召喚の儀式

 授業の時間が近くなると、担任のラナが入って来た。ラナの横には、小さな少女がついてくる。ラナの契約精霊、水の精霊アクアだ。ラナは教壇に立ってから口を開いた。


「今日はレオンの召喚の儀式を行います。よって、私たちが戻るまで自習とします」


 クラスメイトたちは口々にはしゃいだ。レオンにがんばれと声をかけてくれる生徒もいた。レオンはクラスの皆に視線を送り、ルーカスとラウラを見てから、ラナとアクアと共に教室を出た。


 教室から礼拝堂に向かう途中、ラナはレオンを気づかわしげな目で見ながら言った。


「レオン、緊張している?」

「はい、すごく」

「そうね、私もそうだった。でもね、私の生まれてきた中で、アクアと出会えた事が一番の幸せよ」


 ラナは視線を、レオンからアクアに移した。ラナはアクアに手を差し出す。アクアは心得たようにラナの手を握った。


 アクアはレオンに振り向いて笑って言った。


「大丈夫、レオン。精霊の神さまが導いてくださるわ」

「はい、ありがとうございます。ラナ先生、アクア」


 レオンが儀式を行う礼拝堂に入ると、そこには校長が待っていた。もう百歳をゆうに超えている老人だ。校長の肩には小さな老人がちょこんと座っていた。校長の契約精霊、土の精霊トームだ。校長はおごそかな声で言った。


「レオン。覚悟はよいな?」

「はい、よろしくお願いします」


 レオンはラナと校長にうながされ、大きな魔法陣の真ん中に立った。レオンは目をつむり、呪文を唱えた。


 我の半身となる、尊い精霊よ。我と契約すべく我の前に姿を現したまえ。


 レオンが呪文を唱え終わると、魔法陣が強く輝き出した。レオンはあまりのまぶしさに、きつく目をつむった。


 ようやく光がおさまり、レオンが目を開くと、そこには。レオンは驚きのあまりあんぐりと口を開けた。レオンの目の前の人物はふんぞりかえって言った。


「ふっふっふ。オレ様のあまりの神々しさに声も出まい。存分に崇めるがいい」


 レオンはゴクリとツバを飲み込んでから口を開いた。


「えっと、君が僕の契約精霊になってくれるの?」

「違うぞ!オレ様は精霊ではない!神じゃ!」

「・・・。カミ?ちっちゃな子供に見えるけど」


 レオンの召喚に応じた人物は、三歳くらいの小さな男の子だった。だが精霊を見た目で判断してはいけない。シルフィもアクアも見た目は子供だが、数百年も生きている精霊なのだ。


 小さな男の子は、レオンを見上げながら不思議そうに言った。


「それにしてもレオン。お前は天界で見ていた時より大男なのじゃな?オレ様よりもずっと小さいと思っておったのに」

「・・・。君に比べたら皆大きいと思うよ?」


 そこで男の子は違和感に気づいたようだ。自身の身体の下をジロジロ見て、自分のもみじのような手を見てから、大声で叫んだ。


「な、なんじゃこれは!まるで子供になっているではないか!」

「?。これが君の姿じゃないの?」

「んなわけあるか!オレ様はとても麗しくてカッコいいのじゃ!こんなチンチクリンではないわい!」

 

 小さな男の子は、カンシャクを起こしたようにじだんだをふんだ。その姿が愛らしくて、レオンは笑いながら男の子を抱き上げて言った。


「ねぇ、君の名前を教えて?」


 男の子は、そこで初めて自分が名を名乗っていない事に気づいたようだ。ふふんと偉そうに笑ってから言った。


「聞いて驚け!オレ様は、戦いの神アルスさまだ!」

「アルス。いい名前だね?」


 レオンは可愛らしいアルスのりんごのほっぺに頬ずりをした。

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