第11話 神が泣いた日

 大介が話そうとするたび、サキュレにより話の腰が複雑骨折してしまうが、この村であったことは、乳搾りをしてありがたがられ、歓待されたことくらいであった。返礼は酒場に戻らないともらえないので、素朴なものとはいえ料理が振舞われるのは助かる。


 宿屋があるような村ではないため、今はあるじが不在で空いている村長の息子の家に泊めてもらう。


 ここの村までは馬車で来たが、車中泊では熟睡とまではいかない。


 何より、ホルシュがやたら悩ましい寝息を立てるのだ。


 大介としては寝るに寝れない。


 よく理性を保てたものだと彼自身不思議なくらいだが、サキュレが下ネタを連呼するせいで逆に萎えたのだろう。


 ともあれ、この日は久しぶりにぐっすり寝ることが出来た。



 翌朝、報酬を受け取りに王都に帰ろうとする二人だったが、それを村人たちが引き留めた。


「ど、どうしました? 私たち、何かご迷惑をおかけしてしまいましたかぁ?」


「とんでもない! 勇者さまでなければ、うちの孫娘の婿にしたいくらいなのに……」


 その言葉には本気の色があった。あれだけ神がかり的な乳搾りが出来るなら、農村で引っ張りだこだろう。


「実は、近くにある別の村が、魔物に襲われておりまして……」


「魔物? それはどんなでしょう?」


「それはわかりませんが、かなりの村人が犠牲になったと聞きます。勇者さまに退治をお願いできないかと……」


「お任せください!」


 ドンと胸を叩くホルシュ。

 慌てて大介がその腕を引っ張って耳元で囁く。


「な、なに安請け合いしてるんだ」


「えっ? 魔物は魔族が使役している尖兵ですよ。勇者さまが倒すのは当然のことでは?」


「お、俺には『翻訳』しかないんだけど。いきなり強敵が出てきたら勝てる気が……」


「あっ」


 大介は安物の剣しか持っていないのだ。


 柔道をやっていたので運動能力自体はそこそこあるが、現代日本人として当然、実戦の心得はない。

 試合でも勝率はさほど高くない。緊張しいだからである。


「す、すいませぇん……せ、責任を取って、私一人で行きますぅ!」


「行ってどうする!」


『そうだ、イクときはいっしょ!』


「……まぁ、とりあえず様子だけ見てみるか。いつかは魔王を倒さないといけないんだし……」


「は、はいっ!」


『……いくらアタシ様でも、こうも無視されると傷つくぞ』


 神が泣いた日。

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