第2話 新たな事実、発覚!
「それは今のところオレだけだ。モン太もコツがつかめれば変身できるようになる」
ウルは端的に説明してくれる。
「ウルとモン太は他の魔物たちとは違うの?」
ウルはプルプルと首を横に振る。
「オレもみんなも元は普通の獣だ」
「うん?」と、彩良は首を傾げた。
「もしかして、『魔物』って魔物化した動物のことなの?」
「うむ」と、ウルが頷く。
「よく覚えてないが、オレはどうも魔物を喰ったらしい。モン太は……魔物化した鳥につつかれたのが原因だって言ってる。ピッピは――」
ウルが出窓を見ると、ピッピが「ピピッピピッ」と何やら説明していた。
「エサにしたのが魔物の死骸だったんだと」と、ウルが通訳してくれる。
「え、じゃあ、最初から魔物で生まれる『魔物』って、もしかしていないの?」
「少なくともオレは見たことないぞ」
(ここへ来て新たな事実が発覚するとは……)
みんな当たり前のように『魔物』と呼んでいて、実際にどういうものか誰も説明してくれなかった。
(まったくもう! やっぱり異世界、知らないことばっかじゃないの!)
「それで、同じ魔物化した動物でも、どうしてウルは人間に変身できるの?」
「どうもサイラの血を舐めたのが原因らしい」
「あたしの血を舐めた? いつ?」
「森の中で最初に会った時。サイラは足にケガしてただろ?」
「……あ、そういえば」
小枝が足の裏に刺さって血が滲んでいたところ、ウルにペロペロと舐められてくすぐったい思いをしたのだ。
「あの時は単に旨そうな匂いだったから舐めたんだが、まさか人間に変身できるようになるとは思わなくてびっくりしたぞ」
「……うん、あたしも自分の血にそんな力があったなんて、普通にびっくりするわ。魔物使いの特殊能力の一つなのかしら。でも、あたしが森にいる間は変身しなかったわよね? いつ頃からできるようになったの?」
「サイラが森を出て行った後だ。時々胸の鼓動がゆっくりになったり、目や鼻が利かなくなったりすることがあったんだが、どうもそれが身体の変化する最初の兆候だったらしい。てっきりもうじき死ぬのかと思ってた」
「てことは、血を舐めてからだいたい二か月くらいはかかるってことかしら」
「うむ。サイラを助けに来る時、オオカミのままでは王都に入りづらかったから、ちょうどよかった」
(まあ、確かに……)
人間を乗せられるほど巨大なオオカミが街中にいたら、大騒ぎになるのは予想ができる。
(けど――)
「人間が素っ裸で街中を歩いている方がよっぽど問題でしょ!?」と、彩良は目を剥いていた。
「うむ、そうらしい。モン太が言ってた。だから、王都に入った時はちゃんと服を着てたんだぞ」
「……あたしと会った時には何も着てなくなかった?」
「塔の入口にいる人間を襲う時にオオカミに戻ったら、服が破けちまった」
「……ごめん。そういうことだったのね」
露出狂の変態扱いしてしまったことが後ろめたい。ウルはというと、『何が?』といったようにキョトンとした顔をしていたが。
「ところで、ウル、まさかと思うけど、その襲った人間、殺してないわよね?」
人間の姿をしている今、殺人罪が適用になるのではないかとヒヤヒヤする。
「突き飛ばしたら動かなくなっただけだ。死臭はしなかったから、生きてると思うぞ」
「そこは生きていることを祈るとして……人間になったりオオカミに戻ったりって簡単なの?」
「わりと簡単だ。サイラにオレの子を産んでもらいたいと思うと人間に変身する」
彩良はウルの発言がすぐには理解できず、ポカンと口を開けてしまった。ウルは大真面目な顔をしているので、冗談ではないらしい。
(人間に変身する時のイメージって、つまり何!? エッチなことを考えてるの!?)
これは突っ込んだら収拾のつかない話になりそうなので、彩良は開いた口を黙って閉じた。
そもそもオオカミのウルが人間に子供を産んでほしいと思う時点で、何か間違っている。
(オオカミの考えることはわからないってことで、ここはスルーさせてもらっていい?)
「……ええと、それで、モン太も昨夜あたしの血を舐めたから、そのうち人間に変身できるようになるってことかしら?」と、彩良は話をそらした。
「うむ。それで、その場にいなかったピッピが怒ってるんだ」
ウルが話に乗ってくれたので、彩良は内心ほっと息を吐いた。
「ピッピも変身できるようになりたいの?」
彩良が出窓の方を見ると、ピッピは目を輝かせて『うんうん』と、頷いていた。
「どうぞって、あげたいところだけど、わざわざ血を出すのもねぇ……。痛いのイヤだし。どっかから血が出たら、ピッピを呼んであげるから。それまで待ってて」
ピッピはガックリしたように項垂れた。
「まあ、そんな機会はそうそうないと思うけどな。オレがサイラに傷一つ付けないように守ってるんだから」
胸を張っているウルに、彩良は顔をほころばせていた。
森の中を移動する時、必ず背中に乗せてくれていたウルは、今思えば彩良がまた足にケガをしないように気をつけてくれていたのだろう。
「ありがとう。ウルはやさしいね」
ウルはぱあっと笑顔になって彩良に飛びついてくる。
これがオオカミの姿だったら、喜びの表現として受け取ってあげるところだが、今の相手は年頃の男、しかも魅力的な美しい青年以外の何者でもない。
彩良はとっさに手を伸ばして、ウルの頭を押さえつけていた。
「その姿ではやめて! 抱きつくのはオオカミの時、限定!」
「ええー……」
ウルがしょんぼりとベッドに座り直すと、彩良の肩に乗っていたモン太が「キッキッ」と笑った。そして、『ざまぁみろ』と言わんばかりに彩良の顔にペッタリと抱きついて、スリスリと頬ずりをする。
(まったく、この子たちは仲がいいんだか悪いんだか……)
彩良はあきれたため息とともに笑っていた。
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