第24話 半壊した村

 「私から話せることは、これだけよ」


 私と同じようにボロボロになったヘルガにこちら側であった出来事の一部始終を全て話した。確認はしていないが、キュールとフェーリや私たちが来る前に防衛していた人達、そして、確実にレイサとゲウラスは亡くなったということ。ビッグオーク、正式名称はオークロードというらしいが、と戦ったが私は勝てず、レクに死ぬ直前に助けてもらって生きながらえたということなど、しっかりと伝えた。


 ヘルガの方にもやはりA級モンスターが現れたようだが、ヘルガの指揮とそちら側の方に多くの人員を割いたので、怪我人はいたものの、死者は0。ヘルガによると、私達の方には初めの段階で5人しか騎士を向かわせなかったらしい。もともと、村の四方八方に騎士を向かわせたが、モンスターの群れが出現したのは2方向だけだった。そして、すぐに半数ずつ向かわせようとしたらしいのだが、部下達が『ヘルガの力はこの中で抜けている。少なくとも片方は確実に殲滅すべき。少数でも足止めぐらいはできる』と主張したため、その作戦を実行したらしい。つまり、ヘルガがいなくなれば今後の統率に問題が出てくるが、少数の犠牲を払ってでも、ヘルガを守れば少なくとも今後のやりようはある、恐らく部下達はこう考えて、この主張をしたのだろう。もし、半数ずつに分ければ、それだけヘルガを失う可能性は高くなるし、今回防衛できても、指揮者がいない、強い者がいない、ということから次は確実に防衛が不可能となるだろう。


 「ふぅ。お互いに災難ね。とりあえず、こっち側の後を見てくれる?」


 「あぁ。もしかしたら、ということはあるだろうしな」


 そう言って私達はゆっくりと立ち上がって、歩いていった。


 「これは、、、」


 泣き崩れるレイサとゲウラスの親と、いくつものクレーターが出来上がった地面を交互に見て、静かに顔を伏せて、手を合わせる。


 「ヘルガ殿」


 横から声がかかり、ヘルガ、そして私もつられてその声の方に向く。そこには覇気をなくしたゲウラスの父がいた。


 「申し訳なかった」


 ヘルガはゆっくりとお辞儀をする。


 「いえ、いいんです。村はボロボロになったけど犠牲になったものは本当に少なかった。あなた方がいなければ全員いなくなっていた。私達に責める権利はありません。」


 やはりその言葉にはどこか悔しさのようなものが感じられる。そうだ。彼らはヘルガ達を責めるべきではない。これで責められるべきは、私だ。


 「しかし、私達の任務はこの村の防衛だった。その役割を果たせず、のこのこと部外者の侵入を許してしまった私達に落ち度はある」


 ゲウラスの父はその言葉には特に言い返すことなく、俯く。きっと、今、彼の中にはヘルガの言うことが正しいと感じ、ヘルガを責める自分と、親としての責務を果たせず、自身の子を危険な場所に行かせ、挙句死なせてしまったという自分自身を責める気持ちが葛藤しているのだろう。もちろん、ここで、リンカのせいだ、と言われてしまえばそれまで。2人を守れず、逃げた私はその責任を負わなければならない。言われなくても、だが。


 この重苦しい空気の中、ヘルガが私の方を見る。


 「先を案内してくれ」


 私は一回も言葉を発することなくヘルガに先行して歩いて行った。


 そう距離は遠くないのですぐに目的の場所についた。そして、その惨状を見るや否や


 「やっぱりか」


 ヘルガは少し落胆したようにそう呟いた。どうやら、先のを見て大体の様子は予想できたらしい。ここには、大量のモンスターの死体が原型を留めずに辺り一面に放置されたいた。悪臭が酷く、血の匂いと散らばる肉片に思わず吐きそうになる。生きている者の気配は微塵も感じないので、まず間違いなくキュールとフェーリを含めた全員がこの世を去ったようだった。


「これじゃ、本人達の死体を見つけるのは、難しそうね」


 私はこの状況を直視し続けることができず、思わず視線を逸らしてしまう。そもそも、人の死体が目の前にある状況なんて今まで一度も経験したことがなかった。そんな人間がこれを直視してまともにいられるとは思えない。


