第14話 なんかいる 2

 「ぐぬっ!」


 なんとかギリギリのところで、汚らしい舌の攻撃を避ける。もし、この攻撃を食らえば鋭利な刃物が肌を刺した後に、その傷口に涎が染み込んでくる。痛いし、気持ち悪いで最悪だ。


 そんな愚痴を言ってる私の体にはすでに涎があちこちについて、きている服ももうボロボロだが。


 「魔衝波!」


 波の衝撃で体をあえて後ろに飛ばしながら、相手の案外軽い舌も反対方向に吹き飛ばす。


 舌が魔力の波で簡単に吹き飛ぶほど軽いのが大きなこちら側のメリットとなっている。だが、その舌は、切ればその切断面から新しい舌が2枚ニョキニョキ、と生えてきて、どんどん増えていくのだ。その結果として、今、目の前には舌が十数枚はあろうかという、気持ち悪いモンスターが出来上がってしまった。


 その様子はさながら、口にタコの足が外に出るように何体か咥えている感じである。


 (あぁ!もう!この、ゴキブリ未満のクソキモトカゲもどき!舌でいろんな方向から攻撃してくるし、柔らかいから、剣で防ごうと思っても、勝手に切れちゃうし!めんどいわね!)


 この汚い舌を切ってしまった時の絶望感と言ったら言葉にできるものではない。あぁ、また増えてしまう、そう途方に暮れてしまうだけなのだ。もっとも、それでボーっとただ立っていると、いろんな方向から滅多刺しにされて終わりだが。


 (本体に攻撃をしたいけど、舌が邪魔してくるし。どうしよ)


 上から伸びてきた舌を後ろに跳んで避けるが、ずっと後退してばかりで、埒があかない。


 「っつ!くっ!このっ!」


 左からきた攻撃をうまく回避するも、後ろからさらに別の攻撃がきて、新しい傷口ができる。

 

 さすがにこのままでは負けてしまう。なら、私の取るべき手段は一つだろう。


 「レク!援助を!」


 そう叫んだ次の瞬間、ズシュ、そんな音と共に、私の前方を囲んでいた舌が地面に落ちていき、鮮血を地面に散らす。


 (さすが、レクね。強すぎでしょ)


 レクの強さに少しばかりの驚愕と呆れを感じつつ、足に魔力を込めて、地面を強く蹴り飛ばす。


 血が体につく感覚に少しばかりの不快感を感じながらも


 「さぁ、まず一撃よ」


 未だ再生中の舌に守られ方はなく、無防備なその広い額に剣を振るい、デルベロの背中に乗る。


 攻撃を受けた部分で、鱗が辺りに大きく舞っているのがわかる。


 「グリュォォ!」


 その叫び声に呼応するように、後ろから舌が迫ってくるが、再びレクによってまとめて、切り落とされる。


 「ふぅ、これでようやく終えれるわね。私もやっぱりまだまだね」


 自分の非力さを改めて実感しながら、この巨体を見る。


 (さすがに剣の一撃じゃ無理があるわね)


 少しの思案の後、


 「それじゃあ、終えましょうか。

『魔輪』」


 私の体内の魔力がデルベロの首あたりに輪っかを作る。


 今や、デルベロの標的はレクの方となっており、再生しそうな舌はレクの方に向かっていた。要は、私から見たら隙だらけなのだ。


 そして、私はこの輪をどんどん強く締めていく。ある程度の強度になったところで、ようやく気づく。だが、時すでに遅し。


 もう一段階強度を上げると、その辺りの鱗が割れて落ちていく。そして、今や柔らかい肉だけが表面に残ったその首は、さらに強度を上げると、グチュ、と音を立てて、頭から上がドゴッと、落下した。


 「ふぅ、終わったわね。締めはそれほど派手じゃなかったけど、仕方がないわよね」


 そして、レクの方を見てグッと親指を立てた。


 ちなみに、レクの方に行って分かったが、だいぶレクの顔が引き攣っていた。








 レクがデルベロの鱗を丁寧に持って帰れる程度の量を剥ぎ取った後、周りを警戒しながら帰路につく。もし、今デルベロのようなモンスターが現れたら、レクに任せるほかないだろう。


 ちなみに、デルベロの鱗を剥ぎ取ったのは


 『B級モンスターの素材はあまり手に入るものではないので貴重なんですよ。だから、売ればそこそこの金になるんです』


 とのことだそうだ。


 村に帰るまでの道中では特にこれといったモンスターと出会うことはなく、無事に帰還した。


 そして、この村で唯一神聖魔法を使うことのできるシェリに傷を治してもらいながら、村長にこの事態を話す。


 「すみません。まだまだ未熟で全然治せなくて」


 「いいのよ。まだまだ先は長いんだし気にすることじゃないわよ。で、村長。これからどうするの?デルベロがいる場所はこの付近に一切ないんでしょ」


 「そうですね。もしかしたら、人為的に行われた事かもしれまんし。他にもいると考えて、対策を考えるべきです」


 「うむ、、、、この村にいる者でこれほどのモンスターに確実に対抗できるのはレクぐらいか」


 「そうね。もし何かあって私が戦ったとしても、絶対に勝てるとは言えないわね」


 村長はふぅ、と息を吐いて、水を飲む。


 「とりあえず、今すぐに誰かを一気に強くできるわけではないですから、近くの町の領主に話をしたほうがいいでしょう」


 「そうじゃな。幸い、この村は上流階級の方々が食べてくださる食物が採れる。きっと、多少なりとも戦力を寄越してくださるじゃろう」


 この村にそんな名産品なんてあったんだ、なんて場違いなことが頭によぎる。


 まぁ、本当の一番の問題は、あそこにデルベロがいたことなんだけど、今考えても答えなんて出ないしね。とりあえず、強くならないとね。死なないためにも。








 



 「ソリアスの襲撃に失敗しました。原因は、2名、腕が立つ者がいたことです」


 「ほう?そうか。それは予想外だった。だが、まぁ、この一回の失敗はそれほど大きなものではない。まだまだ使える道具はあるしな。とりあえず、ソリアスの土地は我の拠点となる場所だ。何としても、おとせ」


 「了解しました。直ちにそのC及びB級モンスターに襲撃させます」

 

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