ep.7 過去!

 トータスの甲羅の中に入った小石が回転しながら突進してくる。

加えて、甲羅の側面からも弾丸を放ってくる。


「なんでもアリかよ!!」

「それがクリーチャーガンだ!」

壱の言葉に、仁子は返す。


「ここじゃ危ない!広いところに!」

四乃はオラングタンの腕で一同を抱きかかえ、移動した。

気絶していた奈緒は、四乃が忘れていたのかそのままだった。


小石は、彼女らを追った。


「必死に戦ってくれてる

やっぱりクリーチャーガンハンターは本物だにゃ」

陰から見ていたひなたが、カメラでその様子を捉えた。



 四乃に運ばれた一同はグラウンドへ着地した。


「みんなー!危ないから逃げてー!」

四乃は活動中の陸上部に呼びかける。


「アレが噂のクリーチャーガンハンター…」

「おぉ〜」

陸上部の部員二人、壱らのクラスメートでもあるゆう絢瀬あやせが反応する。


「うわっ!!」

追いついてきた小石の攻撃を仁子は躱す。


「あんまし近づいたらヤバイよ!」

「ううっ!

…?」

壱が身構えると、思わず出現したシャボン玉で防御していた。

「こんな技、使えたのか」


「彼女も防御技を…

壱さん!」

「何だ?」

美久は、壱に提案する。

「できるだけあの子に近づいてください!

私、いいこと思いつきました!」

「何をする気だ?」


「来た!

そこにしゃがんで、腕を前に!」


向かってきた小石を前に、美久は壱に指示を下す。

「あぁ!」

先程のシャボン玉で小石の攻撃を防ぎながら、美久の言う通りの体勢になる。


「すみませんこれ、借ります!」

美久は近くにあった高跳びの棒を手に取る。


「行きますよ壱さん!動かないでください!」

壱の手首の上に棒を乗せる。

そこを中心にして、手に持っている方を長くし、もう片方の短い方を下にした。


「うりゃぁぁぁぁぁ!!!!」

短い方に小石の体が乗っかると、長くした方を引き下げて、その勢いで小石をトータスの甲羅ごとひっくり返した。


「梃の原理か、やるな」

仁子は感心した。


「うぅぅ〜、目が回った〜…」

甲羅が畳まれ、姿が顕になった小石が、ふらふらと立ち上がる。


「気を失いかけている、今だ!」

この瞬間に、仁子は攻撃しようとした。

だが、その時…


「役立たずが、殺れ」

茂みに隠れていた黒コートの女が、近くにいる大型クリーチャーガンを持った生徒に指示を送った。


その生徒が小石に向けて砲撃する。

鈍い発射音と共に放たれた砲弾は小石の胴体を貫き、血液と臓物を飛び散らせた。


眼の前に広がった凄惨な光景に驚愕する一同。


「非常に残念だ

たった一つの使い道を見込んで彼女に賭けたものの、こんな結果に終わってしまうとは」

黒コートの女が小石の死骸に近寄ると、落ちたトータスを回収した。


「お前は誰だ!そいつを返せ!」

「名乗る間でもない」

仁子は言い放ったが、黒コートの女はこう返した。

直後、地面から複数の触手のようなものを生やし、それらの先端から電撃を放って攻撃を仕掛けた。

クリーチャーガンハンターの面々がそれに怯んでいるうちに、女は消えた。


「くそっ!」

仁子は歯を食い縛る。

他のメンバーは、ただ呆然と立ち尽くしていた。



 事件の後、問題の新聞は全て回収して処分されることとなった。

風紀を乱す原因となったことおよび、教師陣にも多大な迷惑を被らせたことで、新聞部は風紀委員によって活動停止を命じられた。


生徒会室では、茜が鳴に話しかけていた。

「例の新聞に使われた写真、やっぱり偽物だったみたい

これでクリーチャーガンハンターの容疑も晴れて、無事に活動再開だよ」

「ふぅん、そう…」

「どうしてそんなに関心なさそうなの?

