ep.3 犯人!!

 1年C組の教室にて。

「ねえ今日のニュース見た?吹部の部員がまた一人殺されんだって!」

「マジ?怖ーい!」

クラス中、昨日の事件に関する話題で持ちきりとなっている。

この様子を背に、生徒の一人、後藤 響ごとう ひびきはぼーっと座っている。


「おはよー、響ちゃん」

クラスメートの一人が、彼女に話しかけた。

「綾!」

彼女は美術部員の糸井 綾いとい あや、響の友人だ。

「浮かない顔してるね、どうしたの?」

「いつものことだよ」

「そうか、また部員の一人がいなくなっちゃったから、悲しいんだね?

そんな落ち込まないでよ、私がいるじゃん!」

「勘違いしないでくれる?」


「ご…ごめん!あなたの気持ちも知らずに、適当なこと言っちゃって

で、でも!響ちゃんの部活も大変だってこと知ってるよ!

私たち、友達じゃん!」

「口先だけじゃ何とでも言えるよね

私が吹奏楽部に入ったのはね、ちょうどよかったから仕方なくだよ

この高校、部活無所属の生徒に厳しいからね

あなたみたいに仲間とワイワイ青春やるために部活やってるんじゃないんだよ?

吹奏楽部ではあらゆる個性が殺される

いい音楽とやらを作るための部品になるためにね

私に仲間なんていないよ

何せその仲間、いやもう違うか

私を部活に誘った人に裏切られたからね」


「そ、そう…

なら、私がいる美術部に転部したら…?」

「綾…あなたとはもう絶交だから!!」

こう言って、響は席から立ち去って言った。


「響ちゃん…」



 その日、部室棟にて。四乃はある部活を訪ねてきた。

「やぁハテナっち」


「おっ四乃、来たか」

彼女を迎えたのは、2年D組の探偵部員、羅武詑 果那らむだ はてな

1年B組の同じく部員、三毛みけ ひなたもいる。


「部員の護衛はうまくいったか?」

「残念ながら、ダメだったよ…

戦ってる間に、やられちゃった」

「そうか…合掌」

「でも、いくらか情報は掴めたよ」


四乃は、昨日撮った写真を見せた。

「これを見てほしいんだけど、今まで通り、頸動脈を掻っ切られての殺され方だ

そしてこれをどうやったのかというと、ズバリこれさ」


「これは…!」

「近くに血がついた紙飛行機が落ちてたんだよ

これでやったに違いない」


「え…でもこれを見るにゃ!」

ひなたが、以前撮った写真を見せながら言った。

「これまでの事件現場の写真…これを撮ったときには何も落ちてなかったにゃ!」

「おそらく、今回は回収を忘れたんだろうね

ウチは戦ったんだ

犯人と思われる、クリーチャーガンを持った女の子とね

アイツは紙飛行機を飛ばして攻撃し、魔法陣で瞬間移動したりするヤベーやつだよ」


「うむ、彼女が犯人と見て間違いないみたいだね

しかし、標的に対して『死の手紙』なるものを渡したり、悪趣味なヤツだな

問題はその犯人の正体か…」

果那は考え込む。

「アイツは黒いヤギのパーカーを着てた

持ってた銃もヤギの形をしてたよ」

「これまでの犯行状況からしても、犯人は吹奏楽部に恨みがある者に違いないにゃ」

「いや、案外吹奏楽部員そのものかもしれんぞ」

「え?」

「聞き込みをしてるときにふと小耳に挟んだ

あの吹奏楽部、かなり悪評が多いところらしいってな

不満を持つものの一人や二人、現れることだろう」

「それだけじゃ証拠に欠けるにゃ!

もっと論理的な推理を…」


「怪しいと思えばすぐ行動!

それが私の、探偵としてのポリシーだ!!」

こう、果那は言い切った。


「まったく…モヤモヤして面白くないにゃ…」

ひなたは呆れた。


「とりま、今回もありがとねー!

んじゃ、引き続き調査頼むよー♪」

四乃は部室を後にした。


「ハテナせんぱい、調子乗るのもほどほどに…」

「そう気を損ねるな三毛

ほら、お前が好きな漫画の新刊、買っといたぞ!」

果那は、こう言ってひなたに漫画を手渡した。

「わーい!ハテナせんぱい、大好きにゃ!」


『Mr.ニャンダフル』。作者はエクスプロージョン真二。



 「ここなら、落ち着いて練習できるかな」

屋上に上がる響。

そこで、トランペットの音を鳴らした。


「何あの音」

「下手だなー」

その音に反応するサッカー部員。


「ふぅ」

一通り吹き終わり、一息ついた。そこに。


「相変わらずヒッドイ音だなぁ〜〜〜」

三人の部員が来た。


彼女らは、同級生のトロンボーンパート宮村 茉莉みやむら まつり、ホルンパート高梨 晴美たかなし はるみ、同じく野山 梨衣のやま りえ


「あ、あなたたち、なんでここに!?」

「アンタがここに向かってた頃から付いてきてたし」

「ここであんなキッタねぇ音鳴らされたら、運動部のみんなも迷惑っしょ」


「何よ…何もそこまで…」


「それとも何?ウチらが怖いから、ここに逃げたってわけ?

