第46話:絡繰【伍】
銃口が
「嫌……だ」
しかし
目の前の友太は、再び柔らかい肌にナイフを沈めていく。
「……やめて!」
啓が叫んだ――その瞬間。
轟音が耳をつんざいた。
重機の駆動音のような、工事現場のような、割れるようなバリバリという音。
あまりの音量に、
啓も思わず耳を押さえた。
音は途中で、一気に音量を上げた。
何事かと啓が振り返ると、すぐ横の壁が突き破られた。
大きい
その正体が分からないまま、数部屋先の壁にぶつかって止まった。
その正体は――人間。
数十人の人間が、ひとかたまりになっていた。
その中には見覚えのある銀色のメッシュも光っている。
「
啓は慌てて、破れた壁をくぐり抜けて駆け寄った。
人のかたまりに巻き込まれたのだろう。友太もナイフを吹き飛ばされ、動きを止めていた。
数人の下敷きになっていた來良を、啓はなんとか引っ張り出す。
その体は今までにないほど、傷ついていた。
出血はひどくはないが、体を強く打ったのだろう、來良はぐったりとしている。
――息はしているが、反応が薄い。
目も、開いていない。
どう、しよう。
「死」の文字が脳裏に浮かび、啓の手が震え始める。
死なないで。
死なないで、一緒に帰るって言った。
だから、こんなところで――
すると、啓の後ろからため息が聞こえた。
「まったく、機械を勝手にいじっただろ。何人かオーバーヒートして、バグってるじゃないか」
振り返ると、呆れた顔の
「友人が倒せないからって、脳波の機械を
大きなため息をつきながら、
「起きたら弁償してもらわなきゃ。貯金と命でトントンかな」
「啓の記憶を変えるのも失敗したし、本当に散々だ。はぁ……一番大事な機械が壊れてないだけマシかな。ほら啓、行こうか」
行動からして、
『――力で勝つな、頭で勝て』
突然、來良の言葉が啓の脳内にリフレインした。
ここで下手に怒らせるのは、悪手だ。
取り乱すのだって、そう。
心を殺せ。
従順に従え。
――來良さんなら、そうするはずだ。
啓は冷静さを取り戻す。
一度だけ來良を見てから、
◇ ◇ ◇
來良たちが戦っていた場所と、ちょうど反対に位置する部屋。
病院のような匂いのする場所に、啓と
他の部屋とは異なり、石膏ボードのような壁で囲まれた部屋。
簡単に言うなら、小さめの保健室のような部屋だ。
窓もなく、薄暗い。
部屋の中央には、CTスキャンの機械に似た、ベッド型の機械。
周りには多くのコードが伸びていた。
啓は嫌な予感がして、じりじりと出入口に後ずさった。
「兄さん。なんでこんなところ、連れてきたの」
「はぁ……見当も付かないのかい。――やっぱり啓は馬鹿だねぇ」
にや、と笑うと、
「言っただろう、『啓の記憶を変えるのも失敗した』って」
「……まさかこの機械で、記憶を変えるなんて言わないよね」
啓がベッド型の機械を指さすと、
「へぇ、
「そんなこと、させると思う?」
啓はゆっくりと、ホルスターから銃を抜いた。
「へぇ。人のかたまりに飛ばされてたのに、いつの間に回収したんだい。随分と手が早いじゃないか」
「……來良さんの教えだよ」
「あぁ、やっぱりムカつくなぁ!
――隙だらけだ。
啓は怯むことなく、銃を構える。
カァン、と甲高い音が響く。
銃弾を受けたメスは勢いよく
「……次は兄さんを狙う。死にたくなかったらこの部屋から出せ!」
啓は
部屋に静寂が流れる。
――それを破ったのは、
「っ、可愛い。本っ当に可愛いねぇ、僕の妹は! 本当に馬鹿で、愛おしい!」
ゆらりと、
その顔は高揚でうっすらと赤く染まっていた。
笑みを浮かべた
部屋全体が暗闇に包まれる。
――たった一つ。
闇に浮かび上がるものがあった。
それは、ベッド型の機械に付いている、
「このベッドに人を固定させるのがどれだけ大変だと思う? 説得でも力づくでも、多大な労力には変わらない。そんな面倒、僕がするわけないじゃないか」
笑いながら、
その瞬間。
壁全体に大きな波形が映し出された。モノクロな波が、絶えず動いている。
「この部屋自体が、脳波の測定器なのさ。すでに啓は脳波を計測されて、改変され始めている。もう全部――遅いんだよ!」
呆気にとられる啓の視界に、身をよじらせて笑い続ける
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