第44話:絡繰【参】
操り人形の糸が切れたように、職員たちが一斉に崩れ落ちた。
「こんなこともできない、って――」
「この職員たちに何をした!」
「――そうか、啓は説明しないと分からないよね」
それは――嘲笑だ。
「こっちに来ても変わらなくて安心したよ。可愛くて
啓は体中の熱が、頭へ上っていくのを感じた。
震える手で拳を握っていると、温かい手に包まれ、一本一本丁寧にほどかれる。
啓が視線を向けると、そこでは
「啓。ペースを乱されるな。――よく観察しろ」
啓は怒りがすっと消えていくのを感じた。
そうだ。
目の前の人間を、しっかり見ろ。
観察して――向き合え。
心を静めながら、啓は目の前の人間をまっすぐに見つめる。
――啓の目からは光が消え、瞳孔は縦に長く伸びていく。
目の前の
しかし中身は、元の世界と全く変わらない。
誰にもひるまない、尊大な態度。
何があっても怯えない、強い覚悟。
常に啓を捉える、ドロドロとした視線。
――そして、嘲笑うように歪められた唇。
それはゆっくりと開き、隙間から小さい息が吐き出された。
「はぁ……その男に説明されるのは
――これは、怒りや焦りを抑える時のクセ。
やはり中身は「兄」なのだ。
煽られても、啓は
「僕たちは『脳波』だけでこの時代に移動した。つまり『脳波』を飛ばしたり受け取ったりする技術があるってことだ」
何度目かのため息も、
――暴力をふるう前は、ため息が増える。
――動きに、注意しないと。
啓はさらに集中を高め、目の前の男を観察した。
「ある人の『脳波』を測定し、保存しておく。それを他人に脳波を受信させれば、疑似的に人間を複製することができるんだよ」
「その実験に使ったある人が、
演技じみた動きで、
「顔はどうやって似せたのか、って思うだろう! 僕の仲間に優秀な外科医がいるからね、彼にやってもらっただけさ。あぁ、彼はもう帰ってしまったけど」
――感情のない、顔。
――この顔をしたら、まずい。
啓の心が危険信号を鳴らす。
――何をするか、分からない。
感情のない
「
柱の陰から、黑居の体よりも背の高い男が現れた。
センター分けの黒髪。
真っ黒な瞳。
真っ黒なスーツ。
――その胸ポケットには、政府の役人を示すバッジが付いていた。
來良に関係する人なのだろうか。
事態を飲めこめないまま、啓は來良を見る。
そこには、息を荒くした來良が立っていた。
「おいおい、アマネ。……お前は悪趣味どころじゃねぇ、最悪だ」
「ひどい言いようだね。体を治して、脳波も戻してあげたのはこの僕だよ? ――彼は僕の
來良は唇を噛みながら、目の前の大男に銃を向ける。
銃を握る手は珍しく、目に見えるほど震えていた。
「……体も脳も、お前のじゃねぇ……
地を這うような、來良の声が響く。
「こっちに飛ばされたまま死んだ――俺の
今までに見たことがないほど、來良の顔はひどく歪んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます