第31話 レントの街
私は町長が用意してくれたとある宿のベッドで横になっている。ちょっと前にぐっすりと睡眠していたためなのか、あまり眠くない。
「どうしよかな」
これからの生活を考えても多分それほど不自由はないと思う。人為的に行われた襲撃と未知のドラゴンの出現で何もしていないのにも関わらず、強制的に退かなければいかなかったのだから、おそらくレントの街で手厚い保護を受けられるんじゃないかと思う。ただ、私の場合はその村の住民というわけではなく、放浪者という立場であるのでもしかしたら対象外となる可能性も否定できないが。
しかし、どちらの道に進もうと問題は別のところにある。村にいて、平和に過ごしていた時の私は、ただ漠然といつか村を出て、世界中を旅したい、そういう思いで生きていた。でも、今は私の心に揺らぎがある。
「今の私じゃ世界なんかでても、金もコネも力もない雑魚よね。だから、すぐにこの世界から消えてもおかしくない。それに、今の私は、現実を見た、と」
生き残った少年と少女の姿を思い浮かべる。私には、彼らを守る、そういう義務はない。けど、友達、いや妹と弟と言っても過言ではない存在だと私は思っている。たった数ヶ月一緒に過ごしただけでなにを言ってるんだ、そう思うかもしれないが、個人的な私の思いだ。そして、もう私はもう大切な存在を失いたくない。レイサやゲウラス、そして、レクのような。
「あの子たちはまだ小さい。村の人たちが世話できる範囲なんてたかが知れてる。私なら、もっと強くなって普通の生活をあの子たちに提供して、そして守ることができる。いや、やらないといけない」
そうなると、私はレントの街から出るべきではない。その街で冒険者として過ごしていく、この道が最も現実的だ。そして、私の生涯をかけて、あの2人は守り続ける。
「まぁ、あの2人が強くなって、私の力なんて一切いらない、なんて状況になったらその必要もない、かも知れないけど、それを望むのは責任から逃れてる、みたいでダサいよね」
頭の中で考えてどんどんと決まっていく道に、私は自嘲するように笑う。
「もし、私が一生レントの街で過ごすことになっても、それは自分の責任よね」
「全員いるな。それでは、レントの街に向かって出発する。今日の昼頃には到着できるだろう」
レントの街行きの門を通り抜けた先でヘルガが点呼を行う。時計がないので具体的な時間はわからないが、おそらく7、8時くらいだと思う。
(私も何らかの待遇を受けれたらいいけど)
放浪者の身分でそんなことを思いながら、村長のようなお年寄りに歩調を合わせて全員で進んで行った。
この世界でも太陽、と呼ぶのかはわからないが、地球でいう太陽と同じ役割を果たしている天体が真上ほどまで登ったとき、ようやく10mは超えるくらいの石壁が見えた。つまり、レントの街に着いたのだ。石壁の規模は一泊した町の規模よりもデカく、地球の方ではこんなものを見たことがないので、二回目でも圧倒される。
「レントの街が見えてきたぞ!後少しだ!」
もうへとへとな村の人たちを励ますようにヘルガが声を張る。
そして、それから少し歩いて門に着くと
「ヘルガ副団長!一体何が⁉︎」
どうやらこの街の騎士団の副団長をやっているだけあって、顔が知られているようだ。そして、身につけていた銀色の鎧がボロボロになったヘルガの様子を見て驚きを隠せずにいる。
「緊急で領主様に伝えることがある。すぐに通して欲しいのと、後ろの者達を考慮して、馬車の使用を要請する」
「は、はい!直ちに!」
そういうと腰につけていた麻袋から一つの人工的に削られた石を取り出す。どうやら魔力の流れが感知出来るのでこれは魔石、モンスターの全身に魔力を供給する核の部分で第二の心臓的な役割を果たす石、のようだ。そして、門番がそれに向かってぶつぶつ話しかける。すると、突然石に話しかけるのを止めて、
「たった今、要請しました。すぐに2台の馬車がこちらに向かうかと」
「分かった」
