第20話 今日は子供の保護者役かぁ

 「はぁ。本気で言ってるの?」


 「何回おんなじこと聞くんだよ。本気だって言ってんじゃん!」


 「そりゃ、何回だって聞くわよ。だって、『俺たちも連れて行ってくれ』って言われて、『うん、いいよ』なんて誰が言えるのよ。まず、そもそもの話、親が絶対に行かせたくないって言ってるじゃない。あんまりわがまま言うんじゃないわよ。あんた達のこと心配してるのよ?」


 「それは、それ。これは、これ!」


 「残念ながら区別できないわよ。いくら本人の考えが重要だとしても、本人がやりたいと思ってても、親は子供を危険な目にあわせないようにするのもその役割の一つなんだから、そっちの方も考えなさい」


 本当に小学生ぐらいのわがままを言うゲウラスに呆れていると、


 「お姉さん、お願い!一回だけだから!これ連れて行ってくれたらもう言わないから!」


 そうだった。レイサもいるんだ。


 「はぁ、死ぬかもしれないのよ?いくら騎士の人達がモンスターと戦うことに慣れてても、何があるか分からないんだし」


 「リンカの言う通りだ。君達ぐらいの子に言うには少々厳しいかもしれないが、行く場所は遊び場じゃない。命を賭ける場所だ。そんなところに、そのことを分かっていない者が来ると士気にも、戦いそのものにも影響しかねない」


 ヘルガが険しい顔をしながら言う。その言葉を受けて眉間に皺ができる。


 「俺達だってそんな子供じゃないし!それぐらい分かってるし!」


 「そんな駄々こねてる時点で子供よ。それに、分かってるかどうかなんて口ではいくらでも言えるわよ。実際に戦ったこともないのに、一種の侮辱になりかねないわよ。その言葉」


 はぁ、と思わずため息が出てしまう。それも仕方がないと感じてしまうほどのわがままっぷりだ。困ったようにゲウラスとレイサ、そして、その2人に言い返している私達を見ている、シェリとリウスを見る。まったく。本当に人って多様性に溢れてるわね。


 「2人とも。だから言ったんだよ。どうせ無理だって。僕も行ってみたいけど邪魔になるよ」


 リウスが助太刀してくれるも、


 「行きたいんだろ?なら一緒にお願いしようぜ!」


 「そうだよ!シェリも行きたいでしょ?一緒にお願いしよ!」


 「え、えっと、私は、その、、、、」


 レイサにいきなり話題を振られたシェリが助けを求めるようにこちらを見る。そんな私も、ジッとこの光景を傍観してみていたレクの方を見ると、ちょうど目があった。へにゃりと口を曲げて、頬をかく。そして、


 「えぇとですね。僕がどうにかできなかったことが責任の一つなので、僕が護衛役みたいな形でこの子達に付き添います。それでどうですか?」


 いや、レクが持って来たのかよ。2割ぐらいはお前の責任だ。レク。ちなみに残り8割はレイサとゲウラス。これは疑いようのないこと。いや、今気にすべきことはそんなことじゃないな。


 「レク、4人同時に見ないといけないのよ?絶対の安全があるって言えるの?」


 「そ、それはちょっと難しいかもですね、、、、」


 なら、無理ね、そう諦めてもらおうと思った時、


 「なら、リンカも一緒に来たらいいじゃん!」


 レイサが私の方をを指差しながら言う。いや、こいつ何言ってんだ。私だってそんな暇じゃ、、、、忙しい人へ。すみませんでした。ただ暇つぶしに必要以上に剣の素振りするか、魔力で遊ぶかだけしかしない分際で忙しいとか言うところでした。めっちゃ暇だ。忙しいなんて言い訳が出来ないのは明らか。何故なら、この4人とはよく一緒にいるので、私が暇であることは知られている。


 私が何も言えずにいると、ゲウラスが私の方をニヤニヤしながら見てくる。


 「はは、リンカは暇人だもんな。そう。だから、リンカは何も言えないんだよ!」


 ハッハッハッ、と胸をそらしながら笑う。果たして、こいつには年上を敬うという考えはあるのだろうか。一回、はっきりと上下関係というものを分らせるべきだと思う。私だけだろうか。いや、まぁガキの中のガキなんだし仕方がないか。そんなことを考えている間に、ヘルガがこっちを見ているのに気づく。


 「どうする?」


 「、、、、どうする、というのはあの子達についていくのかどうかってこと?」


 「もちろん」


 「ってことは、あの子達が行くことは確定?」


 「まぁ、そういうことだな。とりあえず、

一回体験させたら分かるだろう。技術とか力とかそういったものじゃないものの差が」


 スッと、こちら側を見ている4人を見る。シェリとリウスはいいのだが、残りの2人は確かに理解させる必要があるのは確かだ。いつまでも、同じようなことを言い続けてくる可能性は十分ある。そもそも、なかなか騎士の人が実際に戦うところを見れることはないだろうし、そうのように捉えればあの子達にとっていい機会でもある。


