第21話 襲撃①
さて、時が流れるのは早いものでゲウラスろレイサがやらかしてからもう一週間経った。いまだに2人の様子はどこかよそよそしく、私はもちろん、レクやシェリとリウスにさえも態度がどこかぎこちない。よく集まっていたレクの家にも姿を見せないようになったし、仮にどこかで見かけたとしても、クルッと体を素早く反転させてそそくさと逃げていく。今は特に問題はないけど、いつ4人の関係に亀裂が入るのか分かったものではないので、4人だけでなく私にも大きな負荷がかかっている。
「はぁ。そこまで強く言った覚えはないんだけどなぁ」
「それは、そうだと思いますよ?ただ、あの子達が深く受け止めすぎているというか。まぁ、いずれ元に戻ることを願って見守るしかないですね」
私の呟きにレクが反応する。もし、今の状況に何か刺激を与えれば事が良くなるかもしれないが、なにしろ相手は思春期の少年少女なのだ。下手すると私の方が結局精神的にやられるかもしれない。シェリやリウスもそうだけど。なんにせよ、あまり手出しできないのだ。2人の親も今は特に刺激しないように努めてるし。
「ま、とりあえずこれは考えてもどうにもならない事だから、一旦頭の隅に置いときましょ」
「一応リンカさんがこの話、始めたんですけどね」
「余計なことは言わなくていい」
「はは、すみません。あっ、そう言えば今日はお互い、この後見回りがありましたね」
「あぁ、そうね。いつも同じ景色を見てるだけだし、モンスターが出てこないと飽きちゃうわね」
「そうですねぇ。草原の方なんて特に何もないですよね。僕は今日、少し遠くまで見てこようかな。確かに同じところばかりはつまらないですし」
せめてスマホで何か見れたらなぁ、そんなことを思いながら見回りの時まで静かに時が流れていくのを感じていた。
「今日は何もいなかったのです!とりあえず一安心なのです!」
「あらあら、帰りに会っちゃうかもしれないわよ?ちゃんと気を付けないと」
「分かってるのです!ところで、最近モンスターの目撃報告が少ない気がするのです」
「そうね。私もヘルガから聞いたわ。モンスターはあんまり見かけなくなったけど一応注意しておけ、って」
「少しずつモンスターを出してくるから、相手も飼い慣らしてるのがいなくなっちゃったのかしら?」
「そうだと嬉しいけどねー。果たして真実はどうなのやら」
「いいことは信じるのです!信じてたら本当になるのです!」
「はいはい。そうね。もうモンスターが出てきませんよーに」
「感情がこもってないのです!」
今日の見回りを終えた私達は、周りには注意を払いながらも、のんびりと帰る。実は昨日、今日、そして、2日前もモンスターの発見報告がどこにもなかったのだ。これをどう捉えるべきか正直判断がつかない。もしかしたら、フェーリの言う通りかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも、事実はどうであれ怪我を負った騎士達の治療が今までよりもスムーズに進むし、少し気を楽にして見回りができる。実にありがたいことだ。私に関しては、ゲウラスとレイサのこともあるしなおさらである。
(あの2人とは、どうすればいいのやら。私が話しかける前にどっかいっちゃうし)
はぁ、と思わずため息を吐きそうになるのを堪える。ストレスが、溜まっていく!
「これ、どう言う状況?」
「そ、そんなことはどうでもいいのです!とりあえず始末しないと!」
「キュールの言う通りね。すでに村に被害が出てるみたいだし」
後ろの私たちに気付いたモンスターが振り返るのを見る。ゴブリンやオークの姿も見られるが、確かB級と記憶しているモンスターや私が戦ったC級のモンスターもいた。ちょうどこのモンスターの群れの奥の方からも人の声が聞こえてくる。ただ、こいつらがそれに勝る不協和音を鳴り響かせている。
この村の入り口という場所にも関わらず、おおよその数を考えても40ぐらいはいそうなモンスターの数。そして、驚くべきはその半分がC,B級のモンスター達が占めているということだ。これよりも強いのが現れたとしても不思議ではない。ただ、私が混乱した理由はこれだけではない。なんと、ゴブリンやオークのような弱いモンスターが、彼らよりも強いモンスターに攻撃していたのだ!うーむ、実に意味がわからない。まず間違いなく、これは誰かが手引きしているのだが、そいつが狙ったこととはとても思えない。だが、それを考えるのは確かに後である。他のところからも攻められている可能性はある。小規模な村とはいえ、40から50の世帯が住んでいる。20人弱の騎士達では守りきれない。
「さぁ、すぐにここから抜けて他の騎士と合流するわよ!」
「はいなのです!」
「ふふ、力の見せ所ね」
初めから身体強化を使ってより早く、そして雑に剣を振る。それでも、接近戦の力はないに等しい2人を置いていかないように気を付けながら、前へ進む。騎士が拠点にしていた場所はこの草原と真反対にある。まだ、私の視界には20から30はいるような気がする。
(くっ、全然減らない!あぁ、もう!)
