第33話 騎士団

 ソリアスの村で起こった悲劇から生き残った老若男女が集まり、生活資金が配られた後、今日から二週間滞在する場所へ案内されていく。そして、シェリが大金貨1枚分の生活資金を領主の謝罪と共に受け取る順番がきたところで、


 「確か、君はシェリと言ったね。そして、後ろの君はリウス」


 シェリとリウスに確認するように聞く。2人は小さく頷くが、しっかりと緊張しているようだ。


 「まず、君たちに謝罪させてもらう。すまなかった。君たちの両親や他の友達を守ってあげることができなくて。君たちはまだ13歳ということを他の人から聞いている。つまり、まだこの広い世界で生きるには十分な年齢とはいえない。本来なら、親に世話になってもらう時期だ。そこで、君たちが自分の力だけで生きるという選択肢以外にもう一つ、選択肢を用意できる」


 「もう一つの選択肢、ですか」


 「ああ。それは、孤児院に君たちの身を預けるということだ」


 すると2人の体が少し硬くなったような気がする。この世界でも、孤児というのはあまりいい印象が抱かれていないようだ。それは当然といえば、当然だが。しかし、実際に身寄りがない2人にとってはいい選択肢と言える。孤児院でどういう扱いを受けるのかはわからない。しかし、戦闘における力という意味でも、お金を生産するという意味でも、しっかりとした力を持っていないのだ。私としては無理をしてほしくない。


 2人はお互いの顔を見て、私の方に視線をよこす。だが、すぐに2人で話始める。


 (大人だなぁ)


 そんなふうに思いながら2人を見守る。そして、


 「、、、2人で孤児院に行きます」


 小さい声でシェリがいう。少し前までは、自分が孤児になるなんて思っていなかっただろう。心のどこかで、現実を受け止めきれてない自分がいるのではないだろうか。


 (まぁ、私なんて未だにこれが夢の可能性もある、なんて考えたりしてるしね)


 「わかった」


 1人の騎士を呼んで、その騎士がこれから2人がお世話になる孤児院に案内していった。


 その後も段々村の人が街に散っていく。そして、結局領主の屋敷の玄関には、数名の騎士と領主、そして私だけが残った。


 「リンカくん、でいいかい?」


 「あ、はい。問題ないです」


 「君はこれから私の騎士団に所属してもらう。住む場所はここで務めるメイドや執事に騎士の大半が過ごしている寮に滞在してもらう。いいな?」


 「わかりました」


 私の返事に満足そうに頷いて、領主は仕事があると言ってこの場を後にする。そして、しっかりと鎧を身につけたヘルガが歩いてくる。


 「これから、お前が泊まるところに案内する。実際に一緒に訓練を行う騎士団との顔合わせは、明日だ。そこで今日はゆっくりするといい。それじゃあ、ついてきてくれ」


 私はヘルガの後を追った。










 「それじゃあ、ここがお前の部屋だ。そしてこれが部屋の鍵だ」


 ヘルガは銀色の、前世でよく見る鍵とそれほど変わらないものを手渡す。


 「とりあえず一通り最低限の場所は案内したから、わからない場所があったら適当にそこら辺をふらつく騎士を引っ捕まえて聞けばいい」


 「わかった。案内ありがと。ちなみに、明日はどこにいつ行けばいいの?」


 「ああ。それは心配しなくてもいい。俺が呼びにいく」


 「そう。時間取らせて悪かったわね。のんびりとくつろいでおくわ」


 鍵穴に鍵を差し込んで、部屋に入る。その部屋は領主邸で泊まった部屋とはそれほど大きな違いはなく、簡素なものだった。ヘルガ曰く、どんなものを置いても構わないらしいが。


 「でも、そんなお金を無駄にできるほど裕福じゃないのよね。それに、元々置き物とか買わない側の人間だし。買うとしても、本くらいかなぁ。印刷技術がなかったら、きっと高いわよね」


 改めて、ちゃんとこの世界の常識を身につけないといけないことを実感しつつ、私は自然と眠りについた。


 そして迎えた翌日。気分は悪くはない。問題なく動ける。


 「訓練の前に、この俺、レデルア・リベルが率いる第二騎士団に新たな騎士が入団することが決まった。自己紹介を頼む」


 領主であるケディアが所有する第二騎士団の騎士団長、レデルア・リベルが私の方を見ていう。この男はわずかにヘルガよりも魔力量が多い。そして、しっかりと鍛え抜かれており、鎧を身に纏っているということもあり、ゴリラに近く感じる。失礼な話だが。