今までずっと学校の平和を守ってきたのはあの人たちなんだよ」


「こんな調子で、守れてると思ってるの?」

鳴は立ち上がって言った。

「今までに何人の生徒たちが亡くなってると思ってるの!?

アイツらは自分勝手で、本当は誰も守る気がないのよ!

何より気に入らないのは…月岡があの中にいることよ!!

あんなヤツを入れるなんて、ホントにどうかしてる!一体どこまで落ちぶれた組織なのよ!!」


「そんな

あの人たちはちゃんとした思いを抱いて戦ってるんだよ

それを自分勝手だなんて言うなんて…」

「アンタ何か隠してるんでしょ?

ホントはアイツらと何か関係があるんじゃないの!?」


「「お見苦しいです会長」」

串野姉妹が言った。

「何よ」


鳴が反応すると、二人は交互に話す。

「何も彼女たちが有害な集団だと決まったわけではありません」

「彼女らのことを個人的な目線で語るようなら、そのようなデータを示してから話していただきたいのですが」


「くッ

ならアンタたちがそうしなさいよ!」


「まだ調べて価値の得られるものかどうかは確定していません

しばらくは観察する程度で」

「そのような仕事は、生徒たちのことをよく知り、学校全体を善き方向に導くべき生徒会長のあなたがするべきことなのではないでしょうか?」

「人それぞれの個性も尊重できず、自分の考えを押し付けて閉塞感を齎すことしかできないなんて…」

「会長…」

「「まだまだです」」


「…もうッ

勝手にして!」

鳴は、室内から出ていった。


「会長…

私、まだダメなのかな…?」

茜は、呆然と見つめながら言った。


「まずは、ヤツらの発生源について調べる必要がありそうね」

「そうね、美優」

串野姉妹は顔を合わせる。



 その頃四乃は、皐がいる病院に来ていた。

「皐っち〜!見舞いに来たよ〜!」

「なんだ、四乃か」

「調子はどう?」

「まだ、全快までに数週間はかかる

動けなくて実に退屈だ…

それで、壱のヤツはどうしてる?

こうなってしまって、勝負も何もないよな…」

「イッチーなら、無事にメンバー入りしたよ!

近頃はちゃんと頑張ってるし!

(成績は相変わらずだけど)」


「そうか…

なぁ四乃、アイツは導いてくれそうか?」

「へ?」

「ただ本能のままに動くだけの空っぽのミーに、戦う理由を見出してくれそうか?」

「そんなことも忘れちゃったのかよ?

皐っちは空っぽじゃないよ

戦う理由なんて、十分にあるじゃん」



 これは、彼女らがクリーチャーガンハンターに入ったきっかけである。


皐が一年生だった頃。スケボーで登校し、校門前で生徒会役員の鳴に注意される。

「こらそこの女子!スケボーで登校しないって何回注意されたら分かるの!?」

「だって、スケボーで登校しちゃダメなんて校則ないもーん♪

それにこのスケボーはミーのアンデンティティたがら、手放す訳にはいかないんだ」

「校則に書いてなくとも、一般常識で考えられるでしょ!

