第9話 魔法、私は使いたいんだー!

 さて、私は魔法の勉強を始めた。滑り出しは完璧と言って良いものだった。そう、滑り出しは。


 「はは、見たか、魔法の難しさを!リンカ!」


 そう笑いながら、レクとの武器のみを使った訓練で再び負けて、大の字になって倒れている私の前に立つゲウラス。


 「おい、人が失敗してるのを馬鹿にするんじゃない。そもそも、お前より早く魔力を感じ取れたんだから、お前より才能はある」


 「いーや、まだわかんないね。これからだよ、これから」


 私にマウントを取られた仕返しと言わんばかりに、言ってくる。


 そんなゲウラスに対して、リウスが、ダサいよ、レクさんの言うとおりやめときな、と言う声がかかる。流石、レウス!シェリと並んで優しい。他の2人とは大違いだ。


 ちなみに、レイサは今、家の手伝い中である。


 で、滑り出しは順調だったので、何が起きたのか気になるだろう。


 じつは感じた流れが、血液だった?もちろん違う。じゃあ、それが実は魔力に見せかけた何かだった?そんなことはない。そんな未知の生命体ではない。異世界出身とは言え、人間だ。


 では何なのか。


 「いや、まぁ、こればかりは仕方がないですよ。リンカさんの魔力がここまで多いのは予想外でしたし、滅多に起こることじゃないですから」


 そうレクが苦笑いしながら言う。そう、私の身に一般の人であればなかなか起こり得ないことが起きたのだ。


 それは、魔力が多すぎて、初めて魔力を体外に出す時、体内から外に魔力を出すための『魔孔』が開きすぎたのだ。


 モンスターというのは魔力の密度が高い場所に集まるらしく、一応その時は、私の体内から魔力が全部出て村の方にモンスターが来たら大変だ、ということで草原の方に行って第二のステップ、魔孔の開け閉めを自在に行えるようにする、これをやったのだ。


 その結果、体内の魔力を体外に出そうとすると、膨大な魔力が一気に魔孔に押し寄せて、それを体外に出すために魔孔が通常以上に開いてしまったのだ。


 そのため、今も第二のステップを越えるべく訓練をしているのだが、どうにもその影響で必要以上に魔孔が開いてしまい、体内の魔力が無くなってしまうのだ。


 で、体内の魔力がなくなったら、体のバランスが崩れて、極度の頭痛や吐き気やらを催す。


 さらに、魔力は自然に回復して、その回復量は人によってまちまちだが、私の場合は1時間の魔力最大量に対して十分の一なので10時間もかかる。これでも、だいぶ早いらしいけど。


 で、こういったことを学んでからも、もちろん、やり続けたわけだが


 「全然進歩している感じがない」


 「いやいや、そんなことないですよ!最初に比べればだいぶマシになりましたよ!」


 「やるたびに、私の魔力、全部外に出ていくんだけど?」


 「い、いや、確かにそうですけどね?魔孔からの魔力の出方もだいぶ変わってますから、ね?」


 レクが必死に私を励まそうとしてくれる。いや、へこんでいるということはない。だって、魔法使いたいし。


 「ま、せいぜい頑張るんだな!ハハハ!」


 「ゲウラス、そういえば、ゲドラスさんが朝、怒ってたよ。なんか、『あいつ、俺の気に入ってた器、壊しやがった。絶対ゆるさねぇ』って」


 ゲドラスはゲウラスの父であるが何やらやらかしたらしい。調子に乗っていたゲウラスの顔は若干青くなり、


 「俺、もう少しここにいるわ」


 「いずれにせよ家に帰るんだから、正々堂々怒られなさい。フッ」


 私は立ち上がり、そう言った。



 





 


 「で、私はいつになったら出来るようになるのかしら?まぁ、別にそんな急ぐことでもないんだけどね」


 そう、ガイエルの家のベッドの上で上半身だけを起き上がらせながら、横で看病してくれていたレクに聞く。ちなみに、病気なったと言うわけではなく、体内の魔力が一気に外に放出されて、倒れたのだ。もう軽く両手で数えられる回数は超えている。


