ep.4 勝負!!

 ここは金剛台女子の生徒会室。

大きな窓の近くにある、豪華な感じの席に座っているのは、生徒会長の鳴。

あの小柄で堕落した生徒にいつも頭を痛めている彼女に、副会長にして、同級生でクラスメートの米田 茜べいだ あかねが話しかけた。


「これが、今の各部活における部員の人数のデータ」

「吹奏楽部員の人数が3分の1減ってるわね」

「先日の事件の影響だろうね

どうやら部活内でも色々な事情があって、縁を切ったって人も多いみたい」

「うーん、近頃よく物騒な事件が起こるわよね」

「一応、クリーチャーガンハンターっていう組織がこの学校の平和を守ってるようだけど」

「それって生徒会非公認の組織じゃないの

大体この高校、生徒会の許可も取らずに活動してる変な同好会とかが多すぎるのよ!」

「まぁいいじゃん♪

それくらい個性的な生徒が多いってことだし」

「何言ってんの!この学校だって何年も歴史のある有名な所なのよ!

こんなの、残しておいたら金剛台の恥だわ!」

「まぁまぁそう怒らないで…」

二人が話していると、背後の窓ガラスが割れた。


「な、なに?」


「或葉ァ!覚悟ォ!!」

鳴が振り向くと、割れた窓から入ってきた生徒が言った。

彼女の片手には、棘のついたクリーチャーガンが握られていた。


「待てー!」

彼女を追うように、スケボーに乗った金髪の生徒が入ってきた。


「くっ、クリーチャーガンハンターの一員か!

邪魔するなッ!!」

彼女は、クリーチャーガンの先端部分をヨーヨーのような要領で円を描くように振り回す。


「伏せろ!」

「キャッ!」

スケボーの生徒は、鳴を地面に伏せさせた。

棘のついたクリーチャーガンの先端が、机に刺さった。


この生徒こそ、クリーチャーガンの四人目のメンバー、金居 皐かない さつき


「何なのよあれ!?」

「会長、今は自分の命を守らないと!」

茜は、鳴に言い聞かせる。


「このトゲトゲめ、絶対仕留めてやる!」

皐もクリーチャーガンを取り出す。

左右に広げた翼がクロスボウにも見える、鷲型のクリーチャーガン。

『タイプバード0010:イーグル』だ。


「おりゃあぁぁぁぁぁぁッッッ!!」

羽根型の弾を射出して、相手のクリーチャーガンを貫こうとする。


「喰らうかよォッ」

相手の生徒はクリーチャーガンを振り回して、皐の攻撃を跳ね返す。


「今回は邪魔されて気分わりぃ…

覚えとけよ或葉!次こそはぶち殺す!!」

クリーチャーガンの先端を窓の外に飛ばし、それに体を引き寄せて逃走した。


「逃げるな!!」

皐は乱闘で傾いた机をジャンプ台にして、彼女を追った。


「片付けなさいよーーーーー!!!!!」

荒れた室内で、叫ぶ鳴。


「頼んだよ、皐」

この様子を見届けた茜は呟いた。



 「よう美久!今来たぞ!」

拠点の教室に、仁子が入った。

「こんにちは、仁子さん」

彼女を出迎える美久。


「おっ、今回は壱の奴隷だっていうやつもいるのか」

教室内には、壱の世話役である奈緒もいた。


「奴隷じゃないわよ!私は乙女ヶ原奈緒!」

「そんな名前だったか

じゃ、うちの壱をよろしくな」

「なに身内のように言ってるのよ!

まだ入るって決めたわけじゃないでしょ!

壱は私のなんだから!

…って聞いてるの!?」


「ところで、他のみんなはどうしたんだ?」

仁子は、美久にこう訊いた。

「皐さんは、クリーチャーガンを手にした生徒を追いかけています

四乃さんと壱さんは、現代物理学Ⅱの補講です」

「そうか…四乃のやつ、成績はダメダメだからなぁ…」


そこに、皐が入ってきた。

「ハァ…ミーとしたことが、やってしまった…」


「どうかしたんですか?」

と、美久。

「聞かないでくれ、最速のクリーチャーガンハンターたるこのミーのプライドに関わる」


「誰この人?」

奈緒が訊いた。

「私たちの仲間の皐だ」


「おや、見慣れんヤツがいるな?」

「この人は新しいメンバー…の関係者です」

美久が、皐に奈緒を紹介する。


「新メンバー…だと?

ミーは認めんぞ、あんなヤツ」

「なんだって?」

「ミーはこの前、追ってた百足型の銃の退治をヤツに先に越されたことがある!

あんな、ボケーっとしてて適当なヤツに!

