アルスのライバル

 レオンはアルスの言葉の意味がよくわからず黙っていた。グラディウス。レオンの父ロイドの契約精霊。とても優しくておおらかで、剣の達人だった。


 レオンは父のロイドにも会いたかったが、グラディウスにも会いたかった。レオンが父たちの記憶を思い出していると、アルスが嬉しそうに話し出した。


「グラディウスとオレ様は、天界でよく剣の手合わせをしていたのじゃ。やたらと剣の強い精霊じゃった。だがな、ある日オレ様に言ったのじゃ。もっと強くなるために、人間界に行って、剣の修行をしてくると。じゃからオレ様も、人間界に行こうと思ったのじゃ」

「そうなんだ。じゃあ僕たちの目的は同じなんだね?!」


 レオンは父を探すため。アルスはライバルを探すために人間界を旅するのだ。


 アルスは嬉しくなったのか、大声を出していた。レオンはアルスを横にならせ、毛布をかけてやりながら質問した。


「ねぇ。アルスが人間界に来たのはグラディウスを探すためだけ?」


 レオンは不安だったのだ。どうしてアルスがレオンと契約してくれたのか。誰でも良かったと言われたら、けっこう立ち直れない。レオンでなければならない何かがあればいいと思った。アルスはレオンの心配をよそに、機嫌良さそうに答えた。


「人間界に来た理由は色々あるぞ。精霊たちが楽しそうに人間界に行っているのを見て、うらやましいと思ったのじゃ。それに、レオンに会いたかったからじゃ!」

「僕に?」

「ああ。レオンは精霊族の中で、一番だったからじゃ!」

「僕が一番?!」


 アルスの言葉に、レオンは驚いてしまった。レオンは小さい頃からどんくさくて、できない事ばかりだった。だからカッタにいつもバカにされ、いじめられていたのだ。


 レオンは自分が何もできないダメな人間だと、ずっとコンプレックスを抱いていた。それなのに、アルスはレオンが一番だと言ってくれた。レオンは何が一番なのか知りたくて、さらに聞いた。


「ねぇ、アルス。僕は何の一番なの?」

「何の?それは全部の一番じゃ」


 よく意味がわからない。レオンがなおも質問しようとして、となりを振り向くと、アルスはもう眠っていた。

 

 レオンは天井を見上げた。窓から入る月明かりで、見慣れた天井がぼんやりと見える。


 これからの人生、レオンはアルスと共に歩んでいくのだ。レオンは胸がドキドキしてちっとも眠くなかった。


 しばらくすると、チュッチュと音がしだした。アルスを振り向くと、指しゃぶりの音だった。そういえばレオンも小さい頃指しゃぶりをよくしていたなと思い出した。


 レオンはアルスの形の良い頭をそっと撫でて言った。


「アルス、これからよろしくね」




 

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