第5話 そういうジャンルのも買ってただろお前
『よし、チャンスだ。ヤっちまえ!』
「やるわけねーだろ!!」
『そういうジャンルのも買ってただろお前! 『妹爆睡。俺全裸』とかよぉ!!』
「だから言うんじゃねえよ! バーカバーカ!!」
大介はあたりを見渡す。
石積みの塔は光を失った魔法陣を除けば殺風景だが、その魔法陣を書くのに使ったであろうチョークなどを入れた木箱があった。
その木箱を覆う黒い布を引っぺがすと、風呂上りのように腰に巻く。
人間の尊厳が1あがった。
それから、神官を揺すぶって気付けをした。
神官はいまだに混乱していたが、ダイスケが全裸ではなくなったこともあって、落ち着きを取り戻してきた。
「え、ええっと、あ、貴方は、私が呼び出した勇者様でしょうか……?」
「というか、君は誰なんだ?」
「ひぐぅ! すいませええええん! 呼び出しておいて名乗らないなんてぇ」
深々と頭を下げる神官。
『おい、コイツ、チョロそうだぞ。押し倒しちゃえよ』
サキュバ神は無視する大介。
無視すると買ったエロ漫画を並べ立てられていたたまれなくなるが気にしない。
「わ、私はホルシュ。ここ、アーク王国の神官です……」
「ホルシュ、か。ええと、オレは大介。伊勢大介だ」
「ダイスケさま……ですね」
「ああ。それで、何でオレを?」
神官――ホルシュはおずおずと語り始めた。
「そうですね……いま、このアーク王国では、北の魔族領から魔族が攻めてきており、建国以来最大の危機に瀕しているのです……そこで、国を挙げて勇者を召喚する儀式を行い……一人の勇者を呼び出しました」
「それがオレってことか」
「えっ、違います」
「違うんかいっ!」
とっさに鋭い手首の返しでツッコミが炸裂する。
角度的には胸に当たりそうだったが、寸でのところで止めているあたりに性格が出ていた。
「ひぐぅ! す、すいませぇぇん! 勇者、勇者ですぅ! 貴方も勇者ですう! それとは別に、国としても勇者を召喚したんですぅ……」
「なるほど……」
耳元でサキュレが囁く。
『ノルマリスの方のルートだな』
「召喚の呪文、ノルマリスの名の元にって聞こえてたもんな……だとするとサキュレはいったい……」
『バカ野郎、ノリマリスの呼び出す一枠にお前をねじ混んで、死ぬとこ救ってやったんだぞ』
「……それは感謝してるけど……」
「あの~、どなたと話しているんですか……?」
怪訝な様子でホルシュが顔を覗き込む。
「あ、ああ。どうやらオレには神様とやらが憑いているらしい」
「ええっ!? ノルマリス様ですか!?」
「いや……すまん。もしかしたら悪霊かもしれん。サキュレ・バスティーシュって名前らしい」
「サキュレ……うーん、どこかで聞いたような……ないような……」
首をかしげるホルシュ。
大介はロボットのように首を回してサキュレを凝視する。
「……やっぱり虫歯菌じゃないのか」
『アタシ様は、性の神だぞ! お堅いシスターが知ってるわけないだろうが! マイナーな神なのは否定しないけども!』
「……マイナーなのか……」
納得はした。
絶対、3人くらいしか信じてない神だろ、と。
「えっと……よくわかりませんが、神の使いの妖精か何かが憑いているのですね……」
「とりあえず、そういうことにしといてくれ。……で、国で勇者呼んだんだろ? 何でオレまで呼んだんだ?」
「そ、それは……魔族討伐に向かった勇者マカナ様と、連絡が取れなくなってしまったのです……」
「ちょっと待て。一人で行かせたのか?」
「も、もちろん、騎士団長さんたちも同行してます……」
「軍隊じゃないのか?」
「魔族は、プライドが高いそうで……一騎討ちに応じる性質があるんです。だから……」
「なるほど……勇者が向こうの猛者を倒せば丸く収まるってことか」
「そうなのです。古来よりこの方法で我々は国を守ってきました」
「じゃあ、マカナって奴は負けたってことか……」
「それは……」
と、ホルシュが言いかけたところで、上部がアーチ状の木戸が開け放たれた。
「ホルシュ! 召喚には成功したのですか!」
神経質な声で入ってきたのは、ホルシュと同じ修道服――ただしタイツは白――を着た、中年女性だった。
声と同様、その表情にはとげとげしさがあり、その厳しさは自分にも向くのか、節制の賜物と思われる引き締まった体型である。
大介はそれを呆然と見つめていた。
『お前、ああいうタイプもアリか? 屈服させがいありそうだよな』
「黙れ」
二人はさておき、肝心のホルシュは緊張しすぎだと言えるくらいに畏まる。
「はっ、はいっ、神官長さま! ここに!」
ホルシュは、大介を指し示した。
「勇者、ダイスケさまです!」
「勇者……?」
神官長が眉をM字にひそめる。
明らかに値踏みするような視線だった。
「……なぜ、半裸なのです。そのような前例は聞いたことも……」
「ええと……それはわかりません。ですが、ダイスケさまは間違いなく私の召喚に応じてくれた勇者です」
「……まぁいいでしょう。着るものを用意させます。召喚が成功したのであれば、女王様に謁見するのが決まりですから」
言うや、背を向けて去っていく神官長。
「女王様……?」
『いい響きだな! ブヒブヒ鳴くか? それとも鳴かすか?』
「だからお前は黙ってろ」
畏まりっぱなしのホルシュをよそに、大介とサキュレは相変わらずだった。
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