第13話 エロ衣装が強いのは常識

「マジかよ……」


 石ころだらけの河原を進んでいくと、大きな岩が見えてきたのだが、その岩にまるでギリシア神話のアンドロメダのように女性が括り付けられていた。


 少女と言っていい赤い髪の若い女性が、いわゆるビキニアーマーと呼ばれる、極めて面積の小さい青い鎧をつけており、ほとんど半裸と言っていい。


 よりによって両手が縛られ、M字開脚状態であった。


「助けて~……助けて~……誰か助けてよぉ~」


 少女が泣きながら懇願していた。

 泣きすぎて大介たちには気づいていない。


「許して~……なんでもするからぁ~……」


「おい、大丈夫か」


「!?」


 大介らが声をかけると、少女はビクンと体を震わせた。

 泣き晴らした目で、下から上まで大介らを見定める。


「だ、誰?」


 少女は慌てて足を閉じる。


「大丈夫ですよぉ、敵ではありませんから」


 こんな時もほんわかふんわりなホルシュの声に、少女の体のこわばりが僅かにやわらぐ。

 それを見て、大介は自分が前に出るのはやめておいた。


「神官……? 村の人……じゃないのよね」


「はい。そうですよぉ。私はホルシュ。ノルマリス正教の神官です」


「よ、よかったぁ……」


 少女は安心したのか、ぽろぽろと涙をこぼした。


「どうしたんです?」


「せ、説明するから、鎖をほどいて……」


 これに異論がある者はおらず、大介とホルシュの二人で岩の両側に回って鎖をほどき始めた。


 じろじろ少女を見つめるサキュレに声をかける大介。


「どうした、全然喋らないな」


『なんだ、すぐ無視するくせに』


「下ネタしか言わないからだ」


『処女だぞ、この女』


「ぶふっ!?」


 顔を真っ赤にしてせき込む大介。


『ふん、下ネタに興味ねえとか言いながら、本性はこれだ。ほんとに興味のねえやつはこんなことで焦ったりしねえんだよ』


「う、うるさい。急に言われたから驚いただけだ」


『ホルシュも処女だぞ』


「……っ!」


『ほーら、口でどう言ったって体は正直だ。さっさとエロ能力使えよ。そのために『処女でも感じさせる』能力を授けてやってんだから』


「……」


 トマトのように顔を赤くしたまま、もはや無言で作業に戻る。


 鎖を止めている簡単な南京錠を見つけたが、安物だったようで剣をぶつけたら簡単にフック部分が砕け落ちた。

 腕に巻きつけられていた鎖をはがし、少女を解放する。


「あ、あんがと……」


 助けられた少女は、どこか不本意そうに言う。

 二つに結んだ赤い髪はやや幼さを感じさせるが、鋭い目つきは気の強さを感じさせる。


『ビキニアーマー貧乳ツインテール来たな。この属性の盛り具合、たぶん性格はツンデレだぞ。イヒヒ』


「人をゲームのキャラみたいに言うな」


「あんた誰と話してんの? キモッ……」


「前言撤回。こういう奴いるわ。エロゲに」


 少し傷つきながら、呟く。


「ダ、ダイスケさんは勇者さまですよ。急にしゃべり出したりして「えっ」って思いますし、私もよく驚きますけど、御使いの声が聞こえるだけです」


「ゆうしゃぁ?」


 怪訝な顔で少女が言う。


「仮にも命の恩人にそれはないんじゃないか?」


『圧倒的おまいう』


「……か、感謝はしてるわよ。でも、それはそれ、これはこれよ」


「っていうか、お前、誰なんだ? 何でこんなことになった?」


「あたしを知らないの?」


 妙に自信に満ちたもの言いに、一応ホルシュとサキュレを向くが、


「……有名なのか?」


 双方首を振った。


『少なくともAVのパッケに名前が載るレベルの知名度じゃないな』


「……あー、俺はこの世界に召喚されたばかりだからな、悪いが知らない」


「そう……勇者ってのもホントかもね。この私を知らないんだから。いいわ、教えてあげる」


 胸を張って――と言っても絶壁だが――少女が宣言する。


「あたしは、ルサシネ! 麗しき剣技のルサシネ! 無敵無敗の最強伝説を進むスーパースターよ!」


「捕まってたじゃん」


「……」


 小柄な少女が、じっとりした上目遣いである。

 視線にはわずかな殺意が見て取れた。


 よほど触れてほしくないらしい。


「っていうかその格好は何なんだよ」


「……っ!」


 ルサシネは、自分の恰好に気づいたのか、顔を真っ赤にした。


「こ、これは、敢えて肌を晒すことで集中力を上げてるのよ」


『エロ衣装が強いのは常識だぞ』


「金がないだけじゃないだろうな」


「う、ぎっ!」


「えっ」


 図星だったらしい。


 ルサシネの鬼の形相に、冗談のつもりで言った大介の方まで硬直する。


「アンタねぇ~! もっとデリカシーってもんを……」


 言いかけた彼女の動きが、不意に止まる。


 ぶるっと、寒さを感じたような、震え。


「やっぱ寒いんじゃないか? ビキニアーマー……」


「うるさいうるさい! 見るなこっちを!」


「どうしたんだよ急に……」


『ここだけの話アルがね、この女、尿意をガマンしてるアルよ。アタシ様、そういうのわかるアル』


「次から次に最低の能力出て来るな」


 とはいえ、ずっと岩に縛られていたのだ。

 お手洗いにいけるはずもなく、催すのも自然なことであろう。


 そういう時、どう気を利かせたらいいかなど、童貞の大介にはわからない。


「あー、えーと、その、なんだ……」


「な、何よ! 急に挙動不審になって」


「それはだな……」


 と、ホルシュが大介の肩を叩いた。


「あ、あのぉ~」


「ん、どうした?」


「あ、あれ……」


 彼女が震える指で、後方を指し示していた。

 大介とルサシネがそちらを向くと――

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