第22話
水のイメージは常に彼女の“領域”だ。
彼女自身に纏わるすべての行動や選択は、たった一つの攻撃の細部へと、その量子範囲を拡大できる。
イノセントへと放った一撃は、流動するエネルギーの「水面」の中に伸縮し、自由な変遷を奏でていた。
水のように泡立ち、また、漂流する。
海の中で鯨が飛翔する。
まるで“魚”だった。
水の中に溶け込んだ“波”、——そのもの。
敵のエネルギーを吸収しながら、それを別のエネルギーへと変換する。
その伝達経路には水特有の「流体」が反映されており、物質内の原子あるいは分子の結合する力が、熱振動(格子振動)よりも弱くなる。
液相。
構成する粒子が互いの位置関係を拘束しないために自由に移動することができる『領域』。
彼女はその「場所」に立っていた。
媒体としての伝送線路に。
バシャァァァァ
液体の表面・内面上に於いて、かざねは跳躍する。
——正しくは、自らの筋繊維の内側にまで伸ばしたエネルギーの“奔流”を掴む。
シールドの内側に連動させた量子の流体は、彼女が形成した流域の壁の中でエネルギーの濃度を高めていた。
容器の中に入れた水は、その容器の大きさに応じて圧力を高めていく。
逆に容器としての壁(閉じ込められる仕切り)がなければ、水は外に逃げ出してしまう。
壁の内側に圧縮させた粒子を寄せ集めたまま、彼女は左腕を動かしていた。
シールドの界面に到達したイノセントの右腕を弾き、撥ね上げる。
繰り出された一撃はイノセントの体を貫いていた。
肉片が宙に飛び散りながら、空間が縒れる。
浮かび上がる空気の振動。
——音。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます