第14話 エロ能力を使ってみるしかない……!
「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
それは、いた。
瞳孔が真横に伸びた目、長く伸びる舌、アンモナイトのようなねじくれた角に、獅子の体――
「ゴ、ゴートスフィンクスですぅ……!!」
山羊頭のスフィンクスが、河原の小石を跳ね飛ばしながら疾走してきている。
軽自動車に匹敵する3メートルほどの巨体の突進は、生物に死を想起させるほどであった。
「つ、強いのか?」
「当たり前でしょ!!」
ルサシネは大介が腰に帯びていた剣を勝手に引き抜くと、迫りくるゴートスフィンクスに向けて構えた。
「き、来なさいよ!」
行けるのか、大介はつい期待したが、ルサシネの足はガタガタ震えていた。
『せっかく助けてやったのに死んだらムダになるから、マジな話してやる。あれはお前らが勝てる敵じゃねえぞ。デスマリスの馬鹿がバランス考えずに作ったバケモノだからな』
サキュレがいつもの笑みを消して言う。
「……っ! やめろルサシネ!!」
地面を踏み鳴らして突進する山羊頭はもう接近してしまっている。
今さら真正面に立ってしまったルサシネをかばえそうにもない。
「くそっ!」
大介は咄嗟に足元の石を拾い、力いっぱい山羊頭に投げつけた。
素人の投擲ではあったが、幸運にも山羊の角に激突した。
いや、不運だったのかもしれない。
思わぬ衝撃に、ゴートスフィンクスの動きこそ止まったものの、明らかに標的を変えてその横長の瞳で大介を睨みつけた。
「うぅるるるるるる……」
『バカ、怒らせただけだぞ』
「わ、わかってる!」
大介は漬物石のように大きな石を拾い上げ、盾のように構えた。
が、次の瞬間、ゴートスフィンクスの腕の一振りで、その漬物石はあっさり砕け散った。
衝撃の凄まじさに、大介は吹っ飛ばされる。
「うあああああ!?」
そのまま河原の砂利に突っ込む。
「かっ!?」
握りこぶし大の石に背中をぶつけ、息がつまる。
まともに食らっていたら顔が千切れ飛んでいたかもしれない。
だが、それすらもゴートスフィンクスからすれば牽制程度の一撃だったのだろう。
そして、獲物は弱しと見て、うなりを上げた。
『早く起きろ! 殺されるぞ!』
「かっふっ……」
柔道で受け身を取りそこねて苦しんだ経験は何度もある。
それでも石の上に背中から落ちたことはない。
あまりの激痛に即座に起き上がることが出来ない。
大介に襲いかかろうとしたゴートスフィンクスに斬りかかったのはルサシネだった。
「何やってんのよっ!」
彼女は全力で斬りかかっていたのだろう。
しかし、獣の剛毛は刃を受け止める。
安物の剣では切り裂くことができず、鉄の棒で叩いたようなもの。
それでは山羊頭を怒らせるだけだ。
「ふしゅるる!」
「きゃあっ!?」
ルサシネは腰が引けていたおかげで、腕の一振りが直撃せず、命を拾った。
もし前のめりであったらその爪は剣ではなく、体に直撃し、たやすく引き裂かれていただろう。
剣は砕け、その剣先は遠くまで吹っ飛ばされていった。
「ひ……ひぃっ……!」
「我らが母ノルマリスよ……その威光を示したまえ!」
そこに魔導書を手にしたホルシュの詠唱が響き渡る。
第七粒子が青く輝き、神の奇跡を顕現させる。
「ライトニングタスク!!」
ホルシュの眼前に青い静電気が爆ぜ、そのままそこから稲妻が真横に迸った。
「がうっ!」
ゴートスフィンクスの横腹を突き刺した稲妻の槍。
「おおっ!」
「どうですっ! 私だって神官なんです! とっておきの魔法を使えばこのくらい……」
「ぎるるるるる……!」
残念ながら仕留められるほどの威力はなかったらしい。
激しく怒り、山羊頭が睨みつける。
「ひうっ!」
恐怖のあまり、ホルシュは逃げ出して大岩の陰まで逃げ隠れてしまった。
それでも、自然界ではまず味わうことのない痛みと痺れに獣の動きが止まった。
思わぬ痛みを受けて、警戒しているのか、ホルシュにも大介やルサシネにも追撃はない。野生の慎重さといったところだろう。
大介は、何とかその間に立ち上がっていた。
痛みに耐えながら、サキュレに向き直る。
「な、なんか使える能力はないのか……! 13個もあるんだろ!」
『あったら逃げろなんて言わねえよ! 全部エロ能力だよ!』
「くそっ……『服の上からブラジャーを外す』とかだろ……そんなんでどうやって……」
以前に説明された能力は、エロ関係ばかりだ。
唯一まともな能力は、あらゆる病気を受け付けない『絶対的健康』くらい――性病を気にせずヤれという神の祝福――だが、ここでは意味がない。
実は2つほど、奇跡としか言えない極めてチートな能力も持っているが、今回はそれを使ったところで意味がない。
それは能力としてはインチキにもほどがあるのだが、相性という問題がある。
あるいは、コイツが獣でないなら、つまり鼻が利かない人間なら、まだやりようはあったのだが……。
考えても、戦闘に使えそうな能力が無い。
「ダ、ダイスケ……」
「勇者さまあ……」
ルサシネは半泣きだし、ホルシュも先ほどの魔法以上のものはないのか泣いている。
勇者である大介への期待の視線が突き刺さる。
「くっ……こうなりゃイチかバチか、エロ能力を使ってみるしかない……!」
そうだ。
アレを使えば、自分は結局助からないだろうが、少なくとも二人が逃げる時間は稼げる。
さっきの電撃でまだアイツも痛んでいる。
ワンチャン自分も逃げられるかも――
「……待てよ」
待てよ、待てよ。
違う。
使うべきはアレじゃない。
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