門番の言葉を聞くと、それだけ返事してこちらの方を向く。
「この後すぐに、迎えの馬車がくる。少し待っていてほしい」
(はぁ。なるべく滑らかに話が進んでほしい)
ていうか、電話みたいなものってあったんだなぁ、なんて関係ないことを考えて、ぼーっと迎えがくるのを待った。そして、体感5分くらいで2台の馬車がきて、それぞれに6人ずつ乗った。
馬車に引っ張られてついた先はデカイ屋敷だった。家本体もでかいのだが、敷地もとてつもなく広い。噴水みたいなのはないが、自転車より少し遅い程度で走っていた馬車で屋敷に着くのに1、2分はかかった。二階建てなのだが、横幅が一般的なスーパーマーケットくらいはある。そして、その家の周りにもいくつか別の建物があった。
そんな屋敷の前で止まった馬車から降りて、ヘルガの先導のもと屋敷へ向かっていく。中に入ると、10人ほどのメイドと執事に、ようこそおいでくださいました、と迎えられて、私たちの正面には、ヘルガほどの年だと思われる金髪で穏やかそうな目をした男性と、その人よりも10歳くらいは年下と思われる青髪で同じく穏やかそうな目をした女性が立っていた。おまけに、体のメリハリがすごい美人だ。そして、男性の方はしっかりと燕尾服を着こなしている一方で、女性の方は髪色とパッと見た時の印象とはかけ離れた赤色のドレスを着ていて、ところどころ宝石が輝いている。
「ヘルガ、よく無事だった」
「はい。私は無事帰還することができました。しかし、領主様の命令を実現することは叶えられず大変申し訳ありません」
ヘルガは片膝をついて。顔を伏せたまま言う。
「いや、大丈夫だ。何か話があるのだろう。それを後で聞かせてもらう。それでは、ソリアスの村の方々に部屋を案内して差し上げて欲しい。ヘルガは私についてきてくれ」
「はい」
そして、ヘルガと領主が歩いて行き、横にいた女性は、それでは、私も失礼致します、とだけ言い残して去っていった。それからすぐに、私の前に1人のメイドがやってくる。
「お客様が泊まられるお部屋にご案内いたします」
そのメイドに連れられて、一つの部屋についた。そして、部屋に備え付けているベルを鳴らすと、屋敷にいるメイドか執事がくる、とだけ伝えてそそくさとどっかに行ってしまった。
「とりあえず、部屋に入ろ」
部屋を開けると、そのすぐ横にクローゼットがあり、1人で過ごすには十分な大きさの居間が広がっていた。ベッドと机、椅子が一つずつ。机にはランプがあった。
「簡素で逆に過ごしやすいかな」
そう思いながら、特にすることもないのでベッドの上で横になってすぐに眠りについた。
「なるほど。話の流れは把握した。苦労をかけたな」
「いえ。領主様が私に苦労をかけたなど、決してそのようなことはありません。私の力が及ばなかった、ただそれだけです」
「新種のドラゴンの襲撃など誰も予測ができないことだ。気にするな。それに、それほどの脅威に対して、ここまで逃げて来れたことは賞賛に値する」
「、、、」
領主の言葉をヘルガは素直に受け取ることができなかった。そんな様子のヘルガを見て、領主は苦笑いする。
「この後、ソリアスの村へ偵察部隊を向かわせる。まぁ、この後といっても、一週間は後の話だがな」
「はい。それが良いかと」
「ひとまずお前も休息をとれ。俺が許可する」
「、、、はい。ありがとうございます」
「もう戻って構わん。1週間の休息を許す」
ヘルガは立ち上がって、帰ろうとする。そして、ドアノブに手をかけて、部屋を後にするところで、
「あの、領主様。一つお伺いしたいことがあるのですが」
「なんだ?」
「こちらに1人の騎士をドラゴンが襲撃する前に、増援の要請のために派遣したのですが、知りませんか?」
「ふむ?そんな話は聞いてないな」
「そうですか、、、。それでは、失礼します」
ヘルガは部屋を出ていった。
「ふむ。そっちの方も調べるか」
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