「あぁ」


 ヘルガは短く答えて、ふぅ、と一つ息を吐く。


 「少し調べてから帰ろう。俺たちの方からは少しでも有益な情報が一切として手に入らなかったしな。何か得られることを期待しよう。リンカはちょっとだけ待っていてくれ」


 そう言って赤く小さな池に足を踏み入れる。そして、まるで小さな池に浮かぶ大小のゴミのようなものを時々拾い上げて眺めて、腰につけていた袋に入れたりしていた。一通り作業が終わったのかこちらの方に近づいてくる。


「とりあえず俺の部下のものと思われるものは拾ってきたが、やはりこの件の手掛かりとなるようなものは一切として得られなかったな。まぁ、死体がこんな感じで潰されているようならそれも当然と言えるが」


 それだけ言って、戻ろう、と前をスタスタと歩いて行った。


 最後にちらりと様子を見てみる。私がもっと強ければこんなことにはならなかったのだろうか?


 ちなみに、ゲウラスとレイサのそれぞれの親は先に帰っていてくれたようで、元の場にはいなかった。












 そして村に戻ってきた私たちは、家の中で村長と向き合っていた。


 「まさかこんなことになるなんて夢にも思っておりませんでした、、、」


 意気消沈とした様子で顔を上げることなくボソボソと言う。


 「こう言ったことが起こるのを未然に防ぐのが私たちの役目であった。大変申し訳ない」


 ヘルガは席から立ち、頭を下げる。


 「いえ、この村を統治するものとして、私にも、責任が、あります。上に立つものとしての、責任です。いえ、責任の有無がどこにあるのか、それを議論しても今は時間の無駄ですね。今後どうするか、これを話し合いましょう。」


 「あぁ。違いない。それではまず、私の方から伝えられることの共有を」


 そして、ヘルガが私から聞いた話と、ヘルガの方での話、そして村の人と派遣された騎士の被害報告をそれぞれ簡潔にまとめて話す。村の被害としては、家が十数軒全壊となり、そして、死亡した村の人はレイサとゲウラスだけだった。騎士の方はキュールとフェーリを含めて7人の死者。そして、重傷者は4、5人ほどに上るようだ。つまりは連戦となると壊滅的である。


 「とりあえずこのことはすぐに部下を町の方に送って伝えに行かせた。なるべく早くの援軍を期待したいところではある」


 「なるほど。ではその援軍が来るまでは、村の者も周囲の見回りの役割を担わせます」


 すると、ヘルガは顔を険しくして考え込む。


 「そちらの方が私達は助かるのだが、、、、」


 やはり、戦闘力が十分ではない村の人たちを心配しているようだ。しかし、


 「ヘルガ、背に腹は変えられないわ。騎士の多くは負傷して動けない。私がその見回りの人の護衛をする。私だったら、村の人たちが逃げるくらいの時間は稼げるし。それでいいでしょ?」


 そして、しばらくの沈黙ののち、


 「分かった。それでは、早速この場で見回る者の組み合わせと時間を決めて本人達

に確認をしよう」


 そして、スムーズに話は進んでいいき、思った以上に短い時間で終わった。


 外に出ると、そこには青い空が一面に広がっていたが、今ちょうど太陽が雲で覆われたところだった。


 「どうか何も起こりませんように」


 












 「大変申し訳ありません。望むような成果を得られず申し訳ありません」


 だいぶ歳をとっているのがわかる、白髪の男が頭を下げる。


 「はぁ。やっぱりその程度じゃない。ちょっとでも期待して、損したわぁ」


 退屈しているのか、特に感情を込めることもなく女が言う。


 「ま、いいわ。今回は特別に見逃してあげる。私はあなた達におんがあるものねぇ。それに、ちょうどよかったわぁ」


 「ちょうどよかった、とはどう言うことでしょう?」


 「準備運動にちょうどいい、ただそれだけよぉ。ふふ、楽しみねぇ。久しぶりのこ・ろ・し」


 暗く、狭い部屋に、弱く発光する首に刻まれた星型の紋様を撫でながら女が笑う。


 「ふふふ。滑稽なものよねぇ。情けない話だわぁ。ね?」


 目の前の男に聞くわけでもなく、ただ部屋の天井を見ながら言った。



 




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