…はぁ、理事長にでも直接訴えて、もっと校則を厳しくしてもらわないとダメね」

「そんじゃ、お先にー!」

「待ちなさいよ〜!!!」


「今日も充実してるな〜」

その日の昼に、グラウンドの近くを歩いていると、逃げ惑う生徒たちに出くわした。


「何だ?」

「ここいたら危ないよ!逃げて!」

生徒の一人が話しかけた。


「ウチのことを馬鹿にする奴は、みんな潰す!!」

グラウンドの方を見渡すと、そこにいたのは二本の長い腕を持ったクリーチャーガンを握っている四乃だった。

「アイツは…!」


「た、助けて…!」

腕に掴まれる生徒が言う。


「やめろー!!!」

皐は、スケボーを走らせた勢いで四乃に体当たりした。


「あ、ありがとう」

「早く逃げるんだ!」

クリーチャーガンの手から離された生徒を逃がす。

「はい!」


「何してんだ!ユーはこんな事するヤツじゃないだろ!」

皐は、四乃に訴えかける。

「よくもウチの邪魔してくれたな

ちょっと頭がいいからって

そういうヤツはみんなくたばればいいんだ!!」

「落ち着け!まず、その物騒で変なヤツを手放すんだ!」

「うるさいっ!!」

四乃は、手にしたクリーチャーガン・オラングタンの腕を伸ばし、皐の首を締めようとする。


その時、どこからか銃撃が四乃に向けて放たれた。

「大人しくしろ!その銃を下ろすんだ!」

そこには、ライオンを構えた仁子と、美久の二人が立っていた。


「また邪魔が入ったか

その首をへし折ってやる!!」

二人を見て威嚇する四乃。

「そうはいかんぞ!

喰らえッ!!」

仁子はライオンから弾丸を放ち攻撃する。

弾丸がいくつか、四乃の体に当たりそうになる。


「よくわかんないけど、危ないじゃないか!

たしかにミーの命も危なかったけど…

こんなことしてたら四乃が死ぬッ!!」


「お前こそそこにいたら危ない!邪魔だッ!!」

仁子は攻撃を続ける。

「そうです!そこにいたらあなたも死んでしまいます!」

美久もこう言い放つ。


「こんなヤツにやられて…

たまるかァァァッ!!!!」

四乃は身軽に回転し、振り回したオラングタンの腕で三人を弾き飛ばした。


「「「ぐあああッ!!!」」」


「このヤロー…」

皐は立ち上がりながら、スケボーに足を乗せる。

「いい加減

目を」

スケボーを走らせ、四乃に突撃する。

「覚ませッッッ!!!」


「ぐはぁッッ」

この勢いで四乃の腹部に拳を喰らわせた。

四乃が手放したオラングタンが、どこか遠くへ飛んでいった。

そして、気絶し倒れた。


「ハァ、危なかった〜…」

皐は一息ついた。


「命知らずが…!

しかし銃はどこいった!?」


「無事だったみたいですね」

皐に話しかける美久。

「ユーたちは、一体何者なんだ?」


「私たちはクリーチャーガンハンター

この学校を中心に蔓延る異形の生物、クリーチャーガンを退治する者さ」

仁子が答えた。

「クリーチャーガン…ハンター…?

つまり、ユーたちはこの学校を守るために戦ってると?」


「勘違いするな!

別に人々を守る為に戦ってる訳じゃない」

仁子は言い放つ。


「それよりも、仁子さん

この人はどうすれば…」

「ついさっき通報があったことから考えれば、この子は恐らくは誰も殺してないだろう

保健室にでも連れて行け」

「わかりました!」



 四乃は、保健室にて目を覚ました。

「…あれ?