 そして、私は一歩前に出て、百はいそうな騎士の前に立つ。


 「本日より、こちらの方にとりあえず配属された、リンカです。まだ剣の扱いが荒いということもあって、今日から訓練に参加するわけではないですが、よろしくお願いします」


 一礼して一歩下がる。騎士の間でおぉ、と感心したような声が漏れる。そしてそれと同時に、不快な視線も感じた。まぁ、事前に男がほとんどの場所ということは聞いていたので、正直胸とか見てしまうのは仕方がないと思う。そして、騎士団長がおそらく訓練を始めようとしたところで、


 「レデルア騎士団長。発言よろしいでしょうか」


 1人の男が私の方をじっと見ながら、言う。


 「どうした?なんでも言ってくれて構わんぞ」


 「は。それでは、質問なのですが、訓練に参加できないほどの技量しかないにもかかわらず何故、騎士団に配属されることが認められたのか、その説明をしていただきたい、そう考えております」


 「ふむ。それは、ヘルガがケディア様に、リンカの騎士団配属を直談判したからだ。実際にこれからの数日間で実力を測った上で、正式な配属が決まると考えて欲しい」


 「なるほど。では、実力を測るために、模擬戦を行いたいのですが、よろしいですか?」


 「模擬戦だと?」


 「ええ。おそらくその様子であれば、騎士団長もその者の実力は把握していないと考えます。ですので、悪い提案ではないと思うのですが」


 「ふむ、、、」


 考え込むようにこちらを見てくる。別に実力に自信がないわけではないのだが、できればある程度の訓練を積んだ上で行いたいものだ。まぁ、仮にこれで悲惨な負け方をしない限りはきっと挽回の猶予を与えてくれるだろうが。


 「俺としては興味があるな。リンカよ、どうする?」


 「、、、わかりました。引き受けます」


 騎士団長にそう言われてしまえば仕方がない。気乗りしないが引き受けることにした。


 場所は変わって、剣を打ち合うために作られた闘技場で騎士団長に物申した男、名前はグレスというらしいが、と剣を構えて向き合っていた。この模擬戦で使用する武器は、双方ともどちらも一般的なサイズで1mほどの大きさの剣だった。そして、魔法はありで威力は骨折するようなレベルは禁止。審判、今回であれば騎士団長、の裁量で、相手がそれ以上は動くことができないと判断された場合、もしくは実戦で致命傷となりうる攻撃を受けた時、模擬戦の決着がつく。


 「それでは、双方、準備はいいな?」


 『はい』


 「それでは、模擬戦、開始!」


 挙げられていた右手が勢いよく下される。しかし、お互いに動くことはなく、剣を構えたまま見つめ合う時間が来た。が、情報がないのはお互いに等しい。なら、


 (一気に押し込んでいくか)


 ダッと地面を蹴って、身体強化も使って一気に距離を詰める。


 「なっ⁉︎」


 驚きながらも、しっかりと私の剣を受け止める。軽く力を入れると辛そうに顔を歪める。そして身体強化を使って、押し返そうとされたが、その前に一気に力を入れて、後ろに飛ばす。


 「くそっ」


 相手が悪態をついている間にもすぐに攻撃するべく、距離を詰めて、剣を振る。しかし、その軌道が読まれていたのか体を少し横にずらして避けられる。そして、カウンターの一撃が私の左横から飛んでくるが、その攻撃は予測済みだ。というか、あえてカウンターできるように隙だらけの大振りの攻撃にしたのだ。


 相手は完全に不意をついた攻撃だと思い、全力でその攻撃を私に入れようと集中している。が、それを予測していた私は焦ることもなく、すぐに体の向きを変えて、その攻撃を防ぐ。私の先の大ぶりの攻撃は力も入れずに軽く振った攻撃だったので、すぐに体の向きを変えることができた。そして、身体強化を使って一気に相手の剣を弾きとばす。自分が振った剣の勢いも相まって、グレスの体は後ろに大きく傾き、そのまま尻餅をついた。見下ろす形で、私は剣先をグレスに向けると、


 「致命的攻撃を確認。勝者、リンカ!」


 騎士団長が声高らかに宣言して、この試合は幕を閉じた。


 (いやぁ、相手がまだ私の手に負えるくらいでよかったぁ。この人だから、この技ができたって感じだからね)


 ほっ、と安心して思わず息を吐いた。


 これで、私の力は示されただろう。晴れてここに勤められるようになることは間違いない。これから、私は、もっと強くなる。

 

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