次々と襲ってくるモンスターを斬り倒していくにつれて、焦りが大きくなっていく。そして、ついに、狙って振っているはずのないその雑な攻撃が避けられた。
「くっ!」
幸いその攻撃は防げたものの、その攻撃を防ぐのに意識が集中したせいで、二足歩行をする体が鱗で覆われた魚人が、持っていた棍棒で横に薙ぎ払ってくる。B級モンスターのその威力は私を軽く飛ばすのに十分だった。
「リンカ!」
すぐにキュールが土の壁を、飛ばされた先にいるモンスターの間に作ってくれる。すぐに態勢を立て直して、地面を蹴り上げて鋭い一閃で魚人の体を二分する。一方でキュール方にモンスターが動こうとしたのだが、幸い後衛としてある程度距離を置いていたので攻撃を受けることがなくすんだ。
(くそっ!なんでいきなりこんなことしてくるのよ!)
「リンカ、一旦落ち着くのです!とりあえず数は減ってきてるのですよ!」
(そんなこと、言われなくても分かってる!)
さっさと道を作って、他の騎士と合流しなければならない。
「邪魔なんだよ!」
そして、目の前のモンスターを切ったところで、思わず後ろに飛んでしまう。何故なら、今、私の足元に倒れた、いや、体のあちこちが踏み潰されて、肉片と血を撒き散らした、死体があったから。
「っ」
すぐに視線を上に向けて、醜悪な笑みを浮かべるゴブリンの顔を反射的に切る。
「リンカ、どうしたのです⁉︎」
後ろからキュールが叫ぶ。私は、ただ、小さく、なんでもない、と返すだけだった。
(はぁはぁ、くっ)
大きくなる焦りと、吐き気、嫌悪感、そして、湧きあふれる非現実感と様々な感情を抑えながら、剣を振った。
「リンカ!あとは私達に任せなさい!魔力を回復するポーションは持ってるわ!救援を呼んできて!」
モンスターの数が10体もいなくなり、C,B級モンスターが半数は残っている中でフェーリが言う。
(確かにこの数だったら、簡単に村の中まで行ける。でも、接近戦に特化したようなモンスターもいる。本当にいける?)
思わず下に目を向けてしまう。そこには、体が二分されたモンスターの死骸と火で焼かれたり、槍で貫かれたような穴が体に開いたモンスターの死骸が散乱している。この下には、はっきりとまだ見ていない死体がある。
「迷う必要はないのです!私達にはしっかりとした実力があるのです!それに、村の方でも何か起こっているかもしれないのです!」
(違いない、違いないけど、、、!)
左右からくる攻撃を避け、受け流しつつ、考える。
そして、2人の元に下がって
「行ってくるわ」
短く力強く言う。
すぐに地面を蹴った前に進む。
「任せなさい!」
「任せるのです!」
2人の信頼できる言葉をしっかりと脳に刻みながら、2人の魔法に嵌められたモンスターの間を縫うように進んでいった。
「さぁ、フェーリ。一緒に頑張るのです!」
「ふふ、なかなか厳しい戦いになるわね」
フェーリとキュールは、前衛というこのような場合においては特に欠かせない存在を手放しながらも、自身に満ちた様子で去っていった凛華の方を追いかけようとするモンスターをみる。
「ランドフォール!」
「ファイアランス!」
2人の放った魔法は、モンスター達に大きなダメージを与えることはなかったが、注意を向けるのには十分だった。2人に注意を向けたモンスターは近づこうとするが、炎膜やウォーターウォールのような防御魔法を用いて、遠距離からの攻撃は防ぎつつ、ランドフォールやウォーターランスで牽制するなどして近寄られることがないように戦っていた。これから来るであろう援護まで耐えるために奮闘していた、その時だった。
「ファイアランス!」
フェーリが振り返り、魔法を放つ。が、その先にいた、新たな敵は何も感じないように、進み続ける。
「あ、あれは、、、」
キュールも振り返ってそこにいた敵を見て、言葉を失う。今まで倒してきたものとは明らかに違う、魔力量、その体格の大きさ、そして、存在感。それに、視線を奪われて呆然としているところに、ギュル!後方からモンスターの鳴き声が聞こえてくる。慌ててキュールが防御魔法を発動して攻撃を防ぐ。そして、仕留められると思っていたモンスターは、一瞬動きをとめて、その隙にフェーリが攻撃魔法を撃ち込む。だが、迫り来るモンスターはもちろんこの一体だけではない。
「炎膜!」
フェーリはすぐに2人の周囲を赤く燃える膜で覆う。それと同時に、水と火魔法をぶつける。その直後に様々なモンスターの鳴き声が重なりあう。
「ありがとうなのです、」
「気にしなくていいわ。正直、この状況でうまく扱えるかは心配だったけど、良かったわ」
そして、2人が後ろを見たその時、大きな影が2人を覆う。
「ブモォオ!」
あ、そんな小さい声がどちらからか漏れ出る。そのまま、2人の前に立ちはだかったモンスターは3,4mはあろうかという棍棒を振り下ろし、グヂュ、と立ち尽くす2人が潰される音は、再び空高くに向かって吠えた雄叫びでかき消された。
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