言っとくけど、こういう根性が無いヤツは吹部に要らないから」

宮村が言う。


「ねぇ、どうしてあなたたちは、いつも私のことを見下すの?

私だって私なりに、いい音が出せるように頑張って練習してるんだよ?

知ったような口叩かないでくれる!?」

耐えきれず、響は訴えた。


すると、三人は笑いながら言った。

「今更恨み言なんか吐いちゃって、バカみたい!」

「アンタが邪魔だから、それだけだよ!!」


「そ、そんな…

宮村さん、何とか言ってよ!あなたがここに誘ってくれたんでしょ!!」


「残念だけど、二人の言う通りだよ

最初っから入る気なんて無かったくせに

あなたにはいくら練習したって上手くなる見込みなんてない

すぐ辞めた方がいいよ!」


「そんな…」


「ほっとこ!」

高梨が、宮村にこう言って一同は立ち去ろうとする。


「待ちなよ」

響は引き留めた。


「今度は何だよ?」

「下手な罵倒なんて聞きたくないし」


「私を怒らせたらどうなるか…

知らせてあげようか!?」


響の背後から魔法陣が出現。

そこから出現したパーカーを纏った。


「何だ?あれ?」


別の魔法陣から紙が出てきて、それをクシャッと握ると…

山羊型のクリーチャーガンに変わった。


「最高の音楽を響かせてあげる…

お前らの悲鳴というね!!」



 「私だって、人が死ぬところは見たくない…」

仁子は呟く。


「どうしだんたい仁子っち?

浮かない顔してさ」

「四乃!」

「いつもの勢いはどうしたんだよ?」

「彼女らを弔うつもりはない

ただ、こんなことした犯人も見つけられず、ただ死者を増やしていくだけの私がもどかしくて…」

「そんなこと言って…仁子っちらしくないよ

ウチ、ハテナっちから情報を掴んでるんだ

その話を辿ってけば、犯人はすぐ見つかるさ!」

「近頃すぐいなくなると思えば、アイツに会ってたのか

じゃあ頼むぞ」



 「はぁ…私、殺ってる…恨んでた人を…

快感…!」

「そこまでにしろ!」

「誰だ!?」


響の背後に、壱が現れた。

「お前の後をずっと追っていた

邪悪な存在感を感じてな

お前の正体は分かってる

後藤響!そうだろ?」


「ふふふ…よく嗅ぎつけてくれたねぇ!

さすがだ、褒めてあげる!」

響は、フードを下ろしながら言った。


「やっぱりな

あそこまでの復讐心を抱くであろうものは、お前くらいだろうからな」

「でもね、あなたはもうおしまいだよ?

あなたがあの人から聞いた、月岡壱って子だよね?

丁度いい…ここで始末してもらおう!!」


「なんだ?」

壱は、魔法陣で窓の外へ瞬間移動させられた。

「うわっ!?」

そして、別の魔法陣で手足を固定される。


「終わりだ」


壱を囲うように、無数の魔法陣が現れ、その中から紙飛行機の大群が襲い掛かった。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


「口程にもない…」


「甘い」

「…なに!?」

別の場所から姿を見せる壱。

「あれは残像だ」


「くッ…」

「こっちもいくぞ」



 「吹奏楽部の皆さん!今すぐ下校した方がいいです!

命を狙われるかもしれません!!」

美久が、校内を駆け回りながら呼びかける。


「美久のやつ、あんな必死に…」

「ウチらもこうしちゃいられないよ!」

犯人を追う仁子と四乃の二人。

そこに駆けつける、奏。


「皆さん!」

「奏!」

「早く来てください!果林先輩が!」



 「もう終わりだ、稲葉果林!」


ある教室で、黒山羊のパーカー姿の響が『タイプビースト0050:ゴート』の銃口を果林の額に向ける。


「後藤…

何なのその格好…

それに、その物体は!?」


「これで、私を苦しめた部員どもを始末していったというわけだ

その最後がお前だ!

