第23話



 もう一体。



 地面への落下を終えた2体目のイノセントには、彼女への攻撃を敢行できる〈距離〉があった。


 最初の一体は真正面から彼女のテリトリーに侵入した。


 彼女が形成する、量子エネルギーの流域圏へ——

 



 が、もう一体のイノセントは違った。


 方向転換をしたわけではない。


 最初から、落下地点を指定していた。


 シールドの「外」


 その、水平方向へと。



 ギュンッ



 全身を捻りながら、シールドの側面を切断するためのエネルギーを形成する。


 “斧”


 その形状は、鋭い曲面の真ん中にあった。


 地面へと踏み込む足。


 回転を帯びながら加速する遠心力。


 シールドの流域は上下方向、——すなわち、上から下にかけての回転によって動いていた。


 2体のイノセントは互いに連携を取っていた。


 それは神経系の細胞を外へと拡張できる彼らだからこそできる、芸当だった。


 人が息を合わせるのとはわけが違う完全な「同調」。


 筋肉の繊維まで細胞レベルに合わせ、動きをリンクする。


 イノセントには呼吸をする器官が備わっていない。


 人は呼吸、および空気中の酸素を体内に取り込んで、全身の筋肉を動かす。


 血液中の酸素の濃度が低いと、その分動きは鈍くなる。


 俗に言われる「スタミナ」は、人が持つ制限付きの行動量と言い換えることもできるだろう。


 100m走で最初から最後まで最高速を保つことができても、200m、300mとなると話は変わってくる。


 しかしイノセントにはそれがない。


 それは「体力」という面についてもそうだが、裏を返せば、瞬間的な動作に対する“予備動作”についても同じことが言えた。






 

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