ep.2 事件!!

「ふぅー、今日も練習つかれたなー!」

彼女は、2年・吹奏楽部員の上野 春菜うえの はるな。先ほど帰宅した所だ。


「明日も頑張らなきゃ、って、おや?」

彼女の机の上に、黒い手紙が置いてある。

赤い文字で『死の手紙 上野春菜へ』と書かれていた。


「何これ?質の悪い悪戯ね…」

春菜は、その手紙を捨てる。


「読まずに捨てるか」

「!?」

後ろから、何やら声が聞こえた。


「この礼儀知らずが!」

「きゃっ!

な、なんなの!?」

振り向くと、黒い山羊のパーカーを羽織った少女が立っていた。


「さぁ聞き返せ

さっきの手紙のご用事なぁに?ってな!」

黒山羊のパーカーの少女は、こう言い放つ。


「い、いや…帰って!!」

「聞けないなら答えてやる…

お前の命を奪うってことだ!!」

「きゃあああああああ!!」



 その次の日、学校にて。

ここは1年D組の教室。授業中の時間帯、壱は眠たそうにする。


「いててててッ!」

そんな彼女の右頬を激痛が走った。

洗濯バサミが挟まれたのだ。


「なにすんだよ!」

壱は、隣の席に座る奈緒の方向を向いて言い放った。

「こうでもしなきゃ起きないでしょ」

「でもやりすぎだろ!」

「アンタの退学がかかってるのよ!」


「あの二人、またやりあってる」

「仲いいよねー」


「みなさん!静かに!」

クラスメートの面々がこそこそ話をするのを、先生が注意する。


その日の放課後。

「はぁ〜〜〜、疲れた〜〜〜〜〜」

「よく頑張ったわね♪」

「顔面洗濯バサミだらけになるのが嫌だからな!

あれ、結構恥ずかしいんだぞ!」


奈緒は、いつもこのように壱の面倒を見ているのである。ただ、やり過ぎて嫌がられるのが欠点だが。とはいえ壱も、奈緒のことを色々な意味で必要としているのである。


そこに…


「ここが1年D組か」

「ですね」

あの二人組は入ってきた。


「失礼する

月岡壱ってやつはいるか?」

仁子が、生徒たちにこう訊く。


「誰っすかあんたら?」

「月岡さんがどうかしたのー?」

クラスメートの二人組は反応した。


「ヤツにちょっと話があるんだよ」


「月岡さーん!

よくわかんないけど、来てほしい人がいるってー!」

二人組の片方は、壱のことを呼ぶ。

「なんなんだよ、めんどくさー」

「壱なんかに、何の用かしら?」


「よく来た、月岡壱!

今日からお前は、私たちの仲間だ!!」


「…はぁ!?」



 こうして、二人は多目的教室に連れていかれた。どうやら、ここを彼女らの拠点としている模様だ。


二人は自己紹介した。

「申し遅れたが、私は2年A組の火咲 仁子

クリーチャーガンハンターのリーダーだ」

「同じく、清水 仁子と言います」


「アンタたちねぇ…急に壱を連れ出して、一体どういうつもり!?」

奈緒が責め立てると、美久は言い返した。

「すみません、強引な手段を取らせてしまって

仁子さんが私たちの仲間にしたいって聞かないもので…」


「私はお前らなんかに協力するつもりはない

帰らせてもらう」

と、壱。

「待ってくれ!

私たちには、今どうしてもお前の力が必要なんだ!」

引き止めようとする仁子。

すると、奈緒は…


「壱の力が欲しい…!?

冗談じゃないわよ!!

大体アンタらなんなのよ!?こんなアヤシイヤツらに、壱がついていくわけないでしょ!!