仁子!なんでヤツなんかをメンバーに加えようとする!?」


怒りを顕にしながら語る皐の問いかけに、仁子は答えた。

「ちょうどよかったからだ」

「はぁ!?何だよその理由は!!

素性もよくわからんヤツだぞ!?

それに大体なぜ、あんな一般人がクリーチャーガンを持ったまま意識を保ってる!?」

「理由は二の次、利用できるのは利用するだけだ

文句があるなら自分でなんとかしろ」


「くっ…

ユー、ヤツの関係者みたいだな?

ヤツのことを教えろ!」

怒りが収まらない皐は、奈緒に言った。


「壱のこと?

遅刻の常習犯な上にいつも寝てばかりの問題児

そいつを退学させないように全力を尽くすのが、私の勤めなんだから」

「壱…もしや、あの月岡壱か…!?

ますます気に食わん!潰してやる!

美久!」

「は、はい!」

「今、ハリネズミ型の銃を追ってるところなんだよな?」

「そうですけど?」


「よし、ならばこうしよう

今からミーと月岡壱、どっちが先に銃を退治できるか勝負する!

月岡壱が勝ったならメンバーを続けてもよしとする、だがミーが勝ったら辞めてもらう!」

皐が、宣言した。


「おい、待て!

私たちは遊びでやってるんじゃないぞ!」

「なんとかしろって言ったのはユーだろ?

というわけで

ユーはこれを月岡壱に渡すんだ!くれぐれも捨てるんじゃない!」

「(いつの間に書いたの…?)」

皐は、挑戦状を奈緒に手渡した。


この時、奈緒は考え込んだ。

「(待ってよ、負ければ壱はクリーチャーガンハンターじゃなくなる

…ってことは!壱の面倒が見やすくなるチャンスじゃない!)」


「くれぐれも八百長とかはするんじゃないぞ?

ミーは本気で戦いあいたいからな」

「ワ、ワカッテルワヨー」

目を逸らしながら言う奈緒。


「…

じゃあ決まりだ!ヤツにクリーチャーガンハンターの大変さを思い知らせてやる!」


「どうしますか?このままだと壱さんが…」

「仕方ないが、構わん

結果が出てから考えよう」



 「はぁ〜〜〜〜、疲れた〜〜!!

やっぱり大竹の授業ダルイわ〜…」

やっとの思いで補講を終えた壱が、教室から出た。


「おつかれ、壱♪

ちゃんと補講出て、偉いじゃない♪」

百瀬ももせ(←壱のクラスの担任)に連れられたんだよ

逃げられるなら逃げてるわッ

とんかく疲れた、いつもの」

「乗せないわよ」

「ケッ…」


「それよりもあなたに渡すものがあるの」

奈緒は、先程のものを壱に渡した。

「何だこれ?」

「クリハンの皐先輩からよ」

「誰か知らんけど、いらん」

「せめて中身を読みなさい!」

「うーむ…」


言われた通り挑戦状を読み終えると、それを破り捨てる壱。

その様子を見て奈緒はこける。


「ちょっと何してるのよ!?」

「読み終わったんだからいいだろ?」

「だからって破くことないでしょ!!」


「よう!君たち!」

緑のツインテールとポケットに付けたマスコットキーホルダーを揺らしながら、四乃が来た。


「あなた、どこかで会ったような…」

「お前はこの前のクレーンゲームの人!」

「キミも補講だったみたいだね

奇遇、ウチもだよ!

それで今日、コンピューター部に遊びに誘われてて、今から行くところなんだけど、一緒に行かない?」

「コンピューター部って…あのオタクの巣窟じゃない!嫌に決まってるでしょ!壱もあんなところ行ったら、おかしくなっちゃうわ!」


「うむ…面白そうだ

よし奈緒、連れてけ!」

と、壱。

「ちょっ!?今はこんなことしてる場合じゃないのよ!皐先輩との戦いが…」

「言うとおりにしてくれたら、何でもしてもらっていい」

壱の一言で、奈緒の思考が一瞬止まった。


「しょ、しょうがないわね…

じゃあ行くわよ壱!」


「(ちょろいな、この子)」

と、四乃。



 というわけで三人は、コンピューター部の部室へ向かった。

部室の中には、壁に何枚もアニメやゲームのキャラのポスターが貼ってあり、いかにもオタクの巣窟という感じになっていた。


「よー木田ー!よく来たねー!」

部員の一人が、出迎えた。

「その子たちは友達ー?」

「おう、ちょっとした知り合いだ!」

「へぇ〜!イカしてんじゃん君〜!」


「(馴れ馴れしすぎ…まさにオタクって感じだわ…)」

奈緒は、嫌そうにしている。


「うーむ、私が苦手なタイプの人間だな、付き合いきれん」

壱は言った。

「そんなことないと思うよー?最初は大変だと思うけどさ

ほら、自己紹介してあげて」

「アタシか

アタシは遠山 詩子とおやま うたこ

木田とは同じクラスなんだー♪」


「木田って名前なの?あなた」

「うん 木田四乃

(言ってなかったっけ)」


「君たち名前は?」

遠山は、二人に話を振る。

「1年の、乙女ヶ原奈緒です…」


「えー!?君が1年ー!?

