学校

 レオンは学校まで走って登校した。気持ちが高ぶって仕方なかったからだ。自分の席に座ると、何度も深呼吸を繰り返した。次第にクラスメイトが登校してくる。一人で登校する生徒もいれば、自身の契約精霊と登校する生徒もいる。


 レオンの住んでいる村は精霊に護られている村だ。村の住人たちは、精霊族といって、十五歳になると生涯を共に過ごす精霊と契約するのだ。


「いよいよだな!レオン!」


 朝のあいさつを抜きにして、レオンの背中を叩く者がいた。振り向かなくてもわかる。レオンの幼馴染のルーカスだ。レオンはルーカスに振り向いて言った。


「おはようルーカス。今朝は胸がドキドキしちゃって、早く目が覚めちゃったよ」

「わかるわかる。俺も召喚の儀式の日はそうだったからな」


 ルーカスはあごに手を当てて、キザな仕草で答えた。ルーカスの肩に乗っている契約精霊のシルフィがニヤニヤしながら言った。


「そうそう。ルーカスがボクを召喚した時、腰抜かしてベソかいてたよね?」

「はぁ?!し、してねぇよそんな事!」

「してましたぁ。ボクこの目で見たしぃ」

「何時何分何十秒の事だよ?!言ってみろ!」

「そういう所、ルーカスってホントガキだよね」

「何だと!シルフィ!お前の方がチビのくせに!」

「ボクはこの姿が好きだから、このカッコでいるだけですぅ」


 いつものルーカスとシルフィのにぎやかな口ゲンカが始まる。シルフィは手のひらに乗るくらいの可愛い美少年の精霊だ。風の精霊で、背中にはトンボのような羽が生えている。


 シルフィはいつもルーカスの肩に乗って、ルーカスにケンカをふっかけている。レオンは二人のかけあいを楽しそうに見ていると、レオンたちに声をかける者がいた。


「おはよう。レオン、いよいよだね?」


 レオンの席の横にとびきりの美少女が立っていた。もう一人の幼馴染のラウラだった。ラウラのとなりに立っている美女は、彼女の契約精霊フレアだ。火の精霊フレアは慈愛のこもった笑みを浮かべてレオンに言った。


「レオン。きっと貴方に相応しい精霊と出会えるわ」

「ありがとう。ラウラ、フレア」


 レオンは二人の幼馴染と、彼らの契約精霊を見てふと思った。彼らと契約精霊は顔立ちが似ているのだ。シルフィはルーカスの小さい頃に顔立ちが似ているし、フレアはラウラが成長したら、こんな美人になるんじゃないかと思うのだ。


 レオンの母サンドラにしてもそうだ。サンドラはウィリディスとよく似ている。もしかすると、召喚した精霊は、召喚者に似たところがあるのかもしれない。


 レオンが召喚する精霊も、レオンと似ているのかもしれない。そう思ったとたん、また胸がドキドキしだした。レオンが胸をおさえていると、また声をかけられた。この声はとレオンは顔をしかめて振り向いた。


「よぉ、レオン。お前の精霊は、きっとお前と同じで臆病なゴミ野郎だぞ」

「カッタ。僕をバカにするのはいい。だけど精霊は皆尊い存在だ。その言葉を取消せ」


 カッタは村の暴れん坊だ。身体が一番大きくて、小柄なレオンはいつもカッタに暴力を振るわれていた。レオンがいじめられていると、いつもルーカスとラウラが助けにきてくれたのだ。


「ふん。ルーカスとラウラがいるから偉そうに。なら俺のパンツァーよりも強い精霊を召喚してみろよ」


 パンツァーとは、カッタの契約精霊で、全身甲冑に身を包んだ精霊だ。とても無口な精霊で、レオンはパンツァーの声を聞いた事はなかった。


 となりに立ったルーカスはレオンの肩を抱いて、カッタに語気を荒げて言った。


「おい!いいかげんにしろ、カッタ」

「そうよ、今日はレオンの大事な日なの。あっちに行って!」


 ラウラはレオンの手をしっかりと握って言った。ラウラの手の温かさをじんわりと感じた。レオンは小さい頃から、いつもルーカスとラウラに守られていた。それが嬉しくて、少し悲しかった。


 カッタは舌打ちすると、パンツァーを連れてどこかに行ってしまった。カッタが学校の授業をサボる事はよくある事だった。




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