壱は絶対に渡さないわ!!」


「なら、説明してあげましょう、

私たちが何なのかを」

奈緒の話を遮るように、美久は言い放ち、その後語り始めた。


「近頃、未知の銃型生命体クリーチャーガンによる襲撃事件が多発しています

クリーチャーガンハンターは、それに対抗するため、この学校で結成された組織です

クリーチャーガンに意識を乗っ取られた者は、その皮膚から発せられる毒素によって脳細胞を刺激され、そのうち思考を操られ凶暴化してしまう

しかし私たちは、それに対する特殊な抗体を注射することで、意識を保ったままクリーチャーガンを扱えるようになったのです」


仁子も、彼女の話に続く。

「こうして私たちは、悪のクリーチャーガンを退治する戦士として戦ってるってわけさ!

そして、私はこの目で見た

壱、お前もクリーチャーガンを退治するために戦うところをな!

というわけで、お前も私たちと一緒に戦う気はないか?」


「寝てるわよ」


「ちゃんと聞けー!!」

「ほぁえ?長い話は嫌いだ、眠たいから」

壱は寝ぼけ眼で、顔を上げながら気怠げに言う。


「私もよく分からないわ、ヘンテコな話ばっかり

ともかく、あなたたちに壱は渡さない!

行くわよ壱!」

「ちょっと待て!

ホントにいいのか?クリーチャーガンハンターに入らなくて?」

「何よ、まだ言い足らないわけ!?」

「クリーチャーガンハンターのメンバーになれば、授業ごとの取得単位は3倍、遅刻の免除、そして退学の取り消しという特典付きなんだがな?」


その言葉に、奈緒は過敏に反応した。

「(なッ…なんて美味しい話…!?そうなれば壱にかける苦労なんて無くなるじゃない!

いや待て、これは罠よ!あまりにも美味しすぎる話だわ!

何より、壱がいなくなったら…私生きていけないわ!!)」


「壱!乗っちゃダメよ!!」

「よし、考えてやっていい」

「壱いいいいいぃぃぃぃぃぃ!!!!」


「よーし!これで決まりだ!

これで5人目のメンバーが加わったぞ!」

「気が早いですよ、まだ入るって決まったわけじゃないんですから」

「えー、いいだろー?」


しばらく一同が話し合っていると、教室の扉が開いた。


「クリーチャーガンハンターの教室、ここですよね!?」

「誰だ?お前は」

「お願いします!力を貸してください!」

教室に入った生徒は、何やら頼み込んだ。


「どうやら事件みたいですね、行きましょう!」

「よし、ちょうどいい!

新人よ、私たちの活動をしっかり見学するんだ!」

「ほーい!

(遅刻免除のため!)」

奈緒、頼む!」

「まったくも〜!ほらッ!」

例によって壱に背中に乗せてもらうことになる奈緒。


「こっちです!」

生徒の後を一同は追う。



 彼女らが連れてこられたのは、体育館だった。そこには、多数の吹奏楽部員が並んでいた。

この金剛台女子高校吹奏楽部は、総部員数約200人の大編成。全国大会に数年連続で出続け、そのうち6回も金賞を獲った経験があるという。


「申し遅れました!

私は吹奏楽部の2年フルートパート、吹石 奏 ふきいし かなでです」

先ほどのそのうち一人が名乗った。


「ああ、そんな吹奏楽部が私たちに何の用だ?」

「実は、一昨日からずっと、私たち吹奏楽部の部員が一人ずつやられてて…その犯人を見つけてほしいんです」


「春菜が、春菜が…うわぁぁぁぁ!!」

「絶対クリーチャーガンの仕業だよ!」

「犯人のこと、見つけたら絶対ぶっつぶしてよ!」

「仲間の仇!ぶっ殺せ!」

部員たちが口々に言い放つ。

これを聞き、仁子は言った。


「フン、悪いな

残念だがお前らには協力できん」

「ちょっと!仁子さん!?」


「そんな!なぜです!?」

疑問に思う奏。

「私たちはあくまで、クリーチャーガンの退治が第一の仕事

単なる一個人の仇討ちのための道具じゃないってことだ

そんなことは自分でやったらどうだ?」


「ちょっと待ってよ!私たち部員の命はどうすんの!?」

「こんな大量の部員たちの命、一人ひとり守るのだって大変なんだぞ

戦いには多少の犠牲は付き物だ

守られたければ、それに見合う姿勢を見せることだな!」


「何なのアイツ」

「最低」

「期待して損した…」

失望した様子で部員たちは言う。


「行くぞ」

「えっ、あ、はい!