木田ー!この子1年だってよー!

全然見えないじゃーん!!特に身長とか、胸のあたりとかさー!」

「どこ見てるんですか!」


「まじか…」

自分より大柄なので、奈緒のことを下級生と思っていなかった四乃は驚いている。


「このちっちゃいのは?」

「クラスメートの月岡壱よ」


「えっ、月岡壱!?あの生徒会を悩ませてる問題児の!?」

「流石のコンピューター部でも、このことは知ってたのね」

「まぁ結構結構!大いに歓迎よー!

ここ、みんなヤバいやつばっかだしさー!」


「すごい賑やかだな」

部室の奥の方にいる人物が、遠山に話しかける。

「あっ真山先輩!可愛い後輩ができそうなんですよー!

あっ、この人は部長の真山先輩」


「あなたが部長かー!」

四乃は興奮気味に言った。

「よく来たな木田ー!」

そんな四乃を、部長である真山 好美まやま よしみは嬉々として受け入れた。


「あの…部員ってこれだけなんですか?」

「そうなんだよ〜!だから、木田とかみんなに入部してほしくて誘ってるんだよぉ〜」

奈緒が訊くと、遠山は語った。


「生徒会長のやつ、部員が少なくて実績のない部活は廃部にするってさ〜!マジでウザいんだわ〜!」

真山が、遠山の話を継いだ。


「…で、肝心の活動内容は?」

奈緒は改めて訊く。真山が答える。

「ただパソコンを開いて、アニメとかゲームの事をダラダラ語り合うだけだよ」


「(こりゃダメだわ)」


「ところでさ、木田はアニメとか見てんの?」

遠山が四乃に質問する。

「ウチは家族といる時間の方が長いから、見たくても見れないかな〜」

「そうなの?勿体な〜!

ほら、これとかオススメだよ!」

「ほーう、これは何?」

「今期の魔法少女モノだよ!3話でのピンチシーンがめっちゃドキドキするんだよなー!触手で絡め取られてあれこれされてさ…」

「わかるわかるー!!」

真山が話に乗っかり、一同のオタクトークが始まる。

「時間あるときにみてみようかなー」

と、四乃。


「イッチーはさ、好きなアニメとかゲーム、ないの?」

「私か?ゲームならよくやるけどな」

「こっちこいよ、もっと話し合おうぜ!」

壱も、彼女らの誘いに乗る形で話に加わった。


「嫌ぁ、壱がオタクに染まっていく〜!!!」

奈緒は悲鳴を上げた。


一方の四乃は、扉の向こうにいるひなたにサインを出した。



 「どうもご苦労

意外と安定してるな、お前」

「こう見えて足腰は鍛えてるからね」

壱は、四乃に背中に乗せてもらって帰宅した。奈緒が先に帰ってしまったためである。


「しかし奈緒っちも大変だねぇ、毎日こんなことしなきゃいけないなんてさ」

「あいつはあいつでいいんだよ

マゾみたいなもんだし」

「あぁそう…

そんじゃウチは用があるから

またね〜」

四乃は、手を振って去っていった。


「ふぅ…」

壱が部屋に入ると…


「おかえり壱」

奈緒がくつろいでいた。


「何でいるんだよ!!」

「たまにはいいじゃない」

「よくねーよ!帰れ!」

「あら〜、何でもしていいって言ったのは誰かしら?」

「うっ…

しょうがない、今回だけな?

そのかわり変な欲求はやめろよ?」

「下着見せてとか、服の匂い嗅がせてとか?」

「ただの変態じゃねえかお前!

