第38話 新たな訓練

 街の騎士団に配属されて早いことに、1ヶ月は経った。


 その間の訓練はずっと同じで、私の生活もずっと同じなので、すぐに1日がルーティン化された。朝起きて、ご飯食べて、毎日同じ訓練をして、訓練後は魔力の扱いを練習して、ご飯食べて、魔法を使ったり素振りして、私の1日はこれで終了だ。


 他の人からすれば酷くつまらないものだろう。しかし、私の場合は違う。『ひどく』はない。けど、つまらない。まぁ、結局はこの1日をつまらなく感じているということなのだ。


 もちろんこれを繰り返せば地力はついてくるし、強くなるためには必須だろう。だが、しかぁし!人間、慣れるまで、そして慣れてきたなぁって時にいろんなことは面倒くさく感じる。もちろん私もこれに該当する。ここで必要になってくるのは忍耐力なのだが


 「異世界、新しいこといっぱいある。あぁぁ!違うことやりたい!」


 小声で小さく言って、心の中で叫ぶ。周りに聞かれたら、『あいつ、実はキチガイだった』と言われかねない。


 それはそうとして、こんな子供みたいなこと言ってヘルガを困らせるわけにはいかないので、心の中にしまっておいて、


 「それじゃあ、いきますか」


 朝、窓を開けて、気持ちののいい風を浴びてから、食堂の方に向かって行く。


 第一、第二に関わらず同じ食堂で朝食をとる。騎士団の中には女性がそれほど多くない、というよりほぼ男ということもあって、私を含めた女性はよく声をかけられるのだが、基本無視。


 気持ちのいい風と光を浴びながら意気揚々と訓練に励み、いつもと同じような内容をこなしていく。


 そして、昼食前の最後の訓練である、人形を切り刻むために場所を変えようとしたところで


 「リンカ、今日は違うことをしようと思う」


 ヘルガがどっしりと腕を組んで立ちながら言う。


 (なぬ?違うことだと?つまり、私が十分に人形を切ることで得られる基礎を身につけたから、次のステップにいくと?)


 「、、、何するの?」


 「単純だ。お前が俺の攻撃を避けるだけの訓練をするように、お前が攻撃して俺が避ける訓練をするんだ」


 おぉ!と心の中で歓喜する。あんなただの棒立ちしているだけの人形をずっと切り刻んでいても何も面白くない。いや、人を切ることが面白い!というわけではないけどね?


 「場所はここでいいのね?」


 「ああ。まぁ、もう少しだけ休憩しておけ」


 内心ワクワクしながら、休憩しようと地面に座ったとき、


 「ふんっ」


 鼻息を飛ばす者がいた。自分に対してではないかもだが、気になって周りを見ると、後ろに金髪君がこっちを嫌そうな目で見ていた。あれは明らかに私を嫌っている目だ。


 あんなのを見ていても仕方がないので前に向き直る。すると、ザッザッとこっちに向かって誰かが近づいてくる。いや、誰かは明らかだが。


 「調子に乗るなよ。売女」


 なんか嫌われるようなことしたかなぁ?そんなことを考えてしまうほど強烈な言葉が飛び出てくる。


 当の本人はそれで満足したのか、元の道を引き返していく。


 「面倒なことになったな」


 ヘルガは少し面白そうに言う。いや、こちら側としては本当に困ったものだ。これで雇い主である、領主にありもしないことを語られたらどうするのか。同年代で自分よりも優秀な者がいるってだけで、流石にそこまではしないでほしい。弱小市民が権力者に勝てるわけない。それに加えて、雇い主tと従業員という明確な上下関係も存在しているのだ。


