第7話


 かつて世界には広大な海があり、空があった。



 22世紀の初頭に世界は謎の自然災害に見舞われ、日本列島以外の大陸や海が暗黒物質の中に呑み込まれた。


 かろうじて生き残った人々は、記憶を失った世界で自らの『存在』の起源と歴史を探し求めた。


 新たな都市を建設し、侵食が進行する世界の岸辺で“自分が何者か”についてを探し求めたのだ。


 いつしか世界の中心では、発展する都市と分断された地平線が、日常的な景色の一部となってしまった。



 〈グラウンド・ゼロ〉



 それは人々が暮らす都市の名前でもあり、【境界線】でもあった。


 世界の「形」が変わったあの日から、世界には「過去」という存在そのものの輪郭が失われつつあった。


 昨日と、——明日と。


 その狭間で動き続けるたった一つの時間が、永久に失われつつあった。


 少しずつ暗闇に侵されていく、街の中心で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る