ウチ、どうしてここに?」

「気がついたんだね四乃!ユーはさっき、クリーチャーガンだかいう変な銃に操られて、暴れてたらしんだ!」

「うそ、ウチが…そんなことを!?」


「幸い、人は誰も殺してないみたいなので安心してください!」

と、美久。

「はぁ…なら安心した…」


「もしクリーチャーガンを手にして、一人でも殺したなら、政府の隔離施設で暮らさなきゃいけないことになるからな

それで君、なぜあんなものを手にした?」

「えっ、そ、それは…」

四乃は仁子に訊かれると、言葉に詰まった。


「何も怖がることはありません

正直に何でも話していいですよ」

美久が穏やかに話しかけた後、四乃は話し始めた。


「ウチ、辛かったんだ

木田家の人間なのに、何の取り柄もないし、授業で失敗してみんなに馬鹿にされるのが

だから学校に来るのも怖くて、みんないなくなっちゃえばいいって思った

それでウチ…つい手を出しちゃって…

うぅ…うああぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!!!」

四乃は泣き出した。


そんな彼女に、皐は話しかけた。

「ならミーから聞こう

四乃、自分が誇りを持って得意だと言える事は何なんだ?」

「そ、そんなのないよぉ〜…」

「人間、得意な事の一つや二つくらいはあるだろう?冗談でもいいから言ってみろよ」

「ええと…

別に得意なことって訳じゃないけど…

ウチ、クレーンゲームにはまってて…なんでいうか、その間だけ、嫌なことが忘れられるというか…」

「クレーンゲームねぇ、いい趣味じゃんか!」

「えっ!?別に趣味ってわけじゃ…」

「それほど熱中できるんなら、もっと極めればいいじゃん!ウチだって、スケボーが無かったらそこら辺の奴と変わらないしさ」

「趣味を、極める…?」

「おう!だからその特技があることにもっと誇りを持て!」


たちまち、四乃の目からは涙が引いていった。

「ありがとう、こんなに優しくしてくれたのは初めてだよ!

君、名前なんていうの?」

「いや、同じクラスだろ?

…まぁいいか

金居 皐だ」

「皐っち〜!!」

「…っち!?」


「よかったですね、いい友達ができて」

と、美久。

「(こいつら…もしかしたら使えるんじゃないか?)」

仁子は考えた。


「お前たちに提案だ」

「何だ?」

「クリーチャーガンハンターのメンバーにならないか?」


「えっ…そんなこと急に言われても!」

四乃は困惑する。

「お前たちの特性が活かせそうな銃があるんだ

四乃といったなお前、さっき手にしてた銃も使いようだ

それに、ここがお前らの居場所になると思う!」


「仁子さん!無茶ですよ!せっかく助けたのに!」

美久の言葉を遮るようにして仁子は

「遅刻や欠席の免除、退学の取り消しといった特典もあるんだが、どうだ?」

と、話を続けた。

それを聞いて呆れ気味の美久。


「分かった

ウチ、CGHに入るよ!」

四乃は言った。

「(もしかして、釣られてる…?)」

美久は思う。

「いや、遅刻欠席をなかったことにしてくれるからってわけじゃなくって、ここがウチの居場所になるっていうから!」

「そうか

その代わりちゃんと働くんだぞ

お前もどうだ?皐」


「いや、ミーは別に…

(しかし、また四乃に何かあったら、心配だ…)

分かった、ミーも協力しよう!

四乃のこれからを、そしてこの学校のみんなを守るために!」

「皐っち、かっこいい!

ウチも頑張るよ!もう自分の殻に閉じこもらないようにする!」

二人は、互いに誓い合った。


「よし、決まりだな!これで新しいメンバーが2人増えた!」

「あんな決まり、勝手に作っちゃって大丈夫ですか?」

「副会長には話をつけてもらう

あの人なら、わかってくれるだろうからな」


回想は、これで終わりである。



「(それから、ミーに合っているというイーグルを受け取ったんだよな

四乃には、回収したのを副会長の姉さんが改造したオラングタンを…)

すまん四乃…あんなこと言ったのに、忘れちまうとは」

「いいよそんなこと!ウチらはいつも一緒なんだからさ!

ウチもあの時助けてくれた恩は忘れないよ!

これからも戦ってくれるんだろ?」

「おう!もちろんだ!」


「じゃ、ウチはもう行くねー!」

四乃は、皐に手を振った。


「アイツに、壱によろしくな!」



 病院からの帰り道、四乃はあるクラスメートに出会った。

「アンタは

あやめっち!!」

2年D組・忍者研究同好会会長の神楽かぐら あやめ。

四乃の友人の一人であり、忍装束に身を包んでいるのが特徴だ。


「また会ったの」

「いやー、アンタが手助けしてくれたおかげで、今回の犯人のもとにすぐ辿り着けたよ!

ありがとねー!」

「礼には及ばぬ

友として、当然のことをしただけなの」

「じゃまた会おうねー!

次の研究の発表、楽しみにしてるよ〜!」


「…フッ

使えぬヤツだったの」

四乃が去ると、あやめは言い放った。

「この計画、必ず成功させる

アイツと違い、必ず役に立ってみせるの」


彼女の手には握られていた。


蝦蟇の形をした銃が。


To be continued…

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