第10話 だからタイトルを言うんじゃねえ

「おおお! 救いの神じゃあ!!」


 アーク王国首都より馬車で大きな街道を外れるように小さな道を選びつつ1日、2日進むと、都市化されていない村がいくつか現れる。


 この辺りは牧畜が盛んなのか、柵に囲まれ、羊や牛を放牧している村が多い。

 その中でも、明らかにさびれた村・グリン村で、大介とホルシュは村人たちに取り囲まれていた。


 というのも、大介の搾る乳牛がなみなみと乳を出しており、たくさんのバケツが並んでいたからである。


「す、すごい! もう乳も出さなくなったはずの牛が、あんなに……」


「うちのも、3日ぶんはゆうに出したぞ!」


「神の手じゃ!」


 30人余りの村人たちは、大介の周りでひれ伏している。

 生き神の如き畏敬の集めぶりである。


 ただひとり、現実を認められず頭を抱えているのはサキュレであった。


『違う……こういうことじゃねえ……チートスキルを普通に使って成功するんじゃねえよ……性交しろよ……クソっクソっ! ふぁっく!!』


 サキュレの姿は誰にも見えないので、大介が無視してしまえば、何も起こらない。

 いかに下ネタ満載の罵倒を繰り返そうが、ただ風の前の塵に同じ。


 というより、あまりにもじゃんじゃん乳が出るので大介としても楽しくなってしまっていたのだ。


 無限に湧き出させる能力を持っているが、流石に祝福なしということになっているのにやりすぎると怪しまれるので、ある程度で止める。

 サキュレの祝福など、バレたらどんな目で見られるか分かったものではない。


 道すがらホルシュに再度それとなく尋ねてみたところ、やはり創造神ノルマリスの他は、魔界の神デスマリスを除き、ほとんど他の神は知られていないという。


 ただ、世界宗教であるノリマリス正教は一神教というわけではなく、聖典においては協力する神、敵対する神などが記されているらしい。

 しかし「もろもろの神」のような記述に過ぎず、サキュレのサの字も出てこなかった。


 疑いの目を向けた大介であるが、本人によると「神々で会議してこの世界はノルマリスが担当することに決まったけど、四角四面のアイツだけに任せとくと禁欲で世界が滅ぶから、アタシ様が補佐することになった」との事。


 大介はむしろ、四角四面なんて難しい言葉をサキュレが知っていたことのほうが驚きだった。

 ともあれ、大介はその補佐神の祝福により、乳搾りの救い主扱いされていたわけである。


「依頼を出して良かった!」


「これで当座をしのげる!」


「ありがとうございます、ありがとうございます」


 涙を流すお年寄りたちに、大介自身はおろおろしていたが、ホルシュはにこにこ顔で頷いていた。


「そうでしょう、そうでしょう」


「この方は神さまじゃあ!」


 しまいにはみんなで伏して拝みだす始末。


「いいえ、勇者さまですよ」


 ホルシュがそう諭すと、村人たちが顔を上げた。


「えっ? 勇者さまでございますか?」


 その顔には困惑、あるいはきょとんとした表情が乗っている。

 村の代表らしき老婆がおそるおそると様子で口を開いた。


「その、勇者さまでしたら、2週間ほど前に通られましたが……女性でしたような……」


「はい。その方も勇者さまです」


「はい?」


「同じように勇者召喚の儀式によって来ていただいた、もう一人の勇者さまなのです」


「なんと!」


 再び、はは~とひれ伏す村人たち。


「お、大げさ! 大げさだから!」


『クソッ、ダイスケが熟女好きなら選び放題なのに……お前、いまいちそっちは強くねえよな。実母もの、義母ものまでか、お前のストライクゾーン』


 大介は答えない。


「お年寄りばかりだな、この村」


 きょろきょろと見渡してみても、年齢層が高い。

 小さな子はちらほらいるが、それも園児か小学校低学年といったところだ。


「若い人はいないんです?」


『そう、コイツのジョイスティックがハッスルするようなやつ』


 問われた村人は、わかりやすいくらいに顔を曇らせる。


「……男衆は戦争に取られています。女衆や子どもらの多くは王都に出稼ぎに行っております」


「なるほど……」


 この世界において、北西に広がる魔族領とはいち敵性国家に過ぎない。

 アーク王国の周囲には、西に好戦的なベルセルク領、北東にアマゾオン領がある。


 東の神聖ウォード帝国とは比較的友好な関係なものの、前述の二国は非常に好戦的であり、その侵入があるたびに男たちは兵士として徴発されていくのだ。


 ちょうどいまは、アマゾオンの大規模侵入があったらしい。

 アマゾオンは女性――アマゾネス――だけの集団であり、男を捕らえて子どもを作る風習ゆえ、力づくで男を奪いに現れるのである。


 そこで、頻繁に男手が戦に奪われることになる。


『だから、魔族には勇者を向かわせるしかねぇんだよ。アークには3pやるだけの戦力がねえからな。バッカだよなー、ダイスケをアマゾオンに差し向けときゃ、全員メス奴隷にしちまえるのに。イヒヒヒ』


「初めてがアマゾネスってレベル高すぎだろ」


『いいんだよ。お前そういうのも買ってたろ。『通販で注文したらアマゾネスが来て襲われた件』とか』


「だからタイトルを言うんじゃねえ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る