2章 出会い
第30話 レントの街へ向かって
「、、、、う、うぅん、、う、ん?」
ぼんやりとした意識がスッと回復していく。私は寝起きが悪い人ではないので、体調がすぐれない時以外は基本的にすぐに意識が覚醒する。のだが、何やらベッドで寝ているわけではないようだ。全身に爽やかな風を受けて、二つの何かで膝あたりと首あたりで支えられているようだ。しかし、それがなんなのかはすぐにわかった。
「リンカ、起きたか」
私をお姫様抱っこして運んでいるヘルガがいた。私が何かのヒロインならすぐさま顎にストレートな一撃を決めていたが、ヘルガの表情を見れば何かがあったのは明らかだった。そして、私が原因かもしれない、と言うことも。
「、、、ヘルガ。私は歩けるから、もう降ろしてくれ大丈夫よ」
ヘルガは歩を止めて、屈んで私を降ろしてくれる。すると、
「りんかさんっ!」
誰かが勢いよく抱きついてくる。その子はシェリだった。それから、後ろの方を見るとリウスがいた。リウスはこっちを見てポロポロと涙を流している。それから周りをぐるりと見渡すと、村の人がシェリを含めて10人程度、そして騎士はヘルガを含めて3人いた。
「、、、こんなに生き残ってたのね。どこにいたの?」
「村長が先導して声をかけてな。村の奥の方に被害がなかった家があって、そこに逃げたんだ。ただ、多くの住民は、動けなかったようだ」
「、、、そう。それじゃあもう一つ聞くけど、あの怪物からどうやって逃げれたの?」
すると、ヘルガは私から視線を逸らして辺りをぐるっと見渡す。そして、意を結したように深く息を吸って、
「後から来た、レクが生かしてくれた」
ヘルガがそういうとあたりの空気がより重たくなる。
「レクが生かして?、、、意味わかんない。あいつ、あの怪物が来た時生きてたってことでしょ?それなら、なんで、すぐにこっちに来てくれなかったの?」
今、ここにいないレクを責めるように言ってしまう。だが、我慢ならない。あえて遅れてくる意味なんて一切ない。それに、もし、もし、レクがこれほどの人数を逃がせるほどの時間を作れる腕があるのなら、あれを倒すことだってできたかもしれないし、そうでなくとも、もっと多くの人を助けたはずだ。
すると、そのことについては僕から、と1人の騎士が手を上げていう
「あのドラゴンが村にやってくるのを僕たちの方も把握していました。それで、その時たまたまレクさんが近くにいて、一緒に行こうってことで、そっちに行こうとしたんです。そしたら、魔神の手下、の模倣が現れて、そのまま戦闘になって遅れたんです」
「魔神の手下の模倣?」
聞きなれない言葉に首を傾げる。魔神自体は知っている。村にいた時レクから聞いた話だが、もう5000年以上も前に絶大な力を持った魔神が現れて、そいつは人類と敵対していた。そして、その時代の多くの技術や人、果ては土地まで消えたらしいのだ。そして、そいつには5人の手下がいたことも聞いている。しかし、そいつらは全員神によって封印されたらしいのだ。そして、それはいまだに神によってしっかりと守られている、らしいのだが、
「、、、意味がわからないわね」
「ええ。でも、レクさんがそう言っていたんです。それで、レクさんとそいつが戦ってたんです。僕たちは、レクさんに『僕のことは大丈夫です。すぐに行きますから、どうやら村の人たちが村長の家に集まっているようなので、その人たちを守ってください』って言われて。その後、レクさんが無事にそいつを倒して、そのまま遅れてきてくれたんです」
「、、、なるほど。そういうこと。ちなみに聞くけど、レクは1人で?」
「ああ。あいつの力に俺は合わせることができない。あいつは出鱈目に強かった。だから、俺がお前を抱えて、俺たち生き残ったもので逃げてきた」
事実を聞いて、私は黙る。そして、少し考えたのち
「、、、ねぇ。今、私が戻って、できることってある?」
ヘルガに、聞いたこの質問は何一つ意味を持たないことを十分に理解している。でも、聞いた。聞きたかった。答えなんかわかりきっていても。もう失いたくなかったから。
「リンカ。現実を見ろ」
それだけ言うと、ゴソゴソと腰に備えつけている麻袋をヘルガは漁り始める。そして、一つのペンダントを私に差し出してきた。紫色の星型ペンダント。
「レクから言われたんだ。リンカに渡して欲しいとな。受け取ってくれ。これは、瀕死のお前を救ったレクからの、そして、俺たちを救ってくれたレクからのお願いだ。俺からも、聞いてやってほしい」
ヘルガが頭を下げながら言う。瀕死の私。おそらく、あの怪物の一撃をもらった私のことだろう。そして、レクがそれを治してくれたのだ。
「もちろん受け取るわ。私には断る権利なんてない。そんなことできるわけがない」
そのペンダントを受け取り、首につける。
「、、、ふぅ。行きましょう。近くの町を目指してるんでしょ?どれくらいの距離かは知らないけど、日が沈む前についてないとまずいわ」
沈む気持ちを抑えながら、先導して歩くヘルガの後をついていった。
(私に、必要なものってなんだろう?)
