第47話:惡緣【壱】
――焦る
「
啓は
焦りからか、手に汗がにじんでいく。
「あぁ、無駄だよ。ここのドアは少し特殊でね。僕じゃないと開かないんだ」
ぐい、と視線が
「それよりも聞いてくれよ、この部屋の作りを! モニターの表示は映画――活動写真の技術を改変したものだ。流石にフルカラーはできなかったけど、モノクロなら簡単だったね。そして脳波の測定は、
説明をするためだろう、
それを啓は見逃さなかった。
勢いよく銃を構える。
――
パン、と乾いた音が響く。
「……次は兄さんを狙うって、言っただろ」
撃たれた反動でふらついた
「っ、ふ、は、ハハハハハ!!」
狂ったような声を上げながら、
「啓は、
その瞬間。
啓の後ろのドアが、
――啓が予想した通り、部屋になだれ込むのは、大量の
しかし予想外のものがあった。
その列の後ろに、別の人影。
それは――大量の啓のコピーだった。
悪夢のような光景。
啓は飲み込めず、思わず立ちすくむ。
その間にも、
コピーの啓の一人を呼び寄せると、肩に手を回した後、その頭を撫でた。
「あのね、啓。外科医の話を少ししただろう。彼は優秀でね、『見た目を別の人間にそっくり作り変える』技術を持っていた。そして僕は、脳波で『中身を』変えられる。その結果――これだけ、僕と啓が生まれたんだ」
啓は部屋を見渡した。
ざっと数えてそれぞれ五十人ずつはいそうだ。
「この世界で幸せになれなくても――僕はいくらでも、幸せになる世界線を作り上げることができる」
コピーの啓から手が離される。
「どうする? 啓が諦めれば全ては収まる。金輪際関わらないって言うのなら、
周りの
啓は吐き気に襲われ、思わず口を押さえた。
「……お前は、本当に、気持ち悪い」
「っはぁ……歪んだ顔も可愛いね。啓」
啓に手が伸びてくる。
これは、そうだ。
――頭を、撫でる癖。
元の世界で最後に見た幻影――瞼の裏の幻影――に重なった。
しかし、あの時にはなかったものが、続いて流れ出す。
『相手をきちんと見て、向き合え』
『相手の強さや優秀さを正しく認めるのも大事だ』
出会った日の、
その意味が、啓の心のなかに、すとんと落ちた。
――そういう、ことだったのか。
啓は目の前の兄へ、まっすぐに向き合う。
兄は、優秀だ。
どれだけ啓が努力しても、手が届かなかった。
それを超せる身体能力も、脳の処理速度も、まだ身に付いていない。
下手に反抗すれば、何をされるか分からない。
それなら――どうする?
啓が導き出した答え。
それは、兄の隙ができる時。
啓は、ニヤリと口の端を歪めた。
「――こうすると、思ってた」
もう、体は固まらない。
啓は静かに、近くに置かれていたメスを掴み上げる。
そのまま無防備な
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