 「、、、今あれは気にしてもどうすることできないわね。上の人に暴力なんて使えるわけないし。とりあえず、やりましょうか。胸を借りるわよ」


 横に置いた木剣を手に取り立ち上がる。


 「ああ。楽しみにしてるぞ?」


 お互いに間合いをとって、剣を構える。


 「お前の好きなタイミングで来い!」


 「なら、遠慮なくっ!」


 ダンッと地面を蹴り、間合いを詰める。何でもありというわけではなく、これももちろん魔法は使わない。


 魔法なしで相手に隙を作るには、フェイクで相手を騙すか、連撃を打ち込んで相手の態勢を崩すか、長期戦に持ち込んで相手がミスをするのを待つか。


 「ちなみに、長引きそうになると俺が思ったらその時点で切り上げさせてもらうからな」


 (最後のが一番いい方法だと思ったんだけどなぁ。単純な蓮撃でしばらく様子見、というか考える時間を取るか?)


 ヘルガの言葉ですぐに頭を切り替える。力量で勝っているならば、ゴリ押しでよかったし、スタミナで優位ならば相手が嫌がるような攻撃をちまちましていけばいい。だが、決してそういうわけではない。となると、


 (うまく隙を作らないといけないわけね)


 正面から振った剣は簡単に止められたが、一旦距離をとって出直す。


 「はぁっ!」


 上下左右さまざまな方向から全力、ではないがある程度の威力を込めた一撃を打ち込む。それは、まるで呼吸をするように簡単に流されていく。


 「ふんっ!」


 もしかしたらいけるかも、と思い、剣を受け止められた状態で、ヘルガの横腹に蹴りを入れるが、ヘルガが私の剣を弾いて、その反動で私の体重が後ろによってしまう。反射的に脚は引っ込めたが、ヘルガはすぐに剣を横から振ってくる。


 「っ」


 右脚で地面を蹴り、不安定ながらも少し後ろに下がりながら、体の正面を迫り来る剣の方に向けて、強い衝撃を受ける。


 「ぅぐっ」


 態勢が万全では決してなかったので、正面からちゃんと受けることはできず、吹き飛ばされるも、空中で一回転して勢いを殺して、ピタッと着地する。


 (ちょっと早まりすぎたわね。落ち着かないと足元をしっかりと掬われるわね)


 再び剣を構え直す。


 勢いよく地面を蹴って、木剣がぶつかり合う、カンッ、という軽くしかしそれでいて大きく聞こえる音を響かせる。


 そして、それと同時にヘルガの足を払おうとするが、軽く上に飛んで避けられる。それは、反射的にそういう判断をしてしまったのだろう。それと、油断から。


 「もらったぁぁ!」


 怒涛の連撃をヘルガに容赦なく打ち込む。そして、飛んでいて不安定な状態からそれをいなせることもなく、バランスを崩して、地面に倒れる。


 「やっちまったなぁ」


 悔しい表情というわけでもなく、なんとも渋い表情をしていた。


 「油断しているつもりはなかったんだけどなぁ」


 「まぁ油断したヘルガになら私も勝てるようになったってことね。これからは油断しないように気をつけなさい?」


 ふふ、と笑いながら煽るように言うと、ヘルガは真顔になった。


 「よし、次やるぞ」


 剣を持って立ち上がる。


 「、、、少し手抜きの方を」


 結果、容赦なくカウンターを叩き込まれて撃沈した。









 「はぁ、ちょっとくらい手加減してくれてもいいでしょーに。いや、私もアホやったんだけど」


 すこしヒリヒリする右の横腹を抑える。


 「そういえば、村の方を見に行った岸の人たちが帰ってきたって話しだったわね。で、しかも1人」


 さらに聞いたところでは、村のところではなく、その道中でモンスターの被害に遭ったらしいのだ。強力な大型のオークのようなモンスターらしい。


 具体的にこんな感じだった、そう言えないのは不思議な点ではあるが、


 「村の調査とそのモンスターの調査、ねぇ」


 私も選ばれるかもなぁ、そんなことを漠然と考えながら、この日を終えた。



 


 


 


 


 


 

 


 

 

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私、最強です 無才 無夢 @Kaitaisi

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