ってかそんなことよく恥ずかしげもなく言えるな!?」

「例え話よ!本当にするはずないでしょ!?」

「どっちにしろそういう意味に解釈するなんて最低なヤツだろ!!」

「最低成績のアンタに言われたくないわよ!!」

「・・・・・」

「・・・・・」


「はァ

とにかく私は疲れてんだ、休ませてくれ」

「いつもそんなこと言ってるじゃない…」

「勝負とかなんか言ってたけど、もう知らん

クリーチャーガンハンターアイツら、何がしたいんだかよくわからん

中途半端なんだよ」

「あぁ、確かにねー…

何も知らない私がこんなこと言えないけど、この前の変な銃の怪物みたいなのから学校の平和を守ってるなら、それだけで胸を張れるものだと思うけど、そういう素振りもないのよね

なんていうか、守るかどうかを気分で考えてて、あとはどうでもいいみたいな」

「挑戦状を書いたっていう、皐ってのはどんなヤツだった?」

「あの人もロクな人じゃないわね

怪物退治をゲームだと思ってるわ」

「そうか

ますます関わってられん」

壱は、ベッドの上に寝転んで言った。


「そう言えば」

「今度は何だ?」

奈緒が、壱に話しかけた。


「アンタ、最近よくいなくなるけど、その時いつもどうしてるの?」

「何のことだ?」

「もう、またそうやって…

ほら、舞の時の事件からアンタそうじゃない

私が見つけた時、いつも寝っ転がってるんだから」

「よく分からんな、何も知らん」

「本当は何かやってるんじゃないの?アイツらに狙われるのもそれが原因よ!

まさかアンタ、アイツらの仲間になろうって心の底で思ってるんじゃないでしょうね?」

「考えすぎだお前

どんだけ私が大事なんだ?」

「少なくともアンタが思ってるくらいはね」


「…ハァ

話してると睡くなる」

こう言って、壱は気を失ったように眠りについていった。



 夜は深くなり、日付が変わろうとしている頃。

四乃の家にて、部屋の窓をオラングタンが叩く音が響いていた。

「あんま強く叩かないでくれ、三央みお姉ぇに気づかれちゃう

(やはり、オラングタンを尾行させて正解だったよ

あの部長、度々会長に対する恨み言を吐いてたって噂だからね)」


「四乃ー、どうしたのー?」

四乃の姉である、三央がベッドから起き上がりながら言う。

「あっ三央姉ぇ!

なんか、虫がいたから!」

「あっ、そー…

ちゃんと寝なよー、明日も学校なんでしょ?」

三央は、再度眠りについた。


「よし、行くよ、オラングタン」

その様子を確認すると、オラングタンのアームに体を掴ませ、窓から外に出て移動した。



 「或葉のヤツ…思い出すだけで腹が立つ…

許せん…殺してやる…」

夜道を歩く少女の片手に、あの棘のついたクリーチャーガンが握られていた。

「待ってやがれ…或葉!」


そこに大きな兎のぬいぐるみが飛んできて、少女の頭に直撃した。

「ぐはっ!!

…何だ!?」


「やっぱりアンタだったんだね…

真山先輩」

四乃が現れ、こう言った。


「お前…なぜここに!?」

銃を持っていたのは、真山好美だった。

彼女が手にしたのは、ハリネズミ型クリーチャーガン『タイプビースト0081:ヘッジホッグ』。


「残念だよ、アンタがこんなことをしてたなんて

まぁ、予感はしてたんだけどね」

四乃はオラングタンを構える。


「邪魔をする気か?」

「邪魔するのはウチじゃないよ」

皐にメールをしながら言う。


「…ま

すぐ来るわけじゃなさそうだし、ウチが邪魔しちゃうのは一緒か♪」


「やかましい、このぬいぐるみ野郎ッ!!」

ヘッジホッグから、棘を次々と発射する。


「やっぱり操られてるだけあって、さっきみたいな人格は消えてるみたいだねぇ」

オラングタンを操作し、トゲをすべて受け止めながら言った。


「ぅっ・・・!」

「いくらトゲトゲを飛ばしたって無駄だよ

ウチが全部取っちゃうからね〜」


「ならば、コイツはどうだ!?」

こう言うと、ヘッジホッグのヨーヨー状の先端部分を不規則に射出し、そこから針を飛ばすというトリッキーな攻撃を仕掛けた。


「軌道が、読めない…!」

「ッハハハハハ!!

所詮はお前みたいにちっぽけなダメ人間は、私に勝てないってことだよ!!

終わりだッ!!」


「うぅッ!!」

四乃が身構えた。

そこに。

風を纏ったバリアで攻撃から守る者が現れた。


「皐っち!!」

「なんとか間に合ってよかった…」

彼女はイーグルを手にしたスケボーの少女、皐だった。


「またお前か!!」

「今度こそ、ユーの好きにはさせない!

四乃、ここは任せろ!!」

「おぅ!頼んだよ〜!」


「おらぁーーーッ!!」

真山は、皐に襲い掛かる。

それに、皐は対峙する。


「月岡壱、悪いが、この勝負はミーの勝ちだ!」


To be continued…

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