 なんで魔力がなくなったのか?言わなくても分かるだろ。


 「そ、そうですね。もうしばらくかかるんじゃないんですかね?」


 恐る恐るといった風にレクは言う。いや、まぁ知ってたけど。てか、別に怒ってないし普通に言ってくれてもいいんだけど。


 「はぁ、対策、考えなきゃね。ずっとこのままじゃ流石に良くないし」


 「そうですね。ずっと同じことの繰り返しですからね。とは言っても、少しでも魔力を出そうとすると、全部流れ出ちゃうんですよね。水みたいに」


 「最後の例えはなくていい」


 「あ、す、すみません」


 しょうもないことを言うレクに釘をさしつつ、今後どうするかを考える。


 (流石に、これの繰り返しは時間の無駄。魔力が回復するまで寝なきゃいけないのもあるし。さーて、どうしようか?)


 そして、私とレクの間に沈黙が流れる。しばらくこの状態が続いていると


 「リンカー!起きたー?」


 大きな声でレイサが私の名前を呼ぶ。いや、私が寝てたらどうすんだ。病人じゃなくても、寝てる人への対応は考えろ?


 うん?お前は子供へと態度を考えろ?知らない、そんなこと。煽られたら、煽り返す。基本よ!


 「うーん、2人何してたの?どっちも難しい顔してるけど」


 「いや、どうしたらうまくできるようになるかなぁってね。まぁ、あんたには難しいことよ」


 「え?やっぱりお姉さんって私のこと馬鹿にしてるよね?」


 ねぇ?と、私に頬を膨らませて詰め寄ってくるレイサをいなしながら、どうしようか、考えた。


 結局、この日のうちに解決策は出なかった。






 そして、レクと模擬戦をして負けて、魔力を出しては倒れて、そんな日々を繰り返してもう一ヶ月ほどの時が流れた。

 

 こんなことをしている間に一切進歩していない、なんてことはない。着実に進歩しているのが、ステータスを見ることでわかる。


 名前 ヒメミヤ リンカ


 年齢 17歳


 体力 1400


 筋力 1350


 魔力 1500


 スキル ブースト(1/5)


 魔法適正 無


 加護 武の神(強)、愛の神(強)

    知の神(強)、自然の神(強)



 これが村に来た時点でのステータスである。レベルという概念はないが、それでもこのステータスの上がり方は、そんな概念が裏にあるのではと思う。


 名前 ヒメミヤ リンカ


 年齢 17歳


 体力 2980


 筋力 3100


 魔力 4250


 スキル ブースト(1/5)


 魔法適正 無


 加護 武の神(強)、愛の神(強)

    知の神(強)、自然の神(強)


これが今のステータスである。まず、モンスターは時々倒していたが、それ以上の上がり方を魔力はしている。レク曰く


 『魔力は使うとどんどん増えていくんです。しかも、それは使う量と相関があるんです』


とのことなのだ。なので、一回使うたびに魔力が全部なくなる私は、異常な上昇をしているというわけだ。


 また、筋力も体力に比べれば増加しているが、これはレクとの訓練が影響している。レク曰く


 『筋力は、戦闘でも訓練でもなんでもいいので使うと上がるんです』


 とのことだった。この世界は思ったより、レベルというものに依存しているわけではないようだ。まぁ、ステータスにレベルの項目はないけど。


 で、それはどうでもいい。問題はいまだに、魔力の放出がうまくいっていないこと。


 「ふぅ、何度も倒れた。もう何回目か分からない挑戦。さぁ、できるまでいくわよ!」


 「お姉さん、すごいね。私だったらとっくに諦めてるや」 


 「ふっ、他の人には分からない執念があるのよ!私は魔法が使いたい。魔法、私は使いたいんだー!」


 さぁ、やるぞ。


 グッと集中して、体内の魔力の流れに全神経をよせる。体内から魔力がドバドバ流れ出ていくが、


 (ふんっ!閉じろ!私の魔孔!)


 そう念じていると、ついに私の思いが届いたのだろうか。体外に向かっていく魔力の流れの向きが変わって、体内に循環し始めた。


 「うぉし!やったぞ!ついに、やったぞ?」


 喜びも束の間。激しい頭の痛みが襲い、また倒れていった。


 (でも、できた)

 

 



 


 

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