第7話 平和に過ごそう
たった1人で異世界に来て、スタート地点はまさかの草原。人と会えずに、彷徨い続けた。そして、スライムを蹴り続けて、ゴブリンを棍棒で殴り続けて、心の落ち着くことなかった1日。ようやく、私は平穏を掴み、それを謳歌していた。
私が身を乗り出して、なんでもします宣言をしてから一週間、結局村長から言われた、やってもらいたいことは、私がある程度肉体労働ができると言うことで、レイサ達や村の夫人達が行く薬草や、私が来た反対方向にある少し遠い森林へ食料を取りに行く時の護衛を任ぜられた。
そのために、この村で最も剣を扱えるらしいレクに、剣の扱いを指導してもらったりしていた。
実に平和である。
「あっ、いたよー!おーい、お姉さーん!」
1人、村のはずれで雨の日を疑うような3日連続の快晴の天気を見て
その方向を見ると、幼さが残る顔と若さを感じさせるその雰囲気にピッタリと合致する、赤目、赤髪の中学生ぐらいの少女がこちらに向かって駆け寄ってくる。そして、その後ろには同じ程度の年齢の少年、少女が3人、後をついてきていた。
「何かいたの?ゴブリン?」
「うーん、心配しなくてもそんなのはいなかったわよ。ただ空を見てただけ」
そう言うと、つられるようにレイサも空を見る。
「レイサ、早いって!もっとゆっくり行けよ!」
「えぇー、弱々だなぁ。そんなんじゃ、ゴブリンにも勝てないよ?」
どうやら走りが早いらしいレイサに文句を言ったこの男の子はゲウラスという。レイサと同じぐらい深い赤色の髪と、青目を持ったおり、また身長がすでに私と同じぐらいあり、体格もかなりいいので、きっとガイエルの筋肉に憧れているのだろう。
「レイサが早いのは変わらないですよ!」
と肩で息をして、それに合わせて水色寄りの青髪を揺らして、多くの日本人が持つ黒目と大差ないその目を細めながら、シェリが言う。
「はぁはぁ、ふぅ、少し休憩」
そう言いながら、地面に座ったのはリウスで、緑目緑髪のこちらは線が細く、戦闘には向いていない体格を持った男の子。この中だと、インテリ役っぽい。
「うーん、レイサのその体力はどうやって身についたのよ。あんたは別に戦ったりしないでしょ」
自分もこの成長チートがなければ、シェリみたいな感じだったんだろうなぁ、とか思いながら聞いてみると、
「知らない。なんかこうなってた」
「なるほど、生まれからガイエルの素質があったわけか」
そう言うと、こちらをキッ、と睨んできて
「あんなゴブリンに筋肉付けただけみたいな人と一緒にしないでよ!」
と強めに言ってくる。うん、かなり可哀想だ。ここは少しフォローを。
「流石にそれは言い過ぎじゃない?せめて、ゲウラスの大人版ぐらいにしてやりなよ?」
「え?俺、馬鹿にされてる?ガイエルより賢いと思うけど」
「うん?あんたは結構馬鹿そうに見えるわよ。こう言っちゃ失礼だけど。てか、逆にそんな馬鹿なの?ガイエルって」
そう言うと、4人はどこか遠い目をしながら、頷いた。どうやら、先に何かやらかしてるっぽい。あえて聞かないでおこう。そのエピソードを聞いた後にガイエルを馬鹿にしても仕方がない。
気持ちを変えるために、鳥の声が響き渡る綺麗な空を見た。あ、雲がある。どうやら、雨は降ることもあるらしい。
「ガイエルさんってすごいんだよねー。
近くに斧がなかったら、手で木を割るし」
え、馬鹿じゃん。
さて、流石にいつまでもこんなことはしていない。先ほども言ったように、レクとの訓練があるのだ。話もほどほどにして、
「よし、レクのところに行くわ」
そう言って、立ち上がり歩き出すと4人もついてくる。そして、レクの家に向かい、
「レクー、来たわよ。今日もお願いね」
レクの住む家に特にノックもせず、入っていく。最初にここにお邪魔した時に、ノックはせずに自由に出入りしていいと言われたので、しないようにしている。決して、図太い神経を持った人間ではない、と思う。
やがてドタドタと慌ただしい音を立てながら、レクがやってきた。
「リ、リンカさん。おはようござます!」
「おはよう。で、なんかしてたの?それならまた後で来るけど」
「いえ、そんなことは!ただ家でゆっくりしてただけです。すぐに準備するんで、先に外で待っててください!」
「そう、分かったわ」
そして、レクの家の裏側に回る。その間ずっと、シェリを除く3人はレクが顔赤くして私と話していたことに、ニヤニヤしていた。
(まったく。まぁ、子供だから仕方がないけど。でも、レク、ごめんね?)
と、レクの内心を思って謝っておく。別に謝る必要があるかと言われたら、ないけど。
レクがやってくるのを待つこと1分も満たないぐらいだろうか、日本の細い丸太のようなものを担いでやってきた。その一本を私に渡して、
「それじゃあ、よろしくお願いします」
「お願いするのはこっちなんだけどね。じゃあ、早速いくわよ。ちびっ子どもは下がってなさい」
そう4人に向かって言うと、こちらに輝く目を向けながら、りょーかい!と元気よく返事をする。
レクと4,5mほどの間をとって、お互いに細い丸太のようなもの、練習用武器を構える。
「いつでもかかってきてください!」
「それじゃあ遠慮なく!」
ぐっ、と地面を蹴り、レクとの間合いをつめる。
ほんの数日前の私には考えられないほどの身体能力と、異世界の恩恵に感嘆しつつ、
「フッ!」
そんな掛け声と共に横から入れた攻撃は、
二つの武器がぶつかる、カァンという音と共に容易く受け止められる。
と、同時に左脚を軸にして右脚を回すも、レクが後退したことで、虚しく空を切る。
「どんどんきてください!」
「言われなくても、やってやるわよ!」
地面を蹴り、再び開いた間合いをつめて、武器を振るう。右斜め上から、横から、受け流された攻撃を強引に反側に方向転換させて再び攻撃するも、受け止められる。
すると、レクが初めて一歩前に踏み出して私の横から振るった攻撃を弾いたのち、脇腹に攻撃を入れてくる。
「ぐっ!きっつ!」
苦しいながらも、その攻撃を武器で受け止めて、地面を蹴り後退する。
しかし、後ろに跳躍している間に、それについてくるように前進してきて、武器を振るってくる。
そして、その攻撃を何とか受け止めていたが、
「っ!」
私が、バランスを崩して後ろに倒れた時には、すでに武器が私の前に突きつけられていた。
「ありがとうございました」
そう言いながら、レクは武器を引っ込める。
「はぁー、また負けたー!」
大の字に体を広げながら、地面に倒れる。
「成長はしてますよ。ただ、まだ、武器の扱いが荒いですね。一撃は強くなくてもいいので、もっと早く、なるべく相手の姿勢を崩すことを意識しましょう」
(うーん、やっぱりレク強くない?どこでこんな鍛えたのよ)
そう思いながら、立ち上がり
「よし!もう一回よ!」
武器をレクに向けながら言った。
ちなみにこの後5回やって全敗でした。うん、これをやり始めて一週間一度も勝ててない。
「まぁ、私とレクの経験の差が原因ね」
「お姉さん、負けは負けだよ?」
そう正論をぶつけてくるレイサにチョップしておいた。
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