第9話 なんか途中から急にバトル漫画になってエロシーンのなくなったエロ漫画みたいなもんだ
それなりに長時間、皿洗いをしていると、バーテンダー――ジェレバン――が、
「そんなにお金が必要であれば、その服を下取りに出して安い服に買い替えてはどうです?」
と言い出した。
言われてみれば、ダイスケが今着ている服は、王宮のものだ。
いわば王室御用達の服であり、よい生地なのは間違いない。
「な、なんで早く言ってくれないんですか」
「洗い物が溜まっていましたから」
いたずらっぽく笑う。
「……そ、そうですか」
上着だけを脱ぎ、酒場のエプロンを着る。
見た目的には筋肉芸人のようだが、大介はさほど筋肉質ではないので、自分でも間抜けに感じる姿だった。
その上着を換金したおかげで、晴れて自由の身となった。
おまけに、お釣りが出て当座の資金まで手に入った。
これはジェレバンのアドバイスで、信頼のおける専属傭兵に、売値の半額を受け取ってよいという契約で換金して来てもらった結果である。
もしホルシュに頼もうものなら二束三文で買いたたかれていたのは間違いない。
騙されて奴隷市場行きまである。
ともあれ無事自由の身になったので、酒場に来ている依頼を見せてもらう。
当座のお金ができたからとはいえ、仕事に慣れておかないと、いつまた無一文の目に合うかわかったものではない。
わら半紙のような荒い紙に、依頼内容がいくつも書かれている。
祝福のおかげでダイスケにも読むことができたが、固有名詞が多くてイマイチわからない。ただ、護衛や討伐が多いように思える。
「このペコスポン討伐ってのは何なんだ? 弱そうだけど」
「デスマース産の極めて凶暴な牛ですね。いきなりそれを選ぶのは自殺行為です……」
「そ、そうなのか。やっぱりホルシュ、いいの見繕ってほしい」
「わ、わかりました」
カウンターに並べられた紙を矯めつ眇めつするホルシュ。
大介自身、柔道初段ではあるが、モンスター相手にそれでどうにかなるというイメージは湧かない。
ホルシュに任せるのが確実だろう。
『なぁ』
ぼーっとそれを見ていた大介の頭に尻を乗せ、額の前に逆さになったサキュレが語り掛けてくる。
『お前がエロ能力使わないと、ヒマでかなわん。いい加減使えよ。っていうかよく考えてみろ、お前の大好きなエロ同人で、導入からここまでエロの一つもないなんて耐えられるか? なんか途中から急にバトル漫画になってエロシーンのなくなったエロ漫画みたいなもんだ。しかも一番人気にサブヒロインの本番も無いままにだ!』
「なんで例えが妙に具体的なんだよ」
大介は深いため息をつく。
「……あのな、何度も言うが、俺にその気はない」
『なんでだよ。せっかく異世界まで来ておいて、なんの能力もなく無駄に暮らすつもりか? 地味なクラスメイトならヤりがいがあるが、地味暮らしの男なんて何の需要もないぞ』
「そう思うなら、他のヤツを召喚すればいいだろ」
『バーカ、お前にありったけのエロ能力を付与したせいで、ほとんど力を使い果たしちまった。百年は呼べねえんだよ!』
「ご愁傷様」
『ふぁっく! だから童貞はダメなんだ。カッコつけてチャンス逃して、お前なんか30代でも童貞だ! チキン! いくじなし! ひとつ下の男! ヘタレ!』
「うぐっ」
彼にも自覚はあった。
大胆になれず、このまま本当に童貞卒業できないのではないか、と。
だが、それでも――
「俺は、純愛がいいんだ」
『何が純愛だよ! チャラ男に寝取られちまうだけだそんなん!』
「偏見がひどい……」
そうこうしていると、ホルシュが厳選した依頼書を持ってきた。
「これとかどうでしょうか?」
そこには大きく「牛の乳搾り」とあった。
「おおぅ……」
冒険でもなんでもなく、ただの酪農である。
だがなぜか、ホルシュは得意満面の笑みであった。
のけられた紙の山は戦闘がらみばかりだったので、消去法なのだろう。
『イヒヒ! 牛乳なら目の前にあるじゃねえか! 搾れ搾れ!』
「エロオヤジか」
『お前には、『肉体から無尽蔵に液体を出させる』能力を授けてある。これはな、自分だけじゃなくて相手にも適用されんだ。ホルシュは処女だが、そんなの関係ねぇ! エロゲばりに吹き出しまくるぞ!』
「最低の能力じゃねえか! ……ん?」
そこで、大介はふと気づいた。
能力の、有効活用法に。
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