すみませんね、またの機会にお願いします」

仁子は立ち去り、美久は申し訳なさそうに言った。


「行っちゃったよ」

「なんて無責任な…」

と、壱、奈緒の二人。


「ところで君たち、折角来たんだよね!」

と、メガネをかけた部長が残った二人に言った。


「部長の稲葉 果林いなば かりんだ!私たちの演奏、一回聞いてかない?」

「えーっ、部長、こんな状況なのに正気ですかー?」

「そうこう言ってられないよ!私たちの目標は常に高く!何も気にせずに行くよ!!」


「まさかこのままいるつもり?」

壱は、奈緒に訊く。

「折角の金剛台が誇る大編成の演奏を生で聞けるのよ!こんな機会滅多にないわ!」

「いいから早く帰ろ…

うわっ!」

奈緒は、背中の壱を振り落とし、果林に言った。


「あの、前の方で聞かせてもらっていいですか!?」

「勿論!後ろの方は音の響きが分かりにくいからね」


「いてて…」


「じゃあ、いきましょう」

部員の一人である指揮者が指揮棒を上げると、演奏が始まった。


「やっぱり、こんな近くだと迫力が違うわ!まるで、音が私の心を掴みに来てるみたい!

ね、壱!」


「(うーん…

よく聞くと、それぞれの音のタイミングや調子がバラバラだ

お世辞にも、みんなの心がまとまってると言えない…そんな感じだ)」


二人が各々の感想を抱く中、演奏は終わった。

「どうだった?」

果林が訊いた。

「すごい!!感激です!!さすがは全国を狙う大編成!!」


「そう…

でもこんなんじゃまだ足りない」

「はい?」

頭を傾げる奈緒。


「全国優勝、金賞を狙うには…」

すると、果林は部員にダメ出しを始めた。

「まずは金管全般、最初の出だしが早すぎる!

スタートは全体のイメージを左右させるのよ!

次にフルート、第三小節目のハーモニーがバラバラ!パート練でちゃんとあわせておくように!

そしてクラリネットは…」


「うわ〜…すごい厳しいわ…」

思わず奈緒はこう発する。


「それに…」

続いて、ある一人の部員に対して視線を向ける。

「は、はい…!」

「トランペットパート1年後藤!何度言えばわかるの!?

あなたはいつも主張が激しすぎる!そんな汚い音で人に感動を与えられるとでも思ってるの?他の金管パートの名誉に泥を塗る行為だわ!今度そんな音出したらメンバーから下ろす!!」

「すっ・・・すみません!!」


「おい…流石に言いすぎじゃないか?」

壱が口を開く。


「こんなヤツ、さっさと辞めればいいんだよ」

「部外者は口出すな!」

他の部員たちが反抗した。


「…なんか、気の毒ね

いいものは充分見せてもらったわ、帰りましょ」

「あぁ」

「本日はありがとうございました」

二人は、この場を立ち去る。


この時壱は感じ取っていた。マイナス感情に潜んだ邪悪な力の存在を。



 「何?これ」

吹奏楽部員の柚沢 有咲ゆずさわ ありさ。帰り道の途中で、例の手紙を拾った。


「こ、これって…!!」



そこに、黒山羊の少女が現れた。

「きゃっ!

な、なんなの!?」

「お前を…殺す!!」


「そうはさせないよー!」

そこに現れたのは四乃。彼女もクリーチャーガンハンターのメンバーだ。


「お、お前…!」

「ここに張ってて間違いなかったね」


「誰?あなた」

「キミは危ないから下がってて

ここはウチにまかせなー!!」

四乃は、クリーチャーガン『タイプビースト0006:オラングタン』を手に少女に向かっていく。


「邪魔をするなッ!

