第6話



 空中に投げ出された彼女は、自由落下の最中に於いて、立体的な空間の位置と“座標”を探ろうとしていた。


 地面までの距離。


 ——その、具体的な「実数」を。


 あと数秒で地面のコンクリートとぶつかってしまう。


 彼女が出くわしたイノセントたちは、彼女を“喰らう”ためにアンチ・フィールドを展開していた。


 『アンチ・フィールド』とは、暗黒物質の中にある黒点エネルギーを拡張したもので、“世界を滅ぼす空間“そのものの性質を含んでいた。


 通常の人間ならば、フィールドに足を踏み入れた時点で肉体が融解し、跡形もなく”完全に消失”する。


 正しくは吸収されるといった方がいいだろう。


 暗黒物質には他の情報を取り込む「同化」と呼ばれる位相領域があり、地上のあらゆる物質や生物は、この位相領域に入ると同時に自らの情報を吸い取られる。


 この領域に取り込まれた「情報」は元々の形を失い、世界に存在したという「記憶」そのものでさえ消失する。


 ——それが物質であったか、そうでなかったのかの区分さえ。

 

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