第15話 一杯、ひっかけてくか?

「よし……!」


『オイ、まさかお前死ぬ気じゃ……』


 大介は意を決し、走り出した。

 そして、未だ電撃の痛みに怒るゴートスフィンクスに手を突き出と――


「『感度を三千倍にする』能力!!」


 ピンク色の閃光が掌から迸る。

 それがハートマークをまき散らしながら、ゴートスフィンクスの全身を包み込んだ。


「ギョエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」


 絶叫が響き渡った。

 山羊頭が、狂ったように吼えまくり、泡を吹いてもだえ苦しみだしていた。


 感度を三千倍にされたことで、痛みも三千倍になったのだ。


 どこから攻撃されているかもわからずに、ねずみ花火もかくやといような転げまわりぶりで、そのまま川に落ちると、のたうち回りながら深みにはまって流されていった。


「な、何とかなった……か……」


 全身から力がどっと抜ける。

 結末はともかく本当に命を懸けた戦いだったのだ。それも無理はない。


『お前なあ……だから、チート能力で工夫して勝つとかそういうのを求めてるわけじゃねえんだよ……』


 サキュレはそう言うが、言葉ほどがっかりした様子が見られないのは、せっかく転生させた人間が死なずにすんだからなのだろう。


「さ、流石勇者さまですぅ!」


 ホルシュが子どものように飛びついてきた。


「あんな魔物を一発で退散させるなんて、すごいです!!」


「や、やめてくれ……」


 腕に抱き着くものだから、ダブルメロンが腕に当たって大介の顔が真っ赤になる。


『そうそう、こういうのでいいんだよこういうので』


「ラッキースケベには寛容なのかよ」


『たまにはそういう日もある』


「何だよそれ……ん?」


 と、大介はルサシネの姿がないことに気づく。


「ルサシネ? どこだ? さっきの大暴れに巻き込まれてないよな?」


 そうして辺りを見渡すと、居た。


 川の中に。


 腰まで川につけて直立していた。


「お前、何でそんなところに……」


「大丈夫ですかぁ!? 引き揚げますから待ってくださいね」


 と近づこうとするので、


「こっち来るんじゃないわよ!! 来たら殺すから!!」


「へ?」


「あっ……」


 ルサシネは顔を真っ赤にしている。


 大介は知っている。

 小学校低学年の頃、一人の友人が急に川に飛び込んだことがあった。


「お、泳ぎたくなって」


 なんて無茶苦茶な言い訳をしていたが、答えは明白だった。

 そんな思い出が急によぎる。


 つまりは、そういうことなのだろう。


 生温かい目で見てしまう。


「だから見るなああああ!!」


『イヒヒヒヒヒヒヒ!』


 半泣きで叫ぶ彼女の様子に、サキュレが腹を抱えて笑っていた。


 そして、川面を指さして言った。


『一杯、ひっかけてくか?』


「かけるか!」

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