第4話 チートスキルは『猛獣使い』?
ウルに食料は期待できないので、彩良は自分で食べられそうな物を森の中で探し始めた。
ウルが背中に乗せてくれるので、靴がなくても足の裏を気にせず、森の中を移動できるのが助かる。「あっち行ってみよう」、「こっち行ってみよう」という彩良の指示通りに、ウルは動いてくれた。
しばらく森の中をウロウロしていると、突然上から何かが落ちてきて、ボトッと地面に転がった。
ウルの背から手を伸ばして拾ってみると、それは洋ナシのような形をした赤い実だった。リンゴのような甘い香りがする。
袖で拭いて一口かじってみると、シャキシャキしていて、味は甘酸っぱいリンゴそのものだ。
「おいしー!!」と、彩良は思わず歓喜の声を上げていた。
(もしかして、さっき果物が食べたいとか言ったせい? 何気に都合よく事が運んでいく辺り、これも転移者特有のチート生活の一部なのかしら)
お腹が空いていたこともあり、彩良が夢中で食べ終わると、もう一つ上から落ちてくる。
リンゴ(仮)の生る木なのかと見上げてみれば、枝の上に金にも見えるクリーム色の小さなサルが座っていた。赤い瞳をしていて、その額には小さな黒いツノが生えている。
(……この世界の動物はみんなツノが生えてるのかしら)
「君が採ってきてくれたの?」
声をかけてみると、そのサルはコクンと頷いた。どうやらウルと同じく、言葉がわかるらしい。
「ありがとう。おいしいよ」
もう一つのリンゴもありがたくいただいていると、サルはスルスルと木から下りてきて、ストンと彩良の肩に飛び乗った。そして、頬をペロペロと舐めてくる。
このサルもまたずいぶん人間に慣れているらしい。
「かわいいー。こういうペット、ほしかったのよー。一緒に来る?」
「ウキッ」と、サルは快い返事をしてくれた。
「じゃあ、君の名前は『モンキー』からとって『モン太』ね。また果物を採ってきてくれるとうれしいな」
(オオカミの次はサルかぁ。オオカミって、犬みたいなものだし、あとキジがそろったらあたしは桃太郎?)
彩良はそんなことを考えて、一人クスクスと笑ってしまった。
それなら次はそれに近いところで鳥の仲間ができるのかもしれないと思っていたところ、遭遇したのは赤毛のクマだった。
体長二メートル以上はあるような巨大なクマで、さすがの彩良も今度こそ食べられるのは自分だと覚悟した。
が、クマの口から大きな魚が落ちて、地面の上で飛び跳ねているのを見た時、彩良は状況を理解した。
どうやら彩良と仲良くなりたい動物は食べ物を貢いでくれるらしい。
このチート感アリアリのシチュエーションから導き出される答えは――
(そう、これがあたしに授けられた特殊能力なのよ!)
動物やモンスターを味方にして使役する能力――テイムと呼ばれるものだ。ジョブとして名付けるのなら『
この場合は動物相手なので、『
強そうな生き物を仲間にして、敵と戦うという役どころに違いない。
桃太郎的に自分がリーダーとして鬼退治に行くのか、それとも
いずれにせよ、使える動物は多いに越したことはない。
まずここでやるべきことは決まったと、彩良は「ふっふっふ」と含み笑いを漏らしてしまった。
(……あれ? でも、なんか変?)
モンスターなどを手なずける場合、彩良の方が何かをあげるのが普通だ。
それこそ桃太郎のキビ団子や、ゲームに出てくる『魔物のエサ』のように。そうでなければ、魔法のようなもので『契約』をするのが一般的。
なのに、ここの動物たちは逆に自分たちの方から貢ぎ物を持ってやってくる。
彩良がお礼を言って、ナデナデしてあげるだけで仲良くなってくれる。
人間の言葉がわかるところを見ても、もともと人間が大好きな動物たちで、単に彩良と友達になりたいだけなのかもしれない。
相手の事情がどうであれ、仲間になって助けてくれるのなら、彩良の方に何の問題もない。
出会ったクマはメスだったので『クマ子』と名付けたが、すでにネタ切れになりそうな気配を見せている。
(だって、あたし、社宅住まいで動物とか飼ったことないんだもん! 動物の名前の付け方なんてわからないのよ!)
クマ子のおかげで夕食用の魚をゲットしたが、ここで問題発生――。
生の魚をかじって食べる習慣はない。最低でも焼き魚にしなければ、食べようがなかった。
この先何日続くかわからない森の中での生活において、やはり『火』は必要不可欠だ。
(ここ、異世界定番の魔法ってものはないの? 魔法でチャチャッと点火、なーんて)
とりあえず河原に薪を集めて、今まで読んだマンガやゲームに出てくる呪文や詠唱を片っ端から試してみた。
――もちろん、そんなことで火はついてくれない。
そもそも『猛獣使い』では、たとえこの世界に魔法が存在していてもジョブ違いだ。
「もう、なんでこんなジョブなの!? 勝手に決めないでよ! もっと便利なスキルとか魔法の方がよかったのに! ていうか、どうせなら無双させてくれたっていいじゃないのー!!」
空に向かって叫んだところで何も起こらない。ウルたちには理解できないらしく、怪訝そうな視線を向けてくるだけだった。
「さ、さ、ここは
使えない魔法にしがみついていても、焼き魚はいつまでたっても食べられない。せっかくの魚も鮮度が落ちていくばかり。
彩良はさっさと頭を切り替え、乾いた板と長い枝を森の入口で拾ってきた。平らな岩の上にどっかと胡坐をかいて座り、板の上で枝をこすり合わせる。
確か昔の人はこうして火をおこしていたと、絵本か何かで読んだ記憶があった。
「こう、人間っていうのはね、火を使えるようになって、初めてサルから進化したのよ。これでも十五年、すでに人間やってるんだから、サルよりは賢いはずなの。火をおこせないなんてことはありえないんだからね」
モン太に『ほんとに?』と疑惑の目を向けられながらも、彩良は人間の誇りにかけて火がつくまで枝をせっせと――いや、必死にこすり合わせた。
ようやく煙が立ち上って焚き火になったのは、夜もすっかり更けて、月が天頂に輝く頃だった。
パチパチと燃え上がる炎を見て、彩良は達成感というものを味わいながら、恍惚とした気分に浸っていた。
「人間、やればできるじゃないの! 大丈夫、あたしはこのサバイバルを乗り切れるわ! イベント発生するまで、必ず生き延びてみせるわよ!」
動物たちがすでに退屈して寝ている中、彩良は拳を掲げて高らかに宣言した。
やっぱり一瞬で点火できるライターくらいはほしいと思いながら――。
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