第7話 よし、入れてやれ

 大介とホルシュは追い出されるように城を後にした。


 そのホルシュはこの世の終わりのような顔をしている。


 俯くものだから、二つのふくらみで足元が見えなくて、石畳のスキマに足を引っかけて転びそうになり、サキュレから『よっ、あざとース!』なんて大向うがかかったりした。


「そんなに落ち込むなよ……」


「お、落ち込みますよ……! 神官は国の奉仕者です。自分の持ち物はないのです……つまり、無一文なんですよ、私たち」


「Oh……」


 いきなり、大問題であった。


「その服もか?」


『イヒヒ! その理屈だとそうなるよな! やれ脱げそれ脱げ!』


「さ、流石に服は没収されませんでした……」


「てっきり私物かと」


「そ、そんなわけありません……こ、こんなピンク、選びません」


 顔を真っ赤にして彼女は否定した。

 大きく首を振ったせいでその下のたわわなものが揺れる。


 サキュバスの神がストリップ小屋の最前列のように大喜びする。


「え? そうなのか、城で見かけた神官でピンク色はいなかったから、私物なのかなと」


「ちっ、ちがいますぅ! そ、そんな風に見られてたんですね……ショック」


『バカめ。この男が見てたのはお前のダブルメロンだ』


「見てないわ」


「えっ?」


「違う……ホルシュにじゃなく、憑りついた悪霊に言ったんだ……」


「は、はぁ……とにかく、これは神官長さまが指定したもので……私の趣味ではありませんからっ!」


「お、おう……」


 出会ってさほど長いわけではないが、ホルシュがこれほど強い態度を見せるのは初めてだった。


 本人にとってこの色は不本意だったのだろう。

 ある種のイジメだったのではないだろうか。


 そう思うと、大介の瞳は優しくなった。


「ど、どうされました?」


「いや……なんでもない。それより、これからどうするか……」


 正直言って、大介は何も考えずに歩いていた。

 そのまま、城下町まで辿り着いてしまったのだ。


「そ、その……魔族を追い払うって、本気なんですか?」


「そうしないと、あんた、死刑なんだろ? 選択肢ないだろ」


「……」


 ホルシュがぽかんと口を開けた。


『なんだ、ブチこんでほしそうな口だな。よし、入れてやれ』


「黙れ悪霊」


 サキュレがいる限り、シリアスなどない。

 大介はそれを思い知る。


「……一応聞いておくが、お前のスキルに金を稼げるものはないのか?」


『女をオトしてヒモになるのは簡単だぞ』


「……聞いた俺がバカだったよ……」


 そんな会話をしている間もホルシュは震えていた。


「おい、大丈夫か?」


 次の瞬間、ガバッと大介の腕を掴んできた。


「ノルマリスさまが……なぜ祝福をお与え下さらなかったのかは、わかりませんがっ! あなたは間違いなく素晴らしい勇者さまですっ!」


「お、おう……」


 顔を近づけてそんなことを言ってくるものだから、大介は真っ赤になってしまった。


『イヒヒ、さっさと童貞捨てないからこのくらいで赤面するんだ。よし、このまま押し倒しちまえよ。13のスキルの一つ、『行為中は姿が見えなくなる』を使えば楽勝だぞ』


 サキュレを無視し、ゆるやかな動きでホルシュの手を外す。


「と、とにかく、当座の資金を確保しないとな。じゃないと戦うどころじゃない」


「そうですね~」


 下唇に人差し指を当てて考え出すホルシュ。


「あっ、そうだ。酒場に行ってみてはどうでしょうか?」


「ああ、冒険者の酒場的な」


 異世界転生ものが好きな大介は話が早かった。


『イヒヒ、夜の街か。いいな。ああ、心配するな、お前には『絶対的健康』の能力を与えてやってる。性病を気にせずガンガンいけ』


「酒場だって言ってるだろ!」


 サキュレのほうは相変わらずだった。

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