第5話 神はここに!

 あぁ、今の私は喜びやら興奮やらで、心臓が飛び出そうだ。さっきまで、失意のどん底にいたというのに、である。その理由は、


 「お姉さん、本当に変わってるねぇ」


 「こんな草原に1人で迷子だもんね」


 「こら!2人とも、困ってる人に悪いこと言うんじゃない!」


 「あはは、事実だし。それに、顔赤いよー?へへ」


 そんな楽しそうな会話が私の前で行われている。だから、嬉しい?いや、厳密にはそう言うことではない。なんなら、もっとハードルが低い。なぜなら


 (人、人に会えた!あぁ、もうそれだけで生きていける!)


 そう、ただ人に会えた、その事実だけで私は今には心臓が飛び出そうなのだった。では、私がこの者たちに出会うまでの冒険、というか放浪に近いけど、をお話ししよう。


 まず、この見知らぬ世界に転移されて右も左もわからぬまま進み、スライムに出会い、よく見えない夜にゴブリンと2体同時に戦って、

その後もただひたすらに歩き続けた。


 もちろん、何にも会うことなくただ歩き続けたわけではない。その間にも、ゴブリンやスライムとの戦闘はもちろん、ツノの生えたうさぎや、クェー!と叫びながら突進してくる(恐らく)飛べない鳥であったりといろんなモンスターに出会った。


 そして、その道中で最も苦労したのが、廃村のような場所での戦闘である。


 感想を述べるなら、信じられない、その一言に尽きる。まず、武器がない。そして魔法も使えない。さらに加えて、異世界初日ですでに何キロ、いや十数キロと歩いた後での重たい戦闘である。本当に信じられなかった。


 まず、廃村を見つけたのは良かった。初めは人がいる!よっしゃ!匿ってもらうぞ!なんて意気込みつつ入っていったら、真っ暗。いや、夜だからとかそう言うことではなく、人がいる街特有の活気とかそう言ったものが感じられなかったのだ。


 それでも、淡い希望にかけて一番近くの小屋に、すみませーん、と言いながら入ると、


 「グギャ?」


 そんな声が返ってきた。その瞬間、感情を殺して、すぐに間合いを詰め、棍棒を振るう。グギャァ、と言う声と共に撃沈していったのだが、


 「グギャッ!」


 と、2体目のゴブリンが横から跳んできたのだ。それは簡単に返り討ちに出来た。ここまではよかった。今までの戦闘で、全体的にステータスは上がっていたから、正直疲れていても一対一は余裕だったのだが、小屋から出ようとした時、外からさらに人を不快にするような多く聞こえてきた。


 (え、ちょっと、え?嘘でしょ?声聞くだけでも2体とか3体っていう数じゃないんだけど?)


 そして、咄嗟に辺りを見回すが、特に隠れる場所はなく、壁の方によっても、もしかしたら棍棒を振り回して壊してくるかもしれないので、とりあえず小屋の中央で棍棒を構える。


 だんだんとゴブリンの声が大きくなっていき、そして


 『グギャァ!!』


という声と共に、ドアが乱暴に開かれて、壁の方も、ドンッ、ドンッと叩かれる。それに合わせて、年季の入った木材から木片が剥がれ落ちていく。


 とりあえず正面のドアから突っ切ってきた先頭のゴブリンを、開いた瞬間に間合いを詰めて吹き飛ばす。さらにつられて、後ろにいたゴブリンたちも倒れていくが、開かれたドアから様子を見るだけでも5体はいた。


 (え?どうすんのよ。このままだと本当に詰みよ?とりあえず、ここから出る方法をっ!)


 そして、狭いドアから流れ込んでくるゴブリンを一体ずつ吹き飛ばしながら、壁が壊される前にこの部屋から出ようと試みる。


 「セイッ!」


 小屋の中に入ろうとしてくるをゴブリンを何度も突き飛ばし、タイミングを見て、ゴブリンを飛ばすと同時に自分自身も小屋から転がり出る。そして、そのタイミングに合わせるように、壁が壊れてゴブリンが小屋の中に入っていく。


(よっし!ベスト!完璧!最高のタイミング!)


 そして、後ろのゴブリンが来る前にがむしゃらに棍棒を振り回して前進する。そうして、包囲された状態から脱却したところで、後ろを振り返ると、ゴブリン達がグギャグギャ鳴きながら、後ろから追ってきていた。


 そして、さぁ逃げよう、そう思ったところで前からさらに三体ほどのゴブリンが迫ってきた。


 (はぁ、なんであれで全部じゃないのよ!マジでふざけんな!)


 三体とはいえ、あれに向かって棍棒を振るっている間に後ろのゴブリン達が追いつくのは間違いない。


 「グギャギャ!」


 「こうなったら、正面から切り抜けてやるわよ!」


 そして、正面に突っ込んでいき、それに合わせて振られた棍棒を避けて、その脇腹に一発。さらに、右からの攻撃を後ろに弾き、前に転がる。左手側にいたゴブリンは棍棒が空を切り、その勢いのままバランスを崩す。


 バランスを崩したゴブリンに一撃を決めて、後ろに弾いたゴブリンが突進してきたので、それをいなしてガラ空きの脇腹にさらに一撃。


 (はぁ、成長チートのおかげね。一撃で済むのがありがたいわ。でも、)


 と、前からさらに迫り来るゴブリンを見た。


 「さぁ、行くわよ。私には生きる意志がある。こんなとこで死ねないのよ!」


 そして、7,8体ほどからなるゴブリンの群れに突っ込んでいった。









 そして、時は経ち


 「はぁぁ、終わった、、、、」


 と、目の前に転がるゴブリンの死体を見た。棍棒による打撃で倒したので、鮮血が地面に広がっていることはないので、グロテスクな光景ではない。まぁ、それを気にする余裕なんてなかっただろうけど。


 ゴブリンを一体倒すのは基本、一撃だったので、結果的に戦闘は短く済んだ。しかし、横や後ろから次々に攻めてくるので、攻撃を避けて、受け止めてを繰り返しつつ、反撃の機会を窺っていたのでなかなか神経がすり減らされた。


 「さぁ、ここにいても仕方がないわ。さっさと進まないと」


 これが、最も苦労した戦闘だった。






 そして、この後は度重なる戦闘の疲れから、誰かに出会えることを願ってゆっくり進む。どんどん、日は登っていき私を真上から照らし始めた頃、もうぼーっとして何が何だかよくわからなくなっていた時、


 「よしっ!もう十分でしょ!それじゃあ帰ろう!」


 そんな声が聞こえてきた。そう、人の、人の声が聞こえてきたのだ!


 ってちょっと待ちなさい?帰る?おーい!ここに迷子がいまーす!17歳、いい年した迷子がいまーす!


 そうして、疲労で動き鈍い足をなんとか持ち上げながら、進んでいく。すると、


 「あっ、レクさん!あそこに誰かいますよ?」


 そう誰かが言う声が聞こえる。


 うん、ありがとう。気づいてくれて。どうやら、神はここにいたようだ。


 そうして、私は若き青年レク、中学生ぐらいの年齢のシェリとレイサに拾われたのだった。


 ちなみに私に気づいてくれたのはシェリです。

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