死を以て償うがいい!!」


「させるか!」

ライオンを武装した仁子が、教室に入った。


「お前らも邪魔しに来たのか!?」

「今までの事件、お前の仕業だったというわけか

この私たちが始末してやる…覚悟ォ!!」


「やってみろ!」

「はぁぁぁぁぁッ!!」

仁子は走りながら、ライオンの銃口から弾丸を発射する。


対する響は空間に手を添え、魔法陣を出現させる。それによって、弾丸が別の場所に移動し、仁子に向かう。


「仁子っち危ない!」

四乃がオラングタンを操り、その手先で弾丸を受け止めた。


「四乃、ナイス!」

「ここはウチに任せなー!

たぁーーーーっ!!」


「な!?」

オラングタンの腕が、響の体を掴んだ。


「おりゃおりゃおりゃおりゃーーーーーーー!!!!」

そのまま、四乃は響を振り回し、ロッカーへ投げつけた。


「アイツら、なんて滅茶苦茶な戦い方なの…」

この様子を見て、果林は呆れながら言っていた。


振り回されたことで手放されたゴートが宙を舞う。

「よし、今だ!」

この隙に、仁子はライオンの照準を定めた。

「喰らえッ!!!!」


ライオンの口に熱エネルギーが集中し、それが限界値に達すると、一気に放出されて閃光を放つ弾丸となる。

ゴートにこの攻撃が直撃し、爆散した。

「よし!」


「あなたたちが学校で噂のクリーチャーガンとやらね?」

果林が、仁子らに訊いた。


「そーともよ!

せっかくウチらに助けてもらったんだからさ、お礼の一つもないのはちょっとね〜」

「あんま調子に乗るな、四乃!」

仁子は、四乃を諌めた。


「ハァ、奏はこんなヤツらに事件の収束を任せたのね…

さっきの周りの迷惑を考えない滅茶苦茶な戦い方、私は見てて落胆したわ

覚えてておきなさい。アンタたちみたいな身勝手な振る舞いをする者が、周りの足を引っ張るのよ

あそこのロッカーに減り込んだ、役立たず部員の様にね!」

果林は、気絶する響を指差して言った。


「あの子が、役立たずだって…?」

仁子は、果林の言葉に反発する。

「この子だって、立派な部員になるために一生懸命頑張ってたはずだ

お前はそれを否定するように見下し続けた

他の部員どもも同じようにしていくうちに、この子の心は病んでいったんじゃないのか?

あの小さい悪魔に付け込まれる程にな!」


「うるさいわね!!

アンタたちが何を知ってるっていうのよ!!」

「知ってるぞ!ここの吹奏楽部が最低な部活だってな!!」


「落ち着きなって仁子っち!」

四乃が、口論を止めようとした。


「二人共やめてください!!」

「奏!」


奏は訴えかけた。

「確かにあの子に冷たく当たったみんなや、あの子が苦しんでた事に気付けなかった私にも非はあります

ただ、みんなだって本気で上を目指している故に、中途半端な動機で入ってきたあの子の存在が邪魔だったことは分かります

でもこうなってしまっては、もう後がありません

稲葉先輩、思い出してください!先輩だって、音楽を奏でる事の喜びを知りたくて入部した、私が入部したとき、そう言ってましたよね!

でも、先輩はいつの間にか頂点を目指すことに拘るようになって、そのことを忘れるようになっていった

そんな先輩を見るのが、私は寂しくて…

お願いです!元の稲葉先輩に戻って下さい!!」


これを聞いて、果林は…

「ふふっ、最高値の甘えっぷりね

…でも有難う、目が覚めたわ。

確かに私も、熱くなりすぎて自分を見失ってた。

これからは、この学校が誇れる吹奏楽部を目指しましょう!

そうすれば、今回やられたみんなもこの空のどこかで喜んでくれるわ

そして…

後藤響、あなたもここまでよく頑張ったわ」


「うむ、人ってのは、ここまで変われるものなんだな」

感心した様子で仁子が言った。

「どうやら、いい部活として生まれ変わることができそうですね

って四乃さん、それで持たない!」

美久は四乃と一緒に響を運ぼうとしているが、四乃はオラングタンの腕で持っているせいで変な体勢になってしまう。

「だってー、持つの大変なんだもん」


 その頃、戦いで疲れた壱が屋上で寝ていた。

そこに奈緒が駆けつける。

「もーっ!また変なところで寝てる!

いつもすぐいなくなると思えば、こうなんだから!

まったくいつも世話かけさせないでよね!」


その様子を、見つめる者がいた。

「あんなヤツが新メンバー?認めんぞ、ミーは」

彼女は、スケボーに乗って駆けていった。


To be continued…

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