第2話 ある日の午後。陽だまりの中で(A Side)
「アウロアウロアウロおおおおおぉぉぉぉぉっ!」
白い廊下で子供のような声が響く。ような、というか実際その声を発しているのは子供だ。
はあ、とため息をつきながら廊下を支える柱の側で座りながら本を読んでいた俺――ちなみにアウロというのは俺――は、その本を閉じ、その子供に注意をした。
「うるさい、なんだ。それと廊下で大声を出すな。響いて周りの連中にも迷惑だろうが」
「だってぇ、久しぶりにアウロが帰ってきてくれたんだもんーっ」
俺の注意を無視して、その子供がお構いなしに俺に抱き着いてくる。全く、これだから、子供というのは。
「だからといって、周りに対しての迷惑行為はよくない」
もう一度そう注意すると、子供は、ちぇーっと口を尖らせた。
「せっかくアウロが帰って来てくれたのに……。あたし嬉しかったのに」
子供は悲しそうな声でそう呟く。今にも泣きだしてしまうかもしれない。
ああもう、面倒くさい。これだから子供は。
「サシャ」
俺はその子供の名前を呼んでやった。それにサシャも反応する。
「何?」
「とりあえず、少なくともここでは静かにしなさい。そうしたら後で遊んでやるから」
俺のその言葉にサシャは、悲しそうな顔から一変、顔をぱああああっと輝かせ嬉しそうにはしゃぎ出す。
「ほんとっ!?わーいっ!」
「本当だ。だから、とにかくはしゃぐのは」
「うん、わかった!アウロが遊んでくれるまで、違うところではしゃいでくる!」
「お、おう。まあそれでもいいが」
「じゃ、また後で、中庭でね!そこで待ってるから!約束よっ!」
そう言い終わらないうちにサシャは疾風のようにこの場から去っていった。
無邪気というのか、なんというのか。
とりあえず、静かになったのでよしとするか。
「約束……」
静かになった廊下で、俺は思わず今のサシャの言葉を繰り返す。
俺は約束というものが嫌いだった。なぜなら、だいたいそれは結局反故になるからだ。今まで俺は沢山の『約束』をしてきたが、それらは全て結局果たされることはなかった。
ふと、今までの出来事が脳裏に駆け巡る。
それはかつての仲間との会話。
『必ず、お互い生きて帰ろうな』
『お前は先に行け。なーに、俺も後ですぐに行くって』
『約束だ』
そう俺と約束した連中はどいつもこいつも結局……。
やめよう、こんなことを思い出したところで仕方がない。とにかく俺は約束に対してあまり良いイメージを持てなかった。
『約束よっ』
だが、サシャのは違う気がした。彼女との約束は普通に果たせるだろう。
それも当然か。だってサシャは今までの連中とは違って危険な戦地にいるわけではない。むしろそことは程遠すぎる。
安全な場所で暮らしてる彼女との約束なのだから、果たせないということはないだろう。
ふと外の空を見上げた。太陽が先ほどとは大分違う位置にあった。あれこれ思考を巡らせているうちに大分時間が経っていたようだ。もしかしたらサシャも中庭で大分待っているかもしれない。
早く中庭に行くか。なんで早く来てくれなかったの!と、また騒がれても嫌だし。
その場から立ち上がり、俺はサシャとの約束を果たすべく、すぐさま中庭へと向かった。
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