アイツは私の獲物だァァ!!」

少女はクリーチャーガンを取り出した。

『タイプビースト0050:ゴート』は、口に当たる部分から紙をコピー機のように排出。それが紙飛行機の形になり、飛んできた。


「はあっ!」

その攻撃を四乃は躱す。


「喰らえッ!」

次々と発射される紙飛行機。


「今度はウチのターンだね!

はああああっ!!」

四乃の攻撃。オラングタンの指先の部分から、弾を放つ。


ゴートの少女は、出現させた魔法陣の中に消えた。


「なっ!?」

「ここだ」

そして別の魔法陣から出現した。


「ちょ、そんなのアリか!?

ろま、なんでもアリだろうね!

はあああああ!」


ゴートの少女は魔法陣を駆使し、移動を繰り返しながら攻撃する。

だが四乃は負けない。オラングタンには空中を移動する能力があり、その力で少女を迎え撃つ。


「はぁ…はぁ…」

攻防戦の末、両者は地へ降りた。

「なかなかやるな…

だがこれで終わりだ!!」

黒山羊の少女は、特大の紙飛行機を発射する。


「えぇい!!」

四乃はオラングタンの長い腕を叩きつけることで、攻撃を相殺した。


「クソッ、覚えていろ!」


「行っちゃった…」

ふと辺りを見下ろすと、有咲が息を引き取っているのに気がついた。


「やられてる!いつの間に!?

あちゃー!攻撃のときに、どさくさに紛れてやっちゃってたんだ!」


四乃はこう言いながら、スマートフォンで現場の写真を撮った。

「でも、証拠なら掴めたよ」


その後、落ちていた紙飛行機が消えた。


 後日…

「騒がしいわね…」

奈緒は、吹奏楽部員で溢れかえったクリーチャーガンハンター拠点の前を通りかかる。


「あんたが協力してくれないせいで、また一人死んだぞ!」

「有咲ちゃんは私のいいパートナーだったのに!」

「困ってる人も助けようとしないで、何が人を守る為の組織だ!ふざけんなよ!」

部員たちは、口々に抗議している。


「みなさん落ち着いてください!」

美久が部員たちを鎮めようとするが、効果はない。

「これが落ち着いてられられるかよ!」

「早く犯人を見つけてよ!!」


「うっとうしいヤツらだ…」

と、仁子。


「ちょっとアンタたち!

こんなに困ってる人たちがいるのよ!何で助けてやろうとしないの?」

「私は本当に困ってる人間しか助けない、そういう主義だ」


「仁子さん、気難しい人なんですよ

説得しようとしても聞きませんよ」

と、美久。

「まったく…

何でこんな人が、学校を守るための組織のリーダーなんかに…」


「みんな!!たたた大変だよ!!」

部員の一人が来た。

「どうした!?梨々香!」

「大変なの!宮村さんと野山さんと高梨さんが…!!

し…死んでる…」


その一言で、部員たちは静まり返った。


「犯人はすぐそこにいるってことか!?」

「こうしちゃいられない!行きましょう!!

どこですか!?その三人が殺されたって場所は!!」

「こっちです!」

一同は、部員に連れられて事件が起きたという場所に向かった。



 「あなたたちがいけないんだよ…」

屋上にて、三人の部員の死体を前に黒山羊の少女は呟いた。


一同が来るのを感じると、少女は消えた。


「これは…ひどい…」

「一体、誰がこんなことを…」

クリーチャーガンハンターの二人は言う。


「あなたたち、こんな事件といつも向き合ってるわけ?」

と、奈緒。

「ああ

しかし今回の被害者の規模は今までの比じゃない

どんどん手口が凶悪になってる気がする」


「私、他の部員たちに呼びかけてきます!」

美久は、仁子にこう告げた。

「おう!私は犯人を、一刻も早く見つけ出してやる

そしてぶっ潰す!こいつの力で!」


奈緒は考える。

「(あの人、一体何を抱えているの…?

そして…

壱はどこに行ったのよ!)」


その頃、壱は黒山羊の少女の後を追っていた。


「フフフ…

みんな、始末する…

私を見下す奴はみんな…

次はお前だ…稲葉果林!!」


To be continued…

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