 「はぁ、分かったわよ。一緒に行ってあげるわよ。ただし、レクと私、それと騎士の人達の言う事は聞きなさいよ」


 「おう!」


 明瞭な声で返事をするゲウラスを薄目で見た。


 場所は変わって、いつもの草原。子供達を連れてくるには来たのだが、果たしてモンスターがいるのかどうか。私としてはいない事を願うが。いつもの陽気な雰囲気が見事に霧散しているゲウラスとレイサを見ると、その感じでは到底戦闘の邪魔になるような考えはないように思える。実際にそうだと信じたい。


 「ねぇ、レクはどう思ってる?今までのモンスターの出方って、なんか変じゃない?」


 少し気分を変えるために、私と集団の一番後ろを歩いているレクの方を見る。


 「そうですね。誰かが主導しているとしても、大前提としてあの村を壊滅させるメリットって何もないんですよね。それに、もしあれほどの小規模な村を潰すなら一気にモンスターを襲わせるべき、と思ってるので、不思議だなぁ、とは思ってますね」


 「そうよねぇ。こんなちまちまモンスターが出てくるし、その種類は多いから少しづつだけど派遣された人が、何人か傷負ってるし、困るのよね。なんかのタイミングを待ってるのか、待ってるとしてもこの辺りには何もないんだけどねー」


 そんな話をレクとしながら歩いていると、あっ、いました!とこの時間の草原のこの付近の見回り担当の1人が言う。

 

 (はぁ、本当に何もしないことを願うしかない)


 そうして、歩いて行った先にはB級のモンスターがいた。そう言えば、最近はC級のモンスター見てないな。だから何なんだって話ではあるけど。今はそんなことよりも重要なことがあるのだ。チラッと、横を見る。そこには目を輝かせて、それでいてその顔には少しの緊張が見て取れる。


 「余計なことしたらすぐに帰るからね」


 一応、何度目かの忠告をしておく。小さく頷いたのを確認して、私も前の方に目を向ける。そこでは、すでにあらかじめ作戦が練られていたのか、5人がそれぞれ武器を構えて、位置についていた。モンスターの方も気付いていたようで、クリュュ!と叫びながらドタドタと長い二本の足でかけてくる。4mほどの体長でダチョウを進化させたかのような鳥、もどきがいる。長い首の周りには棘が生えていて、首を突き出しながら走ってくる。


 そんなモンスターに対して、しっかりと盾役がエイムをとって、速さがあるので魔法で足元を崩しながら、確実に攻撃を入れている。その様子を見て、さらに興奮したように身を乗り出しながら、ゲウラスとレイサは、わぁ!かっこいい!と声を漏らしている。


 「シェリとリウスは静かね。こういうのに特に興味はないの?」


 「いや、僕も2人と同じだよ?だけど、あの2人ほど興奮しないだけで、、、、」


 「私も同じですね。あの2人ほど興奮できないというか、、、、というか私としてはリンカさんが戦ってるところ見たいなぁ、って。えへへ」


 恥ずかしがりながらそう言う姿は可愛らしいのだが、


 「また連れて行ってほしい、と?」


 「え?あ、いや、そういうわけじゃ!」


 「ふふ、分かってるわよ。まぁ、最近レクとも打ち合ってないしね」


 「僕ならいつでもいいですよ?」


 「私がそういうわけにはいかないのよ」


 「とりあえず、私と話すよりも、あの2人と同じように、見てる方が得るものは多いわよ。それに、一応戦場でもあるからね。注意はしておきなさいよ」


 レクに、というよりもシェリとリウスに言っておく。


 私達が見守る中、やがて戦いも終盤を迎える。


 「ランドフォール!」


 1人が魔法を発動すると、見事に相手のモンスターが攻撃のために跳躍した、その着地点に穴ができ、そこにズボッと脚がはまる。体が前傾姿勢だったので、おそらく浅い穴だったのだが、それでも躓いて、クリュ!と鳴きながら前に倒れる。すぐに接近戦担当が、その首に剣を刺した。


 「うおぉぉ!カッケェ!」


 「勝ったの⁈勝ったの⁈」


 戦闘が終わると思うと同時に2人はせっせとモンスターのもとに寄っていく。


 「あ、おい!まだ行くな!」


 「余計なことするなって言ったでしょ!」


 私とレクが慌てて叫ぶがそんなことお構いなしに、進んでいく。


 (あのガキどもが!)


 やっぱりこうなるのか、そう考える自分と少しばかりの期待を裏切られた感じになりつつ、こちらの方に目を向ける後衛の魔法使いの少し前で2人の首根っこを掴む。そのすぐ後に、グリュェェ!と最後の力を振り絞って、長く鋭いくちばしを振り回した。それと同時に、首の周りの棘を撒き散らせる。結局、その攻撃は完璧に防ぐことができたので、誰も傷を負うことはなかった。だが、


 「ゲウラス、レイサ。自分が何したのか分かってんの?」


 手放して、こちら側を青い顔で見る2人に言う。レクもすぐに来たが、何も言わない。騎士達は倒したモンスターの処理をしていた。


 『ごめんなさい』


 そして、私達は静かに村に引き返した。



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