第13話 なんかいる 1
さて、結局あの4人集の関係は変わらず、普通に楽しそうにしている。まぁ、多少のぎこちなさはあるけれど。ゲウラスを除いて。
なんてことなく村で過ごす毎日は非常に充実していると言っても良いだろう。まぁ、最初の数日、あそこまで晴れていたのが奇跡のようなものだった。普通に雨は降るし、なんなら普通に農作物を育てているので、雨が降らないと困るだろう。私もだが。
そして、今、私とレクは草原の方に来ていた。今回は、あの4人集の護衛ではない。
では、何をしに来たのか。それは、見回りである。レクの実力はもともと村でよく知られているが、私とレクとの模擬戦を見る暇なものもいて、それで私も普通に実力があると言うことで、今回のこの見回りにレクと一緒に派遣されたのだ。
更なる疑問として、だだっ広い草原を2人で何故見回りするのかと言うことだ。もちろん、草原の端から端まで行くわけではない。レク曰く
『この草原『ケラルト草原』は端から端まで歩いて行こうと思うと、そうですね、一週間は普通にかかるんじゃないんですかね?』
とのことだったので、到底不可能だ。村の大体2,3キロメートル離れたところの辺りを見て回るだけなのだが、実は村の、薬草採集に行った人が、厳密にはその護衛にあたっていた村の人だが、こんな情報を持って帰ってきたのだ。
『オークよりも少し強い魔力を感じた』
それで、村長がこれは性急に解消しておいた方がいい懸念材料、ということで、私とレクがその翌日にこうやって派遣されたのだ。
ちなみに、魔力を感じるとはどういうとこかというと、体内の魔力の流れをまず感じたが、それの影響で周りの魔力も感じ取れるようになるのだ。その範囲は、内在する魔力の量に関係があるらしい。
だが、
「うーん、いないわね。情報だとこの辺のはずだけど」
「そうですね。もしかしたらモンスターがもっと遠くに移動したのかもしれません」
そして、少し歩くと
「うん?」
「お、いたの?」
何かに反応した様子のレクに問いかけると、少し険しい表情をして
「確かに、オークを上回る魔力を持ったモンスターがいますね。今まで、こんなことはなかったのに、、、、」
「そう。まぁ、人間から見てイレギュラーなことなんて山のようにあるわよ。それより、倒そう?」
「えぇ、リンカさんでも余裕を持って対処できると思います。リンカさんって、魔力量も多いし、力もあるから何気に結構強いんですよね」
「何?私より上にいますよアピール?ふんっ、別にいいわよ。すぐにボコボコにしてやるわよ」
レクが歩き出した方向に、スタスタと歩いていく。
「あっ、あの、決してそんなつもりじゃなくて!って、ちょ、早いです!リンカさん!」
私を怒らせたと感じたのか、慌ててかけてくるレクに、笑顔を見せて、私達は感じ取った魔力の元に向かっていく。
「なんかいる」
私の目の前にいる、グルュルュ、と気持ち悪い声と細長い舌を出しているモンスターを見て呟く。
体全身が真っ黒で、周りの爽やかな黄緑色と全くの対照性があるため、とても浮いている。そして、その全身の色のせいで、大きい白目の部分が強調されて見えて、より気持ち悪い。
それに、4mはあると思うぐらいの体長でカメレオンみたいな感じで加えて、気持ち悪い。
「こいつは、デルベロというモンスターで、普段ここにいないような、B級モンスターです」
うん、名前にツッコミどころしかない。が、それよりも
「B級とは?」
「あー、えっとですね、モンスターはE,D,C,B,A,S級の六段階に強さが分類されているんです。B級を単独で倒せるだけで、相当優れた実力者と言えます。だけど、生息場所がこのレベルになると決まっていて、こんな場所にいるようなものではないんですが、、、、」
普段よりも険しかった顔の眉間に、よりシワがよる。
相手が何であろうと倒さなければいけないことには変わりないので、倒すために一歩踏み出した時
「グリュェェ!」
と唸りながら、細長く鋭利な舌を伸ばしてくる。
「いや、キモッ!」
反射的にそう言葉が出てしまうのも仕方がないこと。なんかよだれもボタボタ垂れてるし。
「あいつの攻撃方法はこれだけです!ただ、早いのと舌が鋭いので気を付けてください!」
と、デルベロの舌を隔てて反対側にいるレクが教えてくれるが、
「そんなもの、見たらわかるわよ!」
横に薙ぎ払うようにきた、舌の攻撃を上に跳躍して避ける。
しかし、その次の瞬間、ダンっ、と音を出しながら下を地面に打ちつけて横の勢いを殺して、上に方向転換してくる。
(案外、器用なことできるのね!)
今から腰に差している剣を抜いたとしても、おそらく間に合わない。ならば、と、両手を迫ってくる舌に向けて、魔力をこめて
「魔衝波!」
魔力の波を出して私と舌の間でそれらをぶつけ合う。その反動で私と舌は反対側に吹き飛ばされる。
そして、地面に着地すると同時に、すぐ近くに涎がまとわりついた舌が迫ってきていたが、
「待ってたわよ。その自慢の舌、切り落としてあげる」
柄にそえていた手をグッと握りしめて、足を踏み込みそこに魔力をこめて、抜剣と同時に地面を蹴り上げて、舌の先端を斬り落とす。
デルベロの、グリュェェ!という咆哮を聞いて、確かな感触を実感して、勢いに乗っていこうとした時、
「リンカさん!そいつのベロは、再生します!」
「え?」
レクの叫び声に反射的に後ろを振り向くと、切断面から枝分かれするように、2枚の舌が私のもとに伸びてきていた。
慌てて後退すると
「リンカさん!助太刀します!」
そんな声が聞こえてくる。
(正直、レクの助けはありがたいけど、自分1人で倒せないことはないし。これからのためにも、、、、)
「大丈夫よ!まぁ、ただ、万が一の時のために準備だけはしといて」
レクの方をチラリと見ると、剣の柄の部分を握りながらも剣先を地面に向けていた。
「ふぅー」
一つ、息を吐く。
「かかってきなさい。死ぬ覚悟でね」
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