「っ⁉︎何があったんだ⁉︎」
ついた町は石の壁で囲まれていた。そして、そこにある一つの門を守る2人の門番に驚かれる。
「すまない。レントの領主の騎士団に所属している第二団の副団長ヘルガだ。先を急いでいる。とりあえず事情はこの町の領主に説明するので通してもらえないだろか?」
「ヘルガ副団長でしたか!先ほどの失礼をお許しください!」
「それはどうでもいい。早く中に通してほしい」
「了解です!直ちに町長に確認をとらせていただきます!」
そう言うと門番の1人がかけていく。そして、数分経ったのち戻ってきて
「町長より面会を希望したいとのことです。町長の元まで案内します」
「わかった」
そうして門番の案内に従って町長の家まで全員で向かっていく。その道中、町を歩くものたちから奇異の目で見られた。そして、ヒソヒソと喋る人たちの会話を盗み聞きすると
「あれ、ソリアスの村の人たちじゃない?」
「ああ。そうだろう。あの様子じゃ、村が消されたのか?」
「かわいそうに、、、特に子供たちなんて、きっと辛かったでしょ、、、」
どうやら、ソリアスの話はここまで伝わっているようだった。
やがて、町長の家に着いた。さすがに人数が多いと言うことで、ヘルガと村長に私が面会をすることになった。そして、家の中に入ると初老の男性が玄関で出迎えてくれる。
「お久しぶりです。ヘルガ殿にゾリエゾ殿。急を要する用件があるとのことですので、面会室にすぐにお通しさせていただきます」
「それは、助かる」
そして、1対3の形で向かい合う。
「それでは、まず私の方を自己紹介させていただきます。私は、この町ピレルをの長を務めさせていただいております、レフルと申します。以後お見知り置きを」
主に私の方に向かって自己紹介する。
「それでは、お二人のことはすでに存じ上げておりますゆえ、そちらのお嬢さんに自己紹介をお願いしたいのですが」
「はい。私は、リンカと言います。ソリアスの村の出身ではないですが、何ヶ月間か滞在させてもらっていました」
「なるほど。リンカさんですか。いい名をお持ちですね」
きっとお世辞だろう言葉に、ありがとうございます、とだけ返しておく。丁寧な物腰で非常に好感が持てる人だ。
「さて、ではまず私の方から、何があったのかについて確認させてもらいたい」
「ああ。簡潔に言うと、現れた、おそらく新種のドラゴンに村が壊滅させられた。そして、俺たちはその生き残りだ」
「新種のドラゴン、、、?何者かによる襲撃ではなく?」
「ああ。おそらく、あちら側も予期せぬことだったんだろうな」
「そうですか、、、。それは災難でしたね。この後レントの町に向かわれるのですね?」
「ああ。そのつもりだ」
「そうですか。では、こちらの方で今日のところは一泊していけばよろしいかと。きっと、多くの方がお疲れになられていると思いますし、明日であれば確実に日中に街の方につけるかと。宿はこちらの方で手配させていただきますから、気にしないでください」
「すまない。恩に着る。レントの街に戻り次第、必ず全額返済させてもらう」
「急ぎでなくて構いませんよ。で、その新種のドラゴンや村を襲撃した者に関する情報についてもぜひ聞かせていただきたい」
「ああ。まずドラゴンについてだが、あれはとてつもなく強い。格で言うならば、帝国の全戦力でも負ける可能性がある」
「て、帝国の全戦力が負ける!?」
町長は驚きで、目をいっぱいに広げている。ここで言う帝国といのは、世界で最強の戦力を所持した国で、建国以来戦争で負けたことがない国だ。最近の帝国のトップ、皇帝は大人しく、他国の侵略などそうそうないが、2、300年前はとんでもない国だったようだ。
「ちなみに、補足しておきます。下手したら、帝国よりも上の存在です。傷をつけても一瞬で治され、鱗は硬く、移動速度、体の扱い方がドラゴンの枠では収まりきらないと思います。まぁ、私は他のドラゴンと戦ったことはないので、憶測ですが」
すると、町長は焦ったように何かをぶつぶつ呟きだす。そして、
「それがこちらに向かってくる可能性は、ありますか?」
「否定はできません」
小さく、最悪だぁ、と呟くのが聞こえる。そして、
「レフル殿。我々は先に休ませてもらっても良いだろうか?」
村長がいつも以上に掠れた声で聞く。
「わ、わかりました。すぐに宿を手配させます。それと、ヘルガ殿とリンカさんには少々残っていただきたいのですが、構わないでしょうか?」
「もちろん大丈夫だ」
「私も同じく」
その返事を聞くと満足そうに頷いて、宿を手配させるためにさっと部屋から出ていく。そして、帰ってきたレフルさんとドラゴンの特徴や、襲撃者について情報を提供した後、宿に戻って、夜も昼も何なら朝も何も食べずにその日を終えた。
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