だったな」
大介のすぐ正面に、魔族の若い女が立っていた。
奥に並ぶ兵士たちと比較するに、高い地位なのは間違いない。
そばにいる巨大な角を持つ巨漢も相当強そうに見えるのだが、そんな魔族すら畏怖を持って彼女の後ろに控えている。
地位は力の強さである魔族のことだ。彼女の強さも推し量れようというもの。
『チ……将卒かよ……いや、コイツ……もっと上……』
女の頭の位置は大介より上にあり、175センチほどだろうか。すらりとした長身だ。
黒い髪をショートカットにしていることで、スポーツ選手のような爽やかな印象を与える。
魔族だと断定できるのは、黒髪から真上に伸びた大きな獣耳とその間から覗く4つの角、それから何より薄青の肌だ。
加えて、その肌を覆っているのは服ではなく、黒い体毛であり、それが競泳水着の布地を極端に減らしたような形になっている。
服と言えるものは全くなく、レイピアを下げるためのベルトだけがあり、それが犬のような尻尾の上を通っていた。
「おい、答えよ下郎。お前らは何者だ」
「あ、あ……」
ホルシュもルサシネも震えて答えられない。
だが大介は恐怖よりむしろ、そのあまりにきわどい姿に顔を真っ赤にして言葉を失っていた。
「……?」
そんな大介をいぶかしむ魔族。
「答えろと言っている。答えなければ殺す」
「は、……はだかじゃん……」
「は?」
本人すら思わぬ一言が飛びだした。
「なんだと?」
あまりに恥ずかし気な様子に、魔族すらもあっけにとられる。
「まさか下名のことを言っているのか?」
下名、とは一人称の一つだが、大介はそれを知らない。
なんとなく頷いた。
「げっ……!!」
瞬間、魔族の顔が真っ赤に染まった。
それは大介と同じ羞恥の赤ではなく、怒りの赤であった。
青い肌に赤が浮かび、境目が紫に染まる。
「下劣! そのような視線で我が体を見ていたのかっ!!」
「ご、ごめん!」
「下卑た男め……! その下衆な視線で下名を下層に貶める下劣で下品な妄想をしているんだなっ!!」
下下言われても何のことだかよくわからない。
大介は曖昧に笑うと、それが更に彼女の怒りに火をつけた。
「バッ、バカダイスケ!」
ルサシネが咎めたがもう遅い。
「……このギマリリス。陛下より四天王位と神聖なるリリスの名を下賜されてより、これほどまでの下賤な恥辱を受けたことはない……!!」
『四天王だと!?』
サキュレが驚愕の声を上げた。
「貴様が何者かなどもはや構わん! 始末してくれる